「P705iμのデザインコンセプトは、あえてひとことで言うなら“いさぎよさ”です」(デザイン担当の浅野氏。以下、浅野氏)
P705iμを手にすると、金属独特のひんやりした感触とともに「なんだ、この薄さは」という驚きが毎回ある。その素材感を生かしたデザイン上の演出は、従来のP703iμ以上に高級感が増した印象を受ける。
「最初に描いたイメージは、大げさに言うと“置いてあるそれを、怖くて触れないほど”でした。もちろんそれでは製品として成り立たちませんので、そこにパナソニック製品に必要な“人に優しい、使いやすい”を融合させていきました」(浅野氏)
目指したのはソリッドな金属のかたまり。ただ、純粋にそぎ落としただけでなく、あえて肉付けした箇所もある。全体のイメージを崩さず、「使いやすさ」を盛り込むためだ。
P705iμの横幅は上端と下端とで約1ミリの差があり、正面から見るとごく微妙な逆台形になっているのに気がついた人はいるだろうか。また、ディスプレイを開いたヒンジの両側をよく見ると、ごく小さなリブが設けられている。これは何なのか。これが“あえて肉付け”した1部だ。
「P705iμのスペック上の横幅は50ミリですが、下端は49ミリです。設計上では49ミリに納めることも可能でしたが、上端をあえて1ミリ太くしました。ここは、開発段階でかなり議論した箇所です」(太田氏)
今までの“普通の厚さ”のモデルなら、それは必要なかった。ワンプッシュオープンボタン付きの“P”端末を使っているユーザーはここで端末を持ってもらいたい。そのボディが半分の厚さになったものを操作すると想像しよう。
「極薄モデル用のワンプッシュオープンボタンを苦労して開発しましたが、これだけ薄いと“逆に開けにくいのでは”という懸念が浮上しました。ボタンを押す指が上筐体を押さえてしまい、開かない……ことがあるのです。便利にスマートに操作できるワンプッシュオープンボタンなのに、開くたびに指の位置に気を遣わなければならないなんて考えられません。この小さいリブが、それを解決したのです」(浅野氏)
言われなければあることさえ分からない、あるいは単なるデザインの一環と思われがちな小さな出っ張り。しかし、確かにこのリブがあるおかげで“ボタンを押した指がストッパー”にならない。同社らしい、ワンプッシュオープンボタンへの思い入れを改めて感じてしまうエピソードだ。
なお、その下筐体にリブを設けた分だけ、上筐体をその分削らなければならない。上筐体は3インチのワイドディスプレイとボードモールド工法による基板などが収まる、携帯の重要構成部品が特に凝縮する箇所である。
「減量苦の中でさらに絞る、ボクサーの気持ちが少し分かった気がします(笑)」(太田氏)
「そこは、“使いやすさにこだわる”を根底のテーマとしていたからこそ実現できたのだと思います。こういうのをデザイン側から提案した場合、普通なら“ふざけるな”となっていたかもしれません」(浅野氏)
FeliCaの搭載もステンレスボディを採用する本機ならではの困難があった。
「P705iμは、背面パネルとバッテリーカバーに金属素材を採用しています。FeliCaはその特性から、例えば、間に金属があると相手側(例えば改札など)の通信環境に影響し、うまく動作しないことがあります。P705iμはバッテリーカバー、つまり一番外側が金属なので、その不都合を打ち消す工夫も必要でした」(電気設計担当の島田氏)
FeliCa対応携帯の樹脂製バッテリーカバーの裏に「このシールをはがさないでください」とあるシールが貼られているのを見たことはあるだろうか。このシールはフェライト材でできており、FeliCaの通信電波を安定させる役割がある。
しかしP705iμは、一番外側が金属。そのシールを、よくある端末のようにバッテリーカバーの裏に貼っても意味がないのである。これを単純に有効とするならばカバーの表にシールを貼ることになるが、それはさすがに……となろう。
「そのためP705iμは、相手側の通信特性が悪くなっても、“シールを貼らなくても”端末側できちんと受信できるような設計が求められました。この工夫は企業秘密ですが、例えば広範囲で通信できる設計にし、タッチする位置がずれた場合も正常に通信できるようにする、などですかね」(島田氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.