“N”の変革は第2楽章へ――脱80点主義でトップ奪回を目指すNEC

» 2007年11月22日 23時59分 公開
[平賀洋一,ITmedia]

 ハイエンド端末のシェアを広げ、なんとしても国内市場でトップに立ちたい――。NECは11月21日、発売を控えたNTTドコモ向けFOMA端末の製品説明会を開催した。秋冬モデルに“ライフスタイルパートナー”という開発コンセプトを掲げ、ユーザーニーズと端末購入方法の多様化に対応する。

 11月末に発売されるNECの905iシリーズは2機種をラインアップする。「N905i」は、ダブル補正付き5.2Mカメラ+ヤマハサウンドによる高音質ワンセグを搭載したハイスペックモデル。一方「N905iμ」は、90x系のハイエンド端末ながら12.9ミリのスリムボディに、ラグジュアリーな背面パネルを採用したエレガント端末だ。基本的なソフト面の仕様はほぼ共通ながら、“多機能”と“シンプルでスリム”という両極端の製品を同時に展開し、“N”端末で多彩なユーザー層の囲い込みを狙う。

「N905i」
「N905iμ」

好みは十人百色、3つのアプローチで新しいNケータイを創造

photo NEC クリエイティブスタジオの佐藤氏

 NEC クリエイティブスタジオでチーフクリエイティブディレクターを務める佐藤敏明氏は、同社秋冬モデルのコンセプトについて「ライフスタイルパートナーというコンセプトは、常にユーザーの手元にあるケータイを使って、より豊かな生活を送ってほしいという願いを込めたもの。個性の多様化がうたわれているが、ユーザーの価値観は十人十色ではなく、十人百色だ。先日発表したN905i/N905iμ/N705i/N705iμの4機種は“リッチ”“ファッション”“ウェアラブル”のキーワードで表現でき、それぞれ違うユーザー層をターゲットにしている」と説明する。

 リッチとは機能の充実度、ファションとはデザイン性、ウェアラブルはサイズを含む持ちやすさを指す。N905iは多機能とデザイン性を求める層、N905iμは持ちやすいサイズと多機能の両方を求める層がメインターゲットだ。705iシリーズでは、“amadanaケータイ”「N705i」がデザイン性に加え機能を求める層、「N705iμ」はスリムでデザイン性の高い端末を求めるユーザーを対象にしている。

NECの秋冬モデル4機種は“リッチ”“ファッション”“ウェアラブル”のバランスで表現できる(左)。“人・感・匠”マトリクスにプロットした4機種(中央左)。NECクリエイティブスタジオのミッションは、端末開発からプロモーションまで多岐に渡る(中央右、右)

 しかしこうしたユーザー像は、ライフスタイルの変化や他社製品の存在により日々変化する。好みが多様化し、これからも細分化していく市場でいかに自社の端末をアピールするのか。

 佐藤氏はクリエイティブスタジオの役割について「企画やデザインはもちろん、プロモーションや効率的なユーザーとのコミュニケーションも我々のミッション」と述べ、デザイン/商品展開/コミュニケーション開発という3つのアプローチで新しいNケータイの価値を創造したいという意気込みを語った。

 さらにクリエイティブスタジオを設立してからの1年半を、「最初は企画担当の5人だけで、我々は何ができるのかを議論した。その後、デザイン、GUI開発、コンテンツ企画、プロモーションとコミュニケーション担当の部隊が加わり、トータルデザインをいかにユーザーに発信していくか、またユーザーといかにコミュニケーションをとるかに取り組んできた」(佐藤氏)と振り返った。

 「携帯開発はNECグループすべてを使ったプロジェクト。技術開発についてはオールNEC体制で、NECの持つ多様な可能性を探していきたい。N904iがクリエイティブスタジオの第1楽章であるなら、N905iとN905iμは第2楽章。現在は第3〜4楽章の戦略を練っている」(佐藤氏)

端末の差別化は、“全部入り”と“割賦販売”がポイント

photo NEC モバイルターミナル事業部の大澤氏

 企画端末を除くドコモの905iシリーズは、全機種とも3インチオーバーのフルワイドVGA液晶ディスプレイ、HSDPA、ワンセグ、国際ローミング(3G/GSM)、GPSに対応し、“全部入り”と言ってもいいほど機能が充実した。さらに、905iシリーズ以降の端末販売には割賦を取り入れた「バリューコース」という販売制度を導入する。契約年数を縛る変わりに月額基本料金を格安にする分離プランも提供される。

 しかし、全機種が“全部入り”になると機能差が少なくなり、メーカーや端末ごとの独自性が出しづらくなる。また、割賦販売制はわずかな月額負担で高機能な端末を購入できるが、機種変更までの期間がこれまでより長くなると予想されている。NEC モバイルターミナル事業部 商品企画部グループマネージャーの大澤斉氏は、“全部入り”と“割賦販売”というキャリア(NTTドコモ)の戦略が、端末開発の重要なポイントになったと話す。「“全部入り”と“割賦販売”という話題があるなか、N905iとN905iμという製品をどのように両立させるのか。非常に悩んだ問題だった」(大澤氏)

 そこでN905iでは、端末への改善点として数多く寄せられるというカメラ機能を大幅に強化。高解像度化するだけでなく、従来から搭載している6軸手ブレ補正機能に加えて、被写体ブレを低減する機能を採用した(11月21日の記事参照)。標準搭載となったワンセグについては、ディスプレイを表にして閉じるとワンセグが自動的に起動する機能や、テレビを見ながら返信メールを作成できる機能を搭載。「N904i」から搭載しているヤマハサウンドをワンセグに対応させ、高音質ワンセグという特徴も生み出した。こうしたハイスペックな端末だけに、ターゲットもアクティブな設定だ。

「N905i」「N905iμ」のメインターゲット像と、主な特徴

 「N905iのターゲットユーザー像は、コミュニティを引っ張るリーダーで、1日が24時間で足りないような人。こういう人は、仕事も一生懸命だが遊びも徹底的。コンパクトデジカメに迫るカメラ機能と、ワンセグや進化したメール機能などを持つN905iを活用できる」(大澤氏)

 一方のN905iμは90xiシリーズ最薄のボディで、洗練されたラグジュアリーなデザインを採用する。背面パネルのイルミネーションは、着信やメール受信だけでなく、友人知人の記念日などにも点灯。リアルな人間関係をサポートする機能をさり気なく盛り込んだ。

 また、2機種共通の新機能として、待受画面からネット検索が素早く行えるクイック検索、タブ表示により最大5つまでのWebサイトを同時に表示するワンタッチマルチウィンドウなどを搭載し、GoogleマップアプリのプリインストールとあわせてWebアクセス機能の拡張が図られた。日本語入力とインタフェースも改善され、インライン入力への対応とVGAディスプレイ用新フォント(ゴシック体、明朝体)の採用、デジカメ写真やメールを時系列で表示するライフヒストリービューワーの搭載、おまかせデコメの強化などが行われている。

数ある新機能の中でも、画像やメールを時系列で表示できるライフヒストリービューア(左)とVGA対応フォント(中央)は、端末の長期間ユーザーにはうれしい機能だ。N904iから搭載されていたヤマハサウンドは、ワンセグにも対応した

 「今、NECはケータイ市場の中で置いて行かれている状況。N905iとN905iμというフラッグシップ端末をほぼ同時に発売し、シェア回復を目指したい。続く2008年の春商戦にはN705iとN705iμが発売される。半年で4機種を出してシェアを伸ばし、2008年度の下期につなげたい」(大澤氏)

変化をチャンスに

photo NEC モバイルターミナル事業部事業部長の小島立氏

 NEC モバイルターミナル事業部事業部長の小島立氏は、「N905iとN905iμは、クリエイティブスタジオが初めてゼロから手がけた端末。単に外観を整えるだけではなく企画の段階からデザインを重視していた」と述べ、現体制となってから初めての成果であることを強調。また、クリエイティブスタジオが企画やデザインといった端末開発だけでなく、プロモーションやユーザーとのコミュニケーション施策までを一環して行うことにも期待を寄せた。

 さらに「クリエイティブスタジオが行う施策と、“オキナワ 男 逃げた”のような新しい取り組みを交えて、新しいNケータイを訴求していく」と意気込みを語り、N905iとN905iμプロモーション活動の一環として日本テレビと共同展開している「オキナワ 男 逃げた」を紹介した。

 「現在の携帯業界は非常に厳しい。販売方法など変化がいろいろあるが、この変化をチャンスに変えたい。割賦販売制度は購入時の負担感が少なく、ユーザーは多機能で高価な端末を選ぶ傾向がある。NECはこれまで苦労してきた“80点主義”をやめ、個性的な“とがった”端末を生み出す準備をしてきた。キャリアの変化と我々の変化を重ね合わせ、相乗効果を生み出したい」(小島氏)

N905iとN905iμは“trip N”をテーマにプロモーションを実施。新しい“N”の世界に旅だって欲しいという願いが込められている。N904iに引き続き、N905iのテレビCMにはYUKIさんを起用。会場ではイラスト入りの直筆メッセージも披露された

NECはどんな“ブランドケータイ”を目指すのか

 昨今市場で人気となる端末は、供給メーカーが持つ家電ブランドを冠したものが多い。しかしNECは非家電系メーカーであり、同社の持つブランドはPCやIT関連製品、通信機器などに限られる(2007年5月の記事参照)

 小島氏は「NECはいち早くHSDPA端末を開発し、フルブラウザのビューワーモードなどを製品に盛り込んできた。今回のN905iとN905iμでも待受画面からWeb検索する機能を搭載するなど、Webアクセス分野を得意としている。この強みを生かしてブランドを構築していきたい」と述べ、NEC端末の製品力のみで新たなブランドを作り上げる方針であることを強調した。

 ただし、“自前”のブランドを構築するには時間が必要だ。小島氏は携帯電話で使われている家電ブランドは、すでに長期間の認知プロセスがあったものばかりと指摘する。

 「今、NECが新しいケータイブランドを作っても、すぐに認知されないだろう。Webアクセスの利用が広がり、利用時間が伸びていることを見れば、この分野の重要度が揺らぐことはない。この強みを今後も強調していけば、1つのブランドとして構築できる。時間はかかるが、クリエイティブスタジオを中心に取り組んでいきたい」(小島氏)

会場には「N705i」と「N705iμ」も展示されていた

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