「MBG」でユーザー自身がホットスポットに──アイピーモバイルがサービスをデモ(1/2 ページ)

» 2006年11月21日 20時35分 公開
[ITmedia]

 2005年11月9日に、総務省から2GHz帯でTD-CDMA方式を用いた携帯電話サービスの免許を受けたアイピーモバイル(2005年11月の記事参照)。当初は2006年10月からサービスを開始する予定だったが、3GPPで標準化された10MHzの帯域を使用するシステムを導入し、通信速度を従来計画の2倍となる、下り最大11Mbpsに高速化してサービスを提供するため、スタート時期を2007年春に延期したのは既報の通り(7月28日の記事参照)。だが、アイピーモバイルが提供しようとしているサービスとは、一体どのようなものなのだろうか。

TD-CDMA方式とは?

 TD-CDMAは、NTTドコモやソフトバンクモバイルが採用しているW-CDMA、KDDIが採用しているCDMA2000などと並び、IMT-2000で3Gの規格として認められている通信方式の1つ。1990年代の初めに慶應義塾大学の中川正雄教授がTDD-CDMAとして発案した日本発の技術だ(2004年2月の記事参照)

 W-CDMAやCDMA2000が音声での通話を中心に考えられている、FDD方式の技術であるのに対し、TD-CDMAはデータ通信をメインに考えているTDD方式の技術という違いがある。なお、よく似た名称でTD-SCDMAという方式もあるが、こちらは中国が独自に開発した3Gの方式だ。

 FDD(Frequency Division Duplex)方式では、「周波数分割双方向伝送」と訳されることからも分かるとおり、上りと下りの通信に利用する周波数帯を、それぞれ個別に確保する。日本国内では、上りの帯域として1919.6M〜1980MHzが、下りの帯域として2110M〜2170MHzが割り当てられており、ガードバンドを挟んで、上下それぞれ60MHz幅が用いられている。

 一方TDD(Time Division Duplex)方式は、「時分割複信」と訳される。アイピーモバイルには2010M〜2025MHz帯が割り当てられた。データの送受信は時間軸をミリ秒単位で分割し、上り通信の時間帯と下り通信の時間帯に分けて行うため、上りと下りの通信は同一の周波数帯に割り当てられる。具体的には通信時間を15の“スロット”に分割しており、上りと下りに柔軟にスロットを割り当てられる仕組みとなっている。上りより下りに多くのスロットを割り当てることで、上りの最大伝送速度は遅くなるものの、下りの最大伝送速度を向上させることが可能だ。ちなみにアイピーモバイルでは、3スロットを制御に、残りの12スロットをデータ通信に用いる。

 さらにTD-CDMAでは、無線部分に共有チャンネルを利用することで、多数の端末を同時接続できるほか、端末間(アドホック)通信なども技術的には可能だ。

 アイピーモバイルでは、この技術を利用して、「いつでも、どこでも、移動中でも」ADSL並みのブロードバンド通信ができる環境を、リーズナブルな定額料金で提供しようとしている。現在多くのユーザーがPHSで行っているモバイルデータ通信を、Mbps単位に高速化しようというわけだ。ちなみに国内ではまだ商用化されていないものの、世界ではすでに23以上の事業者が商用サービスや商用トライアルを行っている。

アイピーモバイルが描くサービス像──“持ち運べるパーソナルなホットスポット”

 アイピーモバイルが目指すサービスは、データ通信市場に特化したものとなる。PHSや携帯電話などをモデムとして利用し、屋外や移動中にインターネットに接続しているユーザーや、携帯電話のインターネット接続サービスでは飽き足らないヘビーな携帯ネットユーザーなどがメインターゲットで、データ通信カードを用いた高速なインターネットアクセスを提供する。

 また低速なADSLで十分満足しているユーザーに、家の中以外でも同等の環境でネット接続ができることもアピールしていくほか、通信モジュールによる組込型のデータ通信市場も狙っていく。

 なお同社には音声サービスを提供する予定はない。Skypeなどに代表されるIP電話の技術を用いれば、音声による通話も不可能ではないが、音声もデータの1つとして扱うという方針だ。

 ちなみに現時点ではまだ開発中とのことだったが、サービス開始時にはCFカード型のデータ通信カードを用意する。これにより、最大10Mbps程度の高速通信を定額(金額は後述)で提供する。

PhotoPhoto デモはSIMカードが装着できるPCカード型の端末を用いて行われたが、2007年春のサービス開始時までにはCFカード型端末を用意し、下り最大10Mbpsの速度を実現したい考えだ。CFカード型端末にはSIMを組み込んだ状態で出荷するという

 ただ、アイピーモバイルが目指しているところは、単なるデータ通信カードによる高速インターネット接続ではない。同社は「モバイル・ブロードバンド・ゲートウェイ」(MBG)というコンセプトモデルを掲げており、近い将来、TD-CDMAネットワークが定額で利用できる、持ち運びも可能な小型の無線LAN(Wi-Fi)アクセスポイントを提供する計画だ。

 このMBG、現在の試作機は10センチ四方より少し大きいが、ゆくゆくは手のひらに乗るサイズまで小型化する。しかも、アイピーモバイルと1回線の契約を結ぶだけで、Wi-Fi接続に対応した機器がすべてMBGを経由してインターネットに接続可能になる。同社がコーポレートメッセージとしてうたう「ポケットの中のブロードバンド」は夢物語ではない。

Photo 左が現在のMBGの試作機、右はMBGのイメージモックアップ。試作機はバッテリーが体積の大きな部分を占めているが、これをカバンに入れておけば、アイピーモバイルのサービスエリアならどこででも無線LAN機器でインターネットに接続できる

 ちなみにADSLなどの代替用途としてモデム型(ブロードバンドルータ型)の端末や、M2M(Machine to Machine)向けの組み込み型端末、ウィルコムSIM(W-SIM)のような、デジタルデバイスメーカーが簡単に製品に組み込める汎用モジュール型端末も用意する。

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