インタビュー
» 2007年05月02日 23時00分 UPDATE

開発陣に聞くウォークマンケータイ「W880」:開発コード名は“愛”──ソニエリ「W880」が生まれた理由(後編) (1/2)

世界中から注目を浴びたSony Ericssonのウォークマンケータイ「W880」。その美しいボディは、PVDコーティングという特別な塗装によって実現した。また全世界に向けて出荷する端末には、各地域向けのカスタマイズ作業もあり、端末を無事出荷するまでには数々の困難があったという。

[青山祐介,ITmedia]

 Sony Ericsson Mobile Communicationsがワールドワイドで展開しているウォークマンケータイ「W880」は、厚さわずか9.4ミリのボディにウォークマンケータイとしての機能を凝縮した人気モデル。この端末は、日本の開発チームが手がけている。

Photo ウォークマンケータイ「W880」。左がFlame Black、右がSteel Silver

 W880は、最先端の機能を詰め込みながらも厚く大きな携帯になってしまい、ビジネスとしてはあまり成功しなかった「W900」の悔しい思いをバネにして開発された端末。開発陣が、薄さへのアプローチで“これをやったらすごいんじゃないか”と思いついたアイデアを、端末に反映させて誕生したものだ(4月20日の記事参照)。高級感あふれる、繊細なヘアライン仕上げのフロントパネルを持った、世界最薄のウォークマンケータイは、世界各地で人気を博しているという。

 W880の開発プロジェクトでは、その薄さもさることながら、独特のボディカラーを実現するための苦労や、世界各地に向けてカスタマイズした端末を出荷するという、グローバルモデルならではの難しさもあった。後編となる今回は、W880のデザインと、その出荷に携わるRTL(Ready to Launch)という仕事について、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズのGU部門(GMS UMTS部門)でプロダクトマネジメントを担当した瀬尾氏と、R&D担当の青木氏、そしてRTLを担当した片山氏に聞いた。

Photo 左からソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズのGU部門(GMS UMTS部門)でRTL(Ready to Launch)を担当した片山氏、プロダクトマネジメントを担当した瀬尾氏と、R&D担当の青木氏

前面パネルはPVDコーティングでシャープさを演出

 W880のデザインをとても印象深くしているのは、美しく輝くステンレス製の前面パネルだ。ステンレスパネルは、ボディを薄くしつつ強度を保つのに有効な素材で、W880を企画した当時、すでにモトローラが「MOTORAZR」などで採用していた。W880のプロジェクトチームでも、ステンレスパネルを採用した製品開発に挑戦することはすぐに決まったという。

 しかし、実際にステンレスパネルを採用した端末を量産するにあたっては、色が付けにくい点や、仕上げに対する歩留まりがよくない点など、解決しなくてはならない問題があった。そのため開発スタッフは、中国の工場に常駐して品質を確保した。

Photo ステンレス製の前面パネルにはPVDコーティングを用いて色を付けている

 ステンレス製フロントパネルにはPVDコーティングという方法で色を付けている。ステンレス素材に一般的な塗装を施すと、使っているうちにはがれてきたり、角の部分に塗料がボテッと溜まったりしてシャープさが損なわれるという問題があり、それを解決するためにPVDコーティングを採用した。

 PVDコーティングは蒸着に近い塗装法だ。窒素ガスの中に金属粉を入れて放電することで、ステンレスの表面に金属粉を化学的に蓄積させる。この方法では放電時間や金属粉の種類、窒素ガスの濃度といった要素が密接に絡み合って色が変わる。そのため希望の色を出すために試行錯誤を繰り返した。今でもFlame BlackとSteel Silver以外の色が作れないか、さまざまな試みを行っているそうだ。

ギリギリのタイミングで追加されたFlame Black

 ちなみにFlame Blackの黒を実現するには、Steel Silverの銀色の2倍の時間がかかったという。それでもなお採用に至ったのは、全世界からの熱い期待があったからだ。

Photo プロダクトマネジメントを担当した瀬尾氏

 もともとW880は、Steel Silverのみで展開する予定で、生産予定数量も当初はそれほど多くなかった。しかし、W880のプロジェクトが進行するにつれ、次第にW880にかかる期待と注目がSony Ericssonの社内で高まっていったという。そしてどうやらW880が本当に製品化できそうだと分かってくると、商品企画部門から「ぜひもう1色」という要求が出てきた。

 「具体的は数字は言えないのですが、最終的な注文の量は、東京のメンバーがかつて経験したことがない数でした。そこに至る前の段階でも、相当の数を全世界にスケジュール通り出荷しなくてはいけないという状況でした。そんな中で、プロジェクトの途中で新しいカラーバリエーションを追加するという決断を下すのには、本当に勇気がいりました」(瀬尾氏)

Photo R&Dを担当した青木氏

 「PVDは色が出にくいということは分かっていました。もう1色を追加するにあたって、黒だったらできるかもしれないという思いはありましたが、実際にやってみないことにはなんとも言えない状況でした。また、色は出せても量産できなかったらどうしようという不安もありました。しかし、やるしかないと覚悟して、メカの設計担当に“これ(黒)をやろう”と指示をしました」(青木氏)

 Flame Blackの追加を決断したあとも、W880に対する期待はどんどん高まっていった。最終的にはモバイルウォークマンのイメージを打ち出し、2007年の初頭から全世界で他のプロダクトも引っ張っていくSony Ericssonのフラッグシップモデルに位置づけられた。

 ウォークマンケータイのシンボルカラーである鮮やかなオレンジ色と、黒いステンレスパネルを組み合わせたFlame Blackは、Steel Silverよりも人気が高く、ラインアップにFlame Blackを加えたところ、Flame Blackの注文が急激に増え、全出荷数量の中に占めるFlame Blackの比率がどんどん上がっていったという。「我々のプレッシャーもどんどん上がっていきました。ここまでくると“やっぱりできません”とは絶対言えなくなりました」(青木氏)

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