ドコモのスーパー3Gに見た「モバイルの近未来」神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)

» 2008年04月14日 12時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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実験環境では100〜240Mbps程度を記録──期待できる高性能

 スーパー3Gの公開実験は、NTTドコモ R&Dセンタ屋上にある基地局アンテナと、ドコモが所有する実験用移動端末車の間で通信を行うというもの。試験用の基地局アンテナは2基あり、またR&Dセンタ近隣には1セクタの基地局が1基あるとのことだが、今回は屋外でのハンドオーバー実験は実施されず、基地局1基を用いてNTTドコモ R&Dセンタがある「横須賀リサーチパーク(YRP)」周辺の公道をぐるりと周回しての走行実験となった。

PhotoPhoto 左:ドコモ R&Dセンタ内に設置された「スーパー3G 基地局設備」。アンテナは屋上に設置されている。HSDPAへの対応と比べると既存基地局に対する改修は大きくなるという。
右:ドコモ R&Dセンタ屋上に設置されたスーパー3G用の基地局アンテナ(写真提供:NTTドコモ広報部)
PhotoPhoto 今回の実験で使用されてスーパー3G試験用移動端末車。屋根にある4本のアンテナがスーパー3G用。MIMO×4のアンテナになる

 デモンストレーションで用いられたアプリケーションは、R&Dセンタ内とクルマとの双方向ビデオ伝送、実効速度の測定、HD動画のビデオストリーミング、pingによる遅延測定、リアルタイム対戦格闘ゲームの実演など。これらをスーパー3Gのアクセス環境で同時並行で動かす内容だった。

 なお、今回の実験システムは標準策定されている「3GPP LTE仕様」に準拠しており、「(スーパー3Gの)最大値を見るために仕様上の最も高いスペックで構築している」(尾上氏)という。帯域幅は20MHz、下りマルチアンテナ技術は4×4のMIMO(Multiple Input Multiple Output)を採用していた。

PhotoPhoto 左:スーパー3G実験システムの主要諸元。3GPP LTE仕様に準拠しつつ、最大限の性能がでる環境を構築している
右:試験用移動端末車の車内。背後にあるのが端末側のユニット。まだ実験段階なので、とても大きい。これが商用化では手のひらに収まるサイズまで小型化される

 筆者が同乗した走行試験では、車両の速度は時速30〜40キロ前後。実効速度は100Mbps〜240Mbps前後で稼働していた。HD動画伝送はきわめてスムーズであり、リアルタイム対戦格闘ゲームの動きも滑らか。高速・大容量通信を実現する能力は確かに高い。移動中の実効速度変動は確かにあったが、時速100キロ以下では「移動速度というより、地形や建物による影響の方が大きい」(技術説明員)。道路交通法の速度規制があるため、現時点では一般道の法定速度以上の試験は行われていないという。

 「スーパー3Gの商用化段階では、当然ながら新幹線の速度は視野に入ります。ただ、その際も低速時にはスピードがしっかりと出て、高速移動環境ではそこそこの実効速度になるようなチューニングになるでしょう」(尾上氏)

 また、スピード以外では遅延の少なさもスーパー3Gの特徴であり、走行試験では上下双方向で11〜20ミリ秒前後の反応速度だった。データ通信における遅延時間の短縮は、リアルタイムゲームのようなエンタテインメント分野はもちろん、映像通信や、PCやカメラなどのリモート制御などに有用だ。またクルマをはじめとするさまざまな機器が相互通信をする新たな機能やサービスの実現でも、遅延の少なさは重要になるだろう。高速通信ばかりが注目されるスーパー3Gであるが、それ以外の部分でも、今後モバイル通信が“社会のインフラ”として広がる上で重要な機能向上が施されている。

PhotoPhotoPhoto 左:実効速度の測定画面。移動時の環境によって、100Mbps〜240Mbps程度のスループットがでる。最大7.2Mbpsの現在のHSDPA環境とは、文字通り“ケタ違い”のスピードだ。これでビット単価は現状よりも安くなる
中央:無線アクセス部分の遅延を測定している画面。「time」が11〜20ミリ秒前後であることに注目。電波状況が不安定になると遅延が大きくなるが、おおむね高速な接続を維持している
右:ビデオ通信と映像ストリーミング、リアルタイム対戦ゲームのモニター画面。ディスプレイは3画面しかないが、映像ストリーミングはHD動画で6つ配信されている

スーパー3Gの早期展開が「未来の実現」の鍵になる

 ドコモではスーパー3Gの展開シナリオとして、当初は現在FOMAが使用する2GHz帯(20MHz幅)のうち5MHz幅を利用してスーパー3Gサービスを展開し、徐々に利用する帯域幅を拡大する方針を打ち出している。4G開始後も、3G用帯域のスーパー3Gへの利用転換は続き、長期にわたって3G用周波数を有効活用していく考えだ。しかし、その一方でスーパー3Gの潜在能力を最大限に引き出すには「理想を言えば、新しい周波数でスーパー3Gが始められると都合がいい」(尾上氏)という。その1つのターゲットになるのが、2012年の周波数再編で目玉となる700MHz帯(UHF帯)である。

 700MHz帯の再編をめぐっては、総務省の情報通信審議会が「電波の有効利用のための技術的条件(諮問第2022号)」の一部答申として、10MHz幅をITS、40MHz幅を電気通信に振り分けるという方針が出ている。後者の部分をドコモのスーパー3Gなど「第3.9世代の移動体通信」に優先的に配分すれば、早い段階から高速・大容量のモバイル通信サービスが実現するのだ。ドコモのスーパー3Gが現行3Gサービスとの互換性・発展性を重視していることを鑑みれば、これは多くのユーザーに大きなメリットがあるだろう。

 モバイル産業全体を俯瞰すれば、今後はキャリアによる“ケータイ以外”への高速かつ定額・低価格なデータ通信環境の広がりが、市場活性化にとって重要になる。すでにPCや通信モジュール、スマートフォンなどに定額の傘は広がり始めており、今後はMID(モバイルインターネットデバイス)やPNDといった新興分野もその列に加わるだろう。社会の隅々までモバイル通信インフラが行き届き、あらゆるモノがネットに常時接続することが、新たなサービスやビジネスを生み出す土壌になる。

 ドコモのスーパー3Gなど次世代通信インフラの早期整備は、市場全体の活性化につながり、何よりもユーザーの利益になる。モバイル産業におけるさまざまな可能性を、現実のものにする重要な鍵だ。

 移動環境で100Mbpsオーバーの世界。スーパー3G公開実験で、筆者はさらに拡大し、可能性が広がる「モバイルの近未来」を見た。スーパー3Gのいち早い商用化に期待したい。

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