どうぞご心配なく――“エイリアン夏野”が明かすドコモの次世代戦略Swedish ICT/Wireless Technology Conference

» 2007年11月16日 10時00分 公開
[平賀洋一,ITmedia]
photo NTTドコモ 執行役員 マルチメディアサービス部長 夏野剛氏

 11月14日に開かれたSwedish ICT/Wireless Technology Conferenceに、NTTドコモ執行役員の夏野剛氏が出席。ドコモのこれまでの取り組みと、おサイフケータイやDCMXなど、次世代を踏まえたドコモのモバイルビジネスのあり方について講演を行った。

 「NTTドコモに入社して今年で10年、iモードを始めて8年。これまで一貫して社内では“エイリアン”でした」と、社内での異端ぶりをうかがわせる自己紹介を行った夏野氏は講演の冒頭、「最近ドコモは元気がないなどと言われ、今にも死にそうと報道されているが、依然として5000万件を超える契約数を持ち、前期は7800億を超える(営業)利益を見込んでいる。利益率も高い。どうぞご心配なく」とコメント。続いて、ドコモが確固たる地位を築いた、90年代後半の携帯電話の爆発的な普及を果たした理由を説明した。

“クレイジーな上司”に言われて立ち上げたiモード

 「90年代初め、ドコモの契約数は100万回線程度だった。この時代の携帯電話は保証金を積んでキャリアから借りるもので、誰でも手にできるものではなかった。ドコモも“変な名前の会社”という程度の認識だった。これが一気に普及したのは、端末の売り切り制への転換と、0円端末など販売奨励金によるビジネスモデルの変革があったから。このおかげで学生さんでもケータイを手にすることができた」(夏野氏)

 当時ドコモは、2500万件近い回線契約を確保。音声通話中心の市場で急激に加入者を伸ばしたため、音声をヘビーに使うハイARPUユーザー、つまり“おいしい顧客”がこれ以上増えないという事態を迎えた。「携帯電話は90年代後半に“コミュニケーションインフラ”として完成した。しかし、これ以上のARPUが望めなくなると、企業としての成長性も望めなくなる。そこで、当時のクレイジーな上司が自分に“データ通信サービスを立ち上げろ”とiモードの企画を指示した」(夏野氏)

photophoto 音声通話に続き、iモードでモバイルデータ通信で確固たる地位を築いたドコモ。次世代サービスは「おサイフケータイ」を軸にライフスタイルインフラを目指す(左)。IT・インターネットビジネスの世界にはさまざまなプレーヤーが存在する(右)

 ドコモがiモードを1999年に開始して8年。2007年10月末のiモード契約数は4777万件を超えており、ドコモユーザーの約9割が使用するサービスに成長した。

 「iモードは日本人の約4割が使うプラットフォームになった。iモードメールは全ユーザー平均で1日4通送っており、5通受け取っている。当然、10代20代なら日に20通以上送受信している人もいるし、60歳代のユーザーであれば月に2通しか受け取らない人もいる。いずれにしても、データ通信サービスが全世代に普及し、ARPUの“R”(Revenue:収益)の定義が広がり、ビジネスの骨格が広がったと解釈できる」(夏野氏)

 夏野氏は、iモードなどのモバイルマルチメディアの登場で携帯電話がコミュニケーションインフラから“ITインフラ”へと変わったと解説。また、iモードの普及に対し一部から、“日本はブロードバンド後進国でITリテラシーが低いため”という指摘があったことにも触れ、「確かにiモードを開始した1999年ごろの日本はブロードバンド後進国だった。しかし、孫さん(孫正義氏:ソフトバンク代表取締役社長)がYahoo!BBでADSL事業に参入したことをきっかけに、日本は一気にブロードバンド先進国となり、ITリテラシーも上がった。ところが、iモード加入者は減っておらず、トラフィックも増え、コンテンツも売れている」と述べ、この指摘が間違ったものであるという考えを示した。

ドコモの収益を再度拡大するおサイフケータイ

 依然成長を続けるiモードだが、普及率はドコモユーザーの9割を超えており“あって当たり前”の存在になっている。夏野氏は、ドコモは収益面を再度拡大する時期に入っていると話すが、それはコンテンツによるものではないと続けた。

 「ドコモがiモードを開始した時、自分たちでコンテンツを提供して収益を得ることを最小限にした。その結果、インターネットの世界にある無数のコンテンツプロバイダーと携帯電話をiモードで結びつけることで、インセンティブをかき立て、普及を速めることができた。2006年度のiモード公式サイトの売上は約2000億円で、そのうちドコモの収入になったのは9%の180億円。これでも非常に大きな金額で、僕の給料をもう5倍にしていいくらい。ただ、仮にこのパーセンテージを50%にしても1000億円しかもうからない。ところがiモードのトラフィックからは1兆2000億円の売り上げがあった。僕の給料をもう500倍にしていいくらい」

 iモードで新たな収益を確保したドコモは、直接コンテンツを売るのではなく、自身の介入を控えてインフラを提供し、普及を促進した。しかし、その市場も飽和目前にあるため、2004年からは次なるビジネスモデルの「おサイフケータイ」を開始した。この場合も、ドコモが直接サービスを提供し収益を得る機会は最小限で、あくまでインフラを提供するというスタンスを守っている。

 「音声通信とデータ通信の次は、リアルな決済の場から手数料をいただこうと思う。おサイフケータイからどうやって収益を上げるかはさまざまで、直接取る場合はDCMXやiDのようなクレジットサービスがある。携帯電話をライフスタイルインフラにすることで、ユーザーニーズにも応えられるだろう」(夏野氏)

photophoto IT・インターネットビジネスの市場では、もともとのビジネス層を超えてバリューチェーンを構成しロックイン効果によりユーザーを取り込む動きが加速している(左)。ドコモは“リアル”なライフスタイルシーンを商圏とすることで、収益を拡大する考えだ(右)

ドコモが次世代サービスで目指すもの

 次々と携帯電話に関する新たなインフラを作ることで成長してきたドコモ。そのサービスはネットワークやITの世界を飛び出し、生活の場へと移ってきている。その次世代サービスで目指すのは、いかにバリューチェーンを生み出すかにあるという。

 「ITの世界には、PCがありPDAがあり携帯電話がある。また、インターネットへ接続する固定のISPがあり、無線LANサービスがある。iモードというのは、携帯電話向けのISPを設けて、モバイルからネットへ接続できるようにしただけ。ただ、課金システムやロケーションサービスなど、携帯電話のサービスとして価値を高める仕組みは設けた。よく、このまま携帯電話を進化させて“PCをやっつけるのか”とか“PCをしのぐ存在にするのか”と聞かれるが、そんな気はさらさらない。そんなことは、われわれの事業スコープには入ってない」(夏野氏)

 iモードは、携帯端末とインターネットゲートウェイ、ネットワーク、そしてコンテンツを結びつけて、うまく利用できるように調整してバリューチェーンを生み出した。夏野氏は「ITの世界には、PCやPDA、インターネット、無線LANと別々にビジネスを行うプレーヤーが多数おり、マイクロソフトやヤフーはビジネス層を超える一貫したサービスを提供してロックイン効果を狙っている。もともとの市場を超えてバリューチェーンを生み出すのがこれからの潮流だろう」と語り、小さくてバッテリーが持ち、常時ネットワークにもつながって課金システムも整っている携帯電話の特性を生かす、新たなバリューチェーンを、ライフスタイルの面で作り出すと述べた。

 「今携帯電話があれば、自動販売機でコカ・コーラが買え、改札を通ることができ飛行機にも乗れる。コンビニで買い物ができ、キオスク端末から情報を得られ、PCとつながり、テレビの予約録画もできる。1つのハードでこれだけのことができる唯一無二の存在になったからには、さらに進化させて新たなトランザクションを生み出したい」(夏野氏)

 夏野氏は、日本の携帯市場は決して遅れているのではなく、特異な進化を遂げただけと話し、世界で起きた携帯電話市場のトレンドが日本から発生していると述べた。

 「日本独自の技術も多いが、世界の規範となる、モデルケースになるような進んだ携帯電話を開発したい。FeliCaやBluetooth、IrDAなどの技術は目的を達成するための手段であって、それぞれにこだわりがあるわけではない。汎用性のある規格を用いるべきだと思う」(夏野氏)

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