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» 2008年04月23日 17時42分 UPDATE

日本コカ・コーラ会長の魚谷氏が見た「ブランド危機に直面したドコモ」

ブランドの危機に直面したドコモが、新たな施策として打ち出した「新ドコモ宣言」。この立案を支えたのが、日本コカ・コーラの会長でドコモの顧問を務める魚谷雅彦氏だ。“一人負け”を喫したドコモは、魚谷氏の目にどう映ったのか。

[後藤祥子,ITmedia]
Photo マーケティングの手腕を買われて「新ドコモ宣言」の立案に協力した、ドコモ顧問の魚谷雅彦氏

 「ドコモは今後、さまざまな意味において新しく生まれ変わる」――。携帯市場が変革期を迎える中、一人負けを喫したドコモの“反撃ののろし”ともいえるのが「新ドコモ宣言」だ。

 この宣言は、CI(Corporate Identity:企業イメージ確立戦略)から社内体制の見直し、製品・サービスの再検討など幅広い分野にわたる改革を目指すもので、ドコモはこれを契機に、従来の“新規顧客獲得”を重視したキャリア主導の戦略から、顧客本位の戦略に転換することを目指す。

 そして、この宣言の立案をサポートしたのが、日本コカ・コーラの会長でドコモの顧問を務める魚谷雅彦氏だ。マーケティング戦略の手腕を買われ、ドコモブランドの建て直しに協力した魚住氏の目に、ブランドの危機に瀕したドコモの内情はどのように映ったのだろうか。

社員の中に「このままではだめだ、何とか変えたい」という意識があった

 2007年、ドコモの社内に入った魚谷氏は、経営幹部をはじめ、社員、代理店やショップスタッフらと“何が問題なのか”を議論したという。そこで出てきたのは「市場環境の変化に対応しきれていない」という声だった。

 携帯業界では、番号ポータビリティの開始や通信/端末の分離プランの導入、新規参入キャリアの台頭、PCのトレンドサービスのモバイル化などにより、ビジネスモデルに急激な変化が起こっている。これまでは、インセンティブモデルによる新規顧客の獲得で急成長を遂げてきたが、今後はそれが通用しなくなることは明白で、社員の間には「このままではだめだ、何とか変えたい」という強い意識があったという。

 こうした社員の思いが形にならなかった理由の1つとして魚谷氏が指摘するのが、縦割り組織の弊害だ。例えば顧客の声をよく聞いているにもかかわらず、“それをいかに仕事に活用するか”という仕組みが分散しており、機能不全に陥っていた。「リサーチ1つとっても各事業部門にあり、会社全体として市場や顧客の動向をどう捉え、どの方向に向かうのか――という総合的な部門がないことが例として挙げられる。“ターゲットや二ーズを分析して理解し、事業として戦略を立てて実行するというするサイクル”になっていなかった」(魚谷氏)

 しかしこうした問題はあったものの、5300万という圧倒的な顧客基盤を持ち、ショップだけで年間5500万人が来店する直接の接点があるというドコモに、魚谷氏は大きな可能性を感じたという。

 「コミュニケーションツールとして活用できる5300万の請求書が送られ、コールセンターでは年間2000万コールを受けている。日本の企業で、これだけの顧客と直接関係を持つ企業は少ない。ドコモのマーケティングの仕組みが1つの方向に向かい、一緒になって動き始めてシナジーを発揮したら、大変強いマーケティングのパワーになると実感した」(魚谷氏)

sa_wd26.jpgPhoto 魚谷氏が指摘するドコモの課題(左)と、ドコモブランドの持つ可能性(右)

ブランド力の強化を契機に、経営全体の改革を

 「ブランドは家に例えると屋根。実行のための柱となるのが顧客の満足度を高めるようなマーケティングの取り組み」――。こう話す魚谷氏は、ドコモの中村維夫社長からブランド戦略への協力を持ちかけられたときに、「ブランド力の強化をきっかけに、経営全体の改革に取り組むのであれば協力する」ということで応じたという。

 「ブランドは企業経営そのものの反映であり、ブランド価値の強化は顧客とのつながりを強めることにほかならない。顧客の視点で事業プロセスや組織が回っているかを全面的に見直し、選択と集中による戦略的で統合的なマーケティングを実行して、初めてブランドが強くなる。結果としてそれが、新たな価値の創造や企業価値の拡大につながる」(魚谷氏)

 こうした方針の下でまず取り組んだのが、“ドコモというブランドが、世の中に対してどんな価値を提供していくべきなのか”を定め直すことだった。社内のさまざまな意見を集約した結果が、マーケティングの総合的な戦略プランとなり、ロゴやCIに反映されたという。

 2つ目に取り組んだのが、“5300万人の顧客を大事にしていないのではないか”という社員の声に応えることだ。ニーズに対応しきれているのか、不満に対する解決策を先延ばしにしていないか――。ドコモブランドの体験に対するロイヤリティを高めるために、既存顧客を中心としたユーザーの声に耳を傾け、すべてを具体的に見直すことを中村氏が指示し、2007年10月にマーケティング推進委員会が発足。端末やサービス、ネットワーク、コミュニケーションなどのテーマごとに25のチームを立ち上げ、全社横断的な議論を行った。発表会では、この議論を経て実現した2つの施策として、長期契約ユーザー向けの優遇策と、ハーティ割引の割引率改訂が発表されるとともに、今後の具体的な取り組みも明かされた。

 3番目はプロセスと組織の改革。新たな価値を創造するためには一気通貫で連携することが必須とし、縦割り組織からの脱却を目指して組織のあり方や連携についての見直しを進めているという。

 そして最後が社員の意識改革だ。創業以来の大きな改革を行うには社員1人1人の意識の改革が重要であり、全体最適のために一丸となって取り組むことを目指す「ワンドコモ」というスローガンを掲げた。「“顧客1人1人に対してオンリーワンの存在になる”という意味合いを込めて、ワンドコモという活動を始めた」(魚谷氏)

 「新ドコモ宣言」は、上からの指示でできたものではなく、「トップダウンとボトムアップが融合して出てきたもの」だと魚谷氏。この宣言は、社員の間にくすぶっていた強い危機感と変化への情熱が生み出したものといえそうだ。

sa_wd25.jpgsa_wd28.jpgPhoto ブランド強化の効果とドコモの改革プロセス

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