女性にも防水ケータイを──カシオのカジュアル防水「W52CA」が生まれた理由開発者に聞く「W52CA」(2/2 ページ)

» 2007年07月03日 22時47分 公開
[園部修,ITmedia]
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防水機能とワンセグをW41CAのサイズに凝縮するための工夫

 W41CA並みのサイズで防水ワンセグ携帯を作る──。この一見無謀にも思える目標を達成するため、機構設計を担当した開発設計本部の加藤氏は、ダイヤルキー側の筐体だけで9つの特許を申請することになるほど、さまざまな処理方法を考案することになった。

 特にワンセグ用のアンテナの処理は、小型化する上で大変だったと加藤氏は振り返る。一般的なワンセグ端末に装備されている収納型のアンテナをそのまま防水仕様にするにはかなりの空間が必要になるため、採用は見送られた。C303CAなどの過去のストレート端末で、収納型アンテナを装備すると端末が大きくなることは分かっていたからだ。

 そこで搭載されたのが外付けタイプのホイップアンテナだ。このアンテナは伸縮せず、ボディ側面に埋め込むように格納されており、ワンセグ視聴時にボディから引き出して利用する。当初このアンテナは、幅49ミリのボディからはみ出す形で搭載される可能性もあったそうだが、やはりアンテナ込みで幅49ミリを実現すべく、ボディ側面に埋め込まれることになった。

 このアンテナ部と平型イヤフォン端子、そして各種ボタンの配置は、ボディ右側面をデザインする上で非常に苦慮した点だったと杉岡氏は言う。「これらのパーツをどういう位置関係で並べれば、イヤフォンを接続してキー操作もでき、ワンセグも見られるか。さまざまな可能性を考えて配置やデザインをあれこれ考えました。どのくらいならこれらを寄せられるのか、どれくらい離せばいいのかといったことは、機構設計の技術者とかなりいろいろやり取りしました」(杉岡氏) こうして、斜めに開くイヤフォン端子のカバーが誕生した。

Photo 右側面のアンテナとイヤフォン端子、そしてボタンの配置には特に苦労したという

 また、水の侵入を防ぐパッキンの処理にも工夫を凝らした。パッキンは押しつぶす力と跳ね返す力(反力)を利用してパーツ間のすき間をふさぐわけだが、端末を小型化/薄型化するためには、この反力を抑える必要がある。反力が大きいと、押しつぶす力も大きくする必要があり、筐体が大きくなってしまうからだ。特に、単純に筐体を裏と表から押しつけてしまうとパッキンの反力は大きくなる。そこでW52CAでは、パーツを組み合わせたすき間の部分などを利用して横方向で圧縮する仕組みにして解決したという。

 ちなみにG'zOne W42CAは、筐体を裏と表から押しつける形を採用したので、ディスプレイ側筐体の側面をネジで止める必要があった。W52CAは反力を抑えることに成功したため、ネジも不要になり、結果的に大幅な薄型化を実現している。さらに、ディスプレイ面のパーツには2色成型を用いたことで、ディスプレイの保護パーツとボディパーツを止める両面テープを不要にした。テープを貼るスペースやテープの厚さも削ることができたため、ディスプレイ側筐体は一般的な端末と遜色ない厚さに抑えられている。

PhotoPhoto G'zOne W42CAでは、ディスプレイ側筐体の側面をネジ止めする必要があったが、W52CAではネジも不要な設計を採用し、薄型化を実現した

危うかった2.6インチディスプレイの搭載

 幅49ミリへのこだわりは、ディスプレイを設計する場面にも影響を及ぼした。防水を実現した上で、ディスプレイ部の幅を49ミリに収める場合、従来の方法では2.4インチのワイドQVGAほどのパネルくらいしか搭載できなかった。

 「なんとか幅を49ミリ以下にするために、2.4インチのワイドQVGA液晶パネルを新規に開発しようという話もありました。最初は、防水になったのでディスプレイがやや小さくなってもやむを得ないという考え方もあったのです。しかしそれは我々の勝手な都合であって、ユーザーに対してそれを強いてはいけないと考え直しました。最終的には2.6インチのワイドQVGAディスプレイを搭載することになりました」(甫足氏)

 薄型化の項でも触れたとおり、液晶の保護パネル部分に2色成型を採用したことで、内部の構造にも多少のゆとりができた。そこになんとか2.6インチのワイドQVGAディスプレイを組み込めたときにはチーム全員がほっとしたという。

PhotoPhoto ディスプレイは当初2.4インチのワイドQVGA液晶が搭載される可能性もあったが、なんとか2.6インチを実現した。ディスプレイ面は2色成型を採用している。背面の一部には水が入る仕様で、入った水が流れ出やすいよう、細長い溝が多数用意されている

 またバッテリーカバーは、耐衝撃性を考慮しなくていいため、G'zOne W42CAのようなネジ止めではなく、密封容器のフタのようにぴったりと取り付ける形を採用した。これによっても若干の薄型化を可能にしている。このカバーは、着脱の際に少々ねじってこじ開けるようにして外す必要があるが、これは落としたときに簡単にカバーが外れないようにしたためだ。一般的なスライド式のカバーでは、端末を落としたときに容易に外れてしまう。

 「端末が水ぬれするのはたいてい落としたときなので、落としてしまってもある程度は問題ないようにしておく必要がありました。着脱のしやすさという点ではスライド式のバッテリーカバーに劣りますが、この形が一番強い形なのです」(加藤氏)

Photo バッテリーカバーは“タッパーウェア”のような密封容器風に閉じることで防水を実現する。

 加藤氏によれば、故障した端末を検証すると、水没や水ぬれによる故障が必ず一定のパーセンテージで存在するという。防水機能を備えることで、水没や水ぬれに対して強くできれば、ずいぶん使い勝手がよくなることは間違いない。実際、G'zOne TYPE-Rは故障で戻ってくることがほとんどなかったそうだ。「防水を実現するだけで、全体の不良率が下がってくることは容易に予想できます」(同氏)

 G'zOneからずっと防水端末を手がけ、防水に関しては先駆者的な役割を果たしているカシオ計算機。加藤氏は、「各社から防水端末が出てきているが、他社には負けない技術をこれからも入れていきたいと思っています。いつも先駆者でありたいですね」と話していた。

Photo

デザインにも女性を意識したこだわり

Photo カシオ計算機 開発本部デザインセンター 第四デザイン室の杉岡忍氏

 今回ラインアップされたW52CAのカラーバリエーションは、夏らしいさわやかな色合いとなっているが、この部分にもデザイナーのこだわりがある。

 「デザインコンセプトは“Natural Life”です。商品コンセプトとして、女性ターゲットにすること、そして利用シーンとしてキッチンやお風呂など、清潔感を感じる場所が多かったので、自然にあるような、すがすがしく清らかなイメージになるようカラーリングを施しています」(杉岡氏)

 色の名前もコライユグリーン、プラージュホワイト、パルミエブラウンと、今まであまり聞いたことのない名称だが、いずれも夏を思わせるフランス語を頭に冠している。コライユ(Corail)はサンゴ、プラージュ(Plage)は浜辺、パルミエ(Palmier)はヤシを意味する。これらの名称は、デザインチームでイメージキーワードとして出し合い決定したという。いずれもさわやかな印象や世界観が見えるような名前を意識している。

Photo ボディカラーには夏を思わせるヤシ、サンゴ、浜辺を意味するフランス語を冠している。左からパルミエブラウン、コライユグリーン、プラージュホワイト

 メインターゲットが女性とはいえ、男女を問わず手にとってもらえる形状で、清潔感のあるものを目指したと杉岡氏。「早く女性が実際に使っているシーンを見てみたいですね。男性でもこういうクリーンな印象のもので、生活が広がっていく雰囲気を味わっていただければ。お風呂でもキッチンでも、すごく身近な存在として使ってほしいです」(杉岡氏)

 G'zOneシリーズとはまた別の、カジュアルな防水携帯の形を提示したカシオ計算機。G'zOneのタフさに魅力を感じていたユーザーの中には、“G'zOneがこんな携帯になってしまった”とがっかりしている人もいるという話を耳にするが、開発陣いわく「これはG'zOneとはまったく違うラインの端末」とのこと。G'zOneシリーズはG'zOneシリーズで、またいずれ企画される可能性はありそうだ。

PhotoPhoto 付属のクレードルは、端末のダイヤルキー側ケースとデザインを合わせてある。ユーザーの利便性を考慮し、同社の防水端末としては初めてUSB対応のクレードルを用意している
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