何でも欲しがるSKT――果てしなき事業拡大の先にあるものは韓国携帯事情

» 2007年12月17日 22時14分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 韓SK Telecom(以下、SKT)が変わろうとしている。2007年は特にその動きが激しく、一見、同社の通信事業と関係なさそうな企業まで買収し、豊富な資金力にものをいわせて巨大化の道を歩んでいる。競合他社が警戒するなか、SKTはどこに向かおうとしているのだろうか。

本屋から服屋まで取り込んで、事業拡大中

 インターネット書店のモーニング365、インターネット化粧品店のCherrya.com、インターネット衣料店のbabaclub、ゲーム開発会社のNTreev Soft――。これらはすべて、2007年にSKTが傘下におさめた企業だ。

 SKTは2007年以前にも、音楽制作会社のソウル音盤や芸能プロダクションIHQの経営権を確保したり買収したりしている。さらにIHQは映画製作会社の青於藍に投資しているほか、SKグループのコンテンツプロバイダであるSK Communicationsもポータルサイトのempasを買収するなど、傘下企業もそれぞれ事業を拡大。大元であるSKTの力は増すばかりだ。

 こうした活動は、すべてSKTのコンテンツを充実させるためのものだ。買収した企業の傾向からして、eコマース分野の活性化、ゲームや音楽などエンターテインメントコンテンツを強化したいという意図がうかがえる。中でも映画に関しては、2008年に映画への投資や配給にも進出するというから、力が入っている。

 もちろん、映画以外の動きも見えてきている。12月初めからは、NTreev SoftのゲームとSKCのポータルサイト「NATE」間の会員連動サービスが始まった。これはNATEの会員であれば、別途加入手続きをせずにNTreev Softのゲームを楽しめるというものだ。小さな変化ではあるが、NATE会員をNTreev Soft側に呼び込むのに一役買いそうだ。

 さらに同社は、インターネットショッピング事業を運営する100%子会社としてコマースプラネットを発足させる。Chreeya.comやモーニング365などが集まったショッピングモールを展開するほか、コンテンツの販売などをこの子会社に任せる。

Hanaro Telecom買収の波紋

 11月下旬、SKTはブロードバンド企業のHanaro Telecom(以下、Hanaro)を買収すると発表した。Hanaroの大株主であったAIGとNewbridge Capitalの投資コンソーシアムが持ち株を売却すると発表し、SKTが総額1兆877億ウォン(約132億円)で38.89%の株を買い取った。SKTはもともと持っていた4.7%の株と合わせ、合計43.59%の株を持つ大株主となったのだ。

 とはいえ、これでSKTが完全にHanaroの経営を支配するわけではない。今後、韓国情報通信部など政府関係部署による承認が必要となり、今はその決定を待っている段階だ。

 SKTは携帯電話市場で半分近いシェアを持つものの、固定回線は持っておらず、韓国2位のブロードバンド網を持つHanaroが、非常に魅力的に見えたのは確かだろう。Hanaroを買収すれば、固定と携帯電話間のコンテンツ連動が図れるだけでなく、ブロードバンド環境に慣れた韓国ユーザーに密着したサービスを提供できる。通信市場1位のKT陣営(KTF含む)とも対等に張り合える企業規模となる。

 当然、ほかの企業はこれを看過するわけにはいかない。LG Telecom(以下、LGT)やKTF、通信会社のLG DACOM、LG Powercomの4社は、SKTの動きに対し「ただでさえ市場独占的な立場にあるSKTがHanaroを買収すれば、公平な競争が行われなくなる」と抗議する声明文を発表した。そして「SKTがHanaroの経営権を握る場合でも、政府は何らかの規制をすべき」という意見も提案した。

 合併の動きはSKTだけが見せているわけではない。正式な発表はまだだが、KTとKTFが合併を検討しているようだ。両社は今、親会社と子会社という関係だが、1つの企業になることで意思決定などがより早くできるというメリットが生まれる。

 また、LG DACOMはIPTVサービス「myLGtv」を開始した。LG Powercomが提供するブロードバンドサービス「Xpeed」とインターネット電話「myLG070」と同じ回線を使い、トリプルプレイサービスとして利用できる。このmyLGtvは、KTの「MegaTV」、Hanaroの「HanaTV」に対抗するサービスで、映画やスポーツ、レジャーなど、趣味やエンターテインメント系のコンテンツに注力しているのが特徴だ。コンテンツ数は現在3000程度だが、2008年には3万点に増やす予定だ。

 さらに、myLGtv、Xpeed、myLG070と3つのサービスをまとめて契約すれば、Xpeedは10%、myLGtvは20%割引した価格で提供される。これは、KTやSKTが行っている「結合販売」に対抗するものだ。こうした販売方法は独占的立場にある企業では禁止されていたのだが、2007年に規制が緩和されて現在は許可されている。こうした点も、SKTのHanaro買収の追い風となっている。

 SKTのHanaro買収は、当初予想されていたよりも大きな波紋を業界に広げている。SKTがHanaroの経営権を完全に手に入れ、KTがKTFと合併し、LGグループも結束を固めれば、韓国の通信業界は3強による寡占状態がより強固になるだろう。

 こうした動きに対し、韓国政府が何らかの規制を設けるのかは未知数だ。飽和状態の市場を活性化させる要素と判断するか、あるいは行き過ぎた独占と判断するか、どちらになるかはまだ分からない。

米国・中国・ベトナム市場で勝負をかける

 SKTは海外進出も積極的だ。その代表例が米国の「HELIO」だろう。HELIOはSprint Nextelのネットワークを借りてサービスしているMVNO。2006年のサービス開始当初からインターネットサービスの強化をうたっており、最近では韓国最大の動画投稿サイトである「Pandora.TV」の動画をHELIOに提供し始めた。

 HELIOはもともと、米国のISPであるearthlinkと共同設立したサービスだが、2007年11月にSKTが7000万ドルを投資、持ち株比率を58%まで高めて経営権を確保している。さらにSKTは、Sprint Nextelへの投資を行う意思を見せるなど、同社が米国市場へかける意気込みは相当なものだ。

 またSKTは、世界最大の市場である中国の通信事業者China Unicom(チャイナ・ユニコム)の持分株式6.6%も保有してもいる。SKTは2006年にChina UnicomのCB(転換社債型新株予約権付社債)を買い入れ、2007年に株式転換するなど慎重に中国進出を進めてきた。

 2007年12月には人民日報社およびChina Unicomと提携し、China Unicomの加入者の携帯電話に、人民日報のニュースを伝える「人民日報ニュース配達サービス」の提供を開始している。

 またChina Mobile(チャイナ・モバイル)には、韓国のゲームや韓流スターの音楽、写真などのコンテンツを提供している。中国にあるSKTの持株会社ViaTechを通じ、広東エリアのユーザーを対象に配信しているという。当初はChina Mobileの固定回線用Webサイトを通じてサービスを行い、その後無線でのサービスも行う。固定と無線を融合させたサービスを、中国でも展開しているのだ。

 一方ベトナムでは、SKTとLG電子、東亜エレコムが株主として参加し、ベトナムのSaigon Post&Telecommunications(サイゴンポステル)とともに設立したS-Telecomによる「S-Fone」サービスを展開している。S-Foneは2006年時点で、サービス開始から加入者が100万人を超えるなど好調だ。ベトナムとSKTの関係は良好で、SKTがベトナムにIT教育センターを設立した際には、ベトナム共産党トップのノン・ドク・マイン(Non Duc Manh)書記長自らがSKTの社屋を訪問している。

 このように、SKTが2007年に国内外で見せた積極的な動きの成果は、2008年に現れてくる。まずはHanaro買収の行方が気になるところだ。そして傘下におさめた数々の企業をどのような形で生かしていくのか、HELIOやChina Unicomによる海外でのサービス展開や、Sprint Nextelとの関係も見逃せない。

 一方競合のKTFは2007年、HSDPAサービス「SHOW」でSKTのHSDPAサービスの会員数を上回るという功績をあげ、LGTはCDMA2000 1xEV-DO Rev.Aのサービスを開始した。2007年は3G市場競争が本格化すると言われていたが、2008年はさらに激化するだろう。各グループ三つどもえの総力戦となりそうな様相を呈している。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年