キーワードは“洗練”――三菱電機が抱くスライド端末へのこだわり「D904i」開発陣インタビュー(1/2 ページ)

» 2007年06月08日 11時00分 公開
[遠藤学,ITmedia]

 三菱電機製の「D904i」は、本体の傾きを検知するモーションコントロールセンサー(加速度センサー)を内蔵したスライド端末だ。

 「D901iS」から続けていたワンプッシュオープンボタンの代わりに、新機構「アシストスライド」を採用し、厚さは「D90xi」シリーズ最薄となる16.8ミリを実現。細かい部分では、カメラのレンズカバーやスライド式のイヤフォンジャックにも手を加えることで、凹凸のあまりないフラットなデザインに仕上げている。

 2.8インチの大画面やスライドボディ、くるくる回して操作できる「スピードセレクター」など、これまでの“D端末らしさ”を残しつつ、さまざまな変化を遂げたD904iは、どのようにして生まれたのか。三菱電機 NTT事業部 NTT第三部 第二課 担当課長の荻田良平氏、情報システムデザイン部 情報第2グループ 専任の谷田川智弘氏に話を聞いた。

photo (左から)三菱電機 NTT事業部 NTT第三部 第二課 担当課長の荻田良平氏、情報システムデザイン部 情報第2グループ 専任の谷田川智弘氏

“スライドのさらなる進化”目指して

 「スライド端末をさらに進化させようと取り組んだ」──荻田氏は、D904iのコンセプトをこのように振り返る。スライド端末のメリットの1つに、各種機能にすぐアクセスできることが挙げられるが、そこからさらに一歩進め、アクセスした後の使い勝手を追求したのがD904iなのだという。

 「スライドの進化とは何かを議論した際、まず薄型化が挙がった。ただそれとは別に、縦横の画面の切り替えなど、ボタンを使わずにスムーズな切り替えが行えるようにしたい、使い勝手を改善したいという声もあった。そのための仕掛けとして浮かんだのがモーションコントロールセンサー。ゲーム機などに搭載されたことで、操作そのものの面白さが市場に受け入れられてきており、まだ目新しさもある。端末の操作にも直感的な分かりやすさ、新しい切り口を加えられると考えた」(荻田氏)

 任天堂の「Wii」やソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション 3」に加速度センサーが採用され、広く一般に普及したことを考えるとタイミングは悪くない。また三菱電機は、過去に加速度センサー搭載端末を発売した実績がある(2004年5月の記事参照)。「ここまでアプリケーションと密接に作り込んだのは初めて」(荻田氏)とのことだが、どのようなものかが分かっているだけに、採用への不安や抵抗は少なかったようだ。

 モーションコントロールセンサーが対応する機能は、ビデオクリップ、フルブラウザ、ドキュメントビューアー、インテリア時計、ミュージック、メール、マチキャラ、直感ゲームの8つ。ビデオクリップ再生中に左に傾ければ自動で横画面表示に切り替わる、メール受信画面では携帯を左右に2回振るとメール本文をダイレクトに表示する、ミュージック再生中には上下に2回振ると前曲戻しを行う──といったように、端末を振って操作したり、傾けて横画面表示にしたりすることが可能だ(モーションコントロールセンサー利用時の動画はこちらから)。

 「昨今、横画面で表示できる機能が増えてくる中で、縦画面から横画面への切り替えをスムーズにしたかった。マチキャラも、これまでは待受画面上の動いているキャラクターを見ているだけのものだったが、ユーザーからもアクションを加えられるようにした。端末を振ると目を回したり、横にすると転がっていったりと、マチキャラとのコミュニケーションが楽しめる」(荻田氏)

 どの程度の動きで機能を働かせるかなど、加速度センサーは調整が難しいと言われる。このため、試作機はかなり作ったと荻田氏。自分の好みに合わせて振り幅などをチューニングすることはできないが、モーションコントロール設定(「Menu」→「設定/NWサービス」→「時計/文字入力/その他」)の画面にトレーニング機能を用意することで、実際にどれくらい振れば反応するかが試せるようになっている。

photophotophoto 各機能におけるモーションコントロールセンサーのオン/オフは設定画面で行う。左上ソフトキー(Menu)を押せばモーションコントロールセンサーの水平補正を実行し、左上ソフトキー(スピードメニュー)を押せば操作説明が読める

ワンプッシュオープンがなくなった理由

photo D904iの左側面。おなじみのワンプッシュオープンボタンはない

 ワンプッシュオープンではなく、ディスプレイ部を指で押し上げるとダイヤルキーが現れるアシストスライドになったのも、D904iの大きな変更点だろう。これまでD端末を使用してきたユーザーにとっては、ある意味で最も大きな出来事かもしれない。他メーカーのスライド端末との差別化を図っていた部分でもあるだけに、変更理由は気になるところだ。

 「ワンプッシュオープンは端末を開けやすいものの、ボタンの位置や利き手により操作感が変わってしまうという問題があった。また開けるバネが強い分、閉める方向に関してはバネの抵抗がある。開けやすさを継承しつつ、閉めやすくするにはどうしたらいいかを考え、アシストスライドを採用することに決めた」(荻田氏)

 「アシストスライドは、これまでスライド端末を使ったことがない人でも開けられる。ワンプッシュオープンを初採用した時は分からない人も多かったようで、無理やりこじ開けようとする人も見かけた。ワンプッシュオープンにもいい面はあるが、汎用性が高いのはアシストスライドだと考えた」(谷田川氏)

 「D902iS」とD903iのワンプッシュオープンボタンの位置は異なるが、使いやすくなった、使いにくくなったという意見は人によって分かれる。手の大きさや利き手に左右されないアシストスライドは、確かに万人向けだろう。

photophoto D902iS(左)とD903i(右)。ワンプッシュオープンボタンの位置は異なる

 アシストスライドへの変更理由に薄型化はなかったのか。荻田氏は「薄くしていく中で、ある程度の大きさのボタンを配置するスペースを確保するには限界がある」としながらも、「構造上の問題で言えば、明らかにどちらが小さい、大きいということはない。むしろアシストスライドのほうが厚み的には若干厳しくなる。D904iで16.8ミリを実現できたのは、アシストスライドにしたからではない」と話す。

 ただし、ワンプッシュオープンではなくなる不安やプレッシャーもあったようで、社内で気持ちいいスライドの操作感とはどういうものかを徹底的に調査し、“低荷重”“低衝撃”“低騒音”の3拍子そろった操作感を目指したという。

 「機構設計チームは最初に目標となる試作機を作り、そこからとにかくチューニングを施したと聞いている。低衝撃、低騒音、低荷重のスライドはユーザーも望むもので、閉じる時の抵抗感やワンプッシュオープンで端末を開ける時に鳴る“カシャッ”という音などをなくした」(荻田氏)

 次モデルでワンプッシュオープンボタンに戻す可能性については、「基本的にはスライドの使い勝手をよくしようとアシストスライドを取り入れたので、この路線を続けていく。ただユーザーの声は無視できないので、発売後の様子を見てからの判断となる。アシストスライドからさらに変化する可能性もあるかもしれませんよ」(荻田氏)と含みを持たせた。

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