ソフトバンクとイー・モバイルの台頭で苦境に立たされたウィルコム2007年の携帯業界を振り返る(2)(3/3 ページ)

» 2007年12月29日 23時55分 公開
[田中聡(至楽社),ITmedia]
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正念場のウィルコムは、次世代PHSまでの“つなぎ”が不可欠

ITmedia データ通信の話題が盛り上がりましたが、「データ通信を開拓してきた」と自負するウィルコムはどうでしょうか。

石川 今年(2007年)はウィルコムにとってかなり辛い年だったと思います。ソフトバンクには980円で音声通話市場を取られ、イー・モバイルにはデータ通信市場を取られ……何より、“ウィルコムらしさ”がなかったのは厳しかったですね。

 でも、今“厳しい”といわれていても、ひところに比べれば、契約数は約1.5倍に増えているので、財務上はまだ強固だと思います。今、ユーザーがいるうちに何かしら違った切り口、開拓を迫られていますが、なかなか次の一手が見えてこないですね。

ITmedia 次世代PHSがスタートする2009年までの“つなぎ”が見えてこないということですか。

石川 そうですね。ウィルコムとして今年(2007年)どうかと思ったのが、“2台目の端末”から“1台目の端末”になろうとしていたことです。今までは2台目需要を狙って伸びてきていたわけですが、最近はデザインや機能がケータイと大差なくなってきました。PHSがケータイと同じ土俵に立って勝てるのか?と思うのです。

 もっと「W-SIM」を使って「9(nine)」のさらに小さいバージョンとか、「nico.」のような目新しい端末の路線がもっとあってもよかったと思います。

 結局、赤外線通信機能を用意したり、フルブラウザを標準搭載してパケット通信でARPUを稼ごうとしているわけですが、それではケータイと一緒ですよね。もっと2台目需要を喚起させるものがあるべきだと思います。例えばケータイに付けるストラップがW-SIMの端末だったりとか。

神尾 基本的に石川さんと同意見ですが、ウィルコムに対しては一言でいうと「逃げるな」ということです。ソフトバンクが月額980円でホワイトプランを出したときに、ウィルコムは正面から対抗しなかったでしょう。確かに財務的に難しいというのは、キャリアの視点では妥当です。でも市場競争力の視点では、あそこ(ホワイトプラン)から逃げちゃいけなかったんですよ。でも「あんなの違う」と正面から戦うことから逃げた。21〜1時のたった数時間の差で、ホワイトプランは月額980円なのに、ウィルコム定額プランは2900円ですよ。価格差がありすぎる。

 いくらPHSをウィルコムが誇りに思っていても、「PHSだから選ばれる」ということはないんだから、競争相手とは正面から身を削っても戦うべきです。今までは新しい市場を開拓してオンリーワンで伸びてきましたが、そこに競争相手が出てきたときに逃げちゃだめ。自分が作った市場だったら、新しく入ってきて横取りしようとした相手を、出血しながらでも蹴り出すぐらいの姿勢が必要なのに、彼らは店頭での競争から逃げたんです。

 この業界はコンシューマー市場から逃げてはいけないし、そこで一定以上の競争力を持てない会社というのは、どこに行っても負けてしまうんですよ。店頭にいるとわかりますが、今ウィルコムはコンシューマー市場で真剣に戦う気がないでしょう。ソフトバンクやイー・モバイルに「傷ついても勝つ」という気迫が見られない。ウィルコムは次世代PHSの準備を進めていますが、既存ユーザーがそこまで待つ義理はないんです。将来に対しての投資は大事ですが、今の現実から逃げると、結局ユーザーから見捨てられてしまいます。

石川 ウィルコムはプロモーションで「I=PHS」というのをやっていましたが、あれを見たときに、「ちょっとどうかな……」と感じました。

神尾 ユーザーにしてみれば、どの通信方式だろうが関係ない。自分にとってメリットがあるかどうかが重要なんですよ。ウィルコムがPHSに誇りや愛着を持つのは自由ですが、ユーザーが求めるものは「よいサービス」なんです。結果が伴わないと、ただの自己満足ですからね。

石川 電話番号は070だし、2台目需要で伸びててきたからユーザーも番号に愛着がないし、端末メーカーも限られているから出せる端末も限られる、長く売らないとペイできない……など、ウィルコムの置かれている立場は非常に弱いんです。いろいろなハンデを背負っているからこそ、違った切り口で攻める必要があるのに、携帯電話と(同じ土俵で)戦おうとしたことが失敗したのかなと。

神尾 はっきりいって、同じ料金、同じサービス内容という同一の条件だったら、PHSが選ばれることはあまりないですよ。どうしても培われてきたイメージや、ユーザー規模の差が出てしまう。

 ウィルコムがやるべきは、例えば先ほど石川さんがおっしゃっていましたけど、ケータイでは絶対不可能な、長時間バッテリーが持つ小型の音声専用端末を作るとか。これは需要があると思うんですよ。次世代PHSのために2.5GHz帯の周波数をもらうのはいいんですけど、(次世代PHSを始める2009年までの間に)ビジネスをつなげないといけない。

石川 来年(2008年)はかなり正念場でしょうね。

神尾 彼らは今、黒字にこだわるべきではないと思いますけど。今は攻めないとだめ。このまま行ったら次世代PHSを始めるときに、「残っているユーザーがどれだけいるの?」となりかねないので、今は身を切っても攻めないとだめ。

石川 ウィルコムはIPO(株式公開)に向けて準備を進めているので、今は難しいタイミングに置かれているんですよね。2.5GHzを今取らないといけないのも、黒字化にこだわっているのも、IPOがらみなんですよ。だから上場するタイミングで大きく盛り上げないといけない。

神尾 確かに黒字というのはIPOをするうえで大事なんですけど、この業界では単純な黒字よりも純減していないことのほうが大事なので、このままIPOするまでに純減し続けたら、収益が黒字でも果たして上場のときに有利に働くのか?と思いますね。

石川 その点、ソフトバンクはうまい。純増をガンガン取っていって、でも借金はまだまだたくさんある、という(笑)

神尾 携帯電話業界は免許事業だから、財務状況が悪くても、客が増えている限りは赤字はあまり問われない部分があるんですよ。

石川 財務状況と違い、純増数は毎月発表されますからね。その純増数が各キャリアのイメージにつながってくるわけだから……。

神尾 万の単位で毎月契約者が減っていったら、いくら黒字でもIPOのときに不利ですよ。今、そこ(黒字化)で無理を重ねてしまっているから、「黒字なんだけど純減」という状況になってきているじゃないですか。初めから「今期はお客さんを取りに行きます! そのための投資時期です!」と宣言して、サービスを強化した方がいいんですよ。将来に向けて種をまくことは恥ずかしいことではないし、むしろ種をまかないで食いつぶしている状況のほうが危機的だと思います。

 かなり厳しいことを言いましたが、ウィルコムには期待しているのです。だから現実を直視して、しっかりと頑張ってほしいですね。

石川 これだけPHS一筋で頑張ってきたので、ウィルコムには粘りがあると思います。そこを生かしてさらに飛躍してほしいと思ういますね。

神尾 あとは変な欲を持たないでほしいですよね。スマートフォンをやって多機能化でとか……。ウィルコムの「起死回生の立役者は、『W-ZERO3』ですか?」ということなんですよ。彼らを救ったのは、携帯電話キャリアに先行した「音声定額」の方ですから。

石川 W-ZERO3も爆発的に売れたわけではないですからね。

神尾 「W-ZERO3がウィルコムを救う」と思っているとしたら、それは危険ですね。スマートフォンの市場規模は、それほど大きくない。データ通信市場の「選択肢の1つ」でしかないですから。

石川 W-ZERO3がヒットしたから、逆にブレたのかな……。

神尾 それもありますよね。“単なる安い電話だけ”というのは、キャリアのプライドとしては許せないところもあると思うんですが、現実問題として、店頭で勢いがなくて人がいないキャリアは法人でも選ばれないし、新しいことをやっても、それ(スマートフォン頼みの状況)が続いているようだと不利でしょう。

第3回「勝ち負けがはっきり分かれた端末メーカー──iPhoneショック、共通プラットフォームの動向」へ続く)

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