5月14日、ワイヤレス・テクノロジー・パーク2008の講演に登場したフジテレビジョン デジタル技術推進室の岡村智之部長が、次世代マルチメディア放送の技術として注目を集めるISDB-Tmmへの取り組みと、免許の割り当てに対する考え方を説明した。
岡村氏によると、2006年4月に登場したワンセグ(ISDB-T)は、すでに2500万台の普及台数を誇っているという。2007年の秋ごろ、端末の販売奨励金を見直す機運が高まったことから、一時的な端末の買い控えがあったものの、順調にユーザーを増やしている。世界各国のキャリアや通信事業者がモバイルテレビのビジネスモデルを模索する中にあって、ワンセグの成功は世界中の関連事業者から高い注目を集めているという。
そしてワンセグに続く次世代のマルチメディア放送技術として期待されるのが、岡村氏が「ワンセグを超えるワンセグ」とアピールするISDB-Tmmだ。
ワンセグが順調に普及する日本では、さらに多彩なコンテンツを効率よく配信する“モバイル機器向け次世代マルチメディア放送”の実現に向けた議論が始まっている。放送と通信の融合を目指す次世代マルチメディア放送については、2011年7月に停波する地上アナログテレビの空き周波数帯を利用する方向で、総務省が主催する「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」において技術やビジネスモデルの検討が進められている。
技術の候補として挙がっているのは、現在のワンセグの仕様を拡張したISDB-Tmmと、米QUALCOMMが開発したMediaFLO。ISDB-Tmmについてはドコモら5社が「マルチメディア放送企画LLC合同会社」で技術の検討を進めており、MediaFLOについてはソフトバンクが「モバイルメディア企画」、KDDIが「メディアフロージャパン企画」を設立し、技術やビジネスモデルを模索している。
4月22日に総務省で開催された同懇談会の第12回会合では、技術の統一やビジネスモデルに関する着地点は見えてこなかったが、論点の整理は着実に進んでおり、議論は大詰めを迎えている。
ISDB-Tmmのサービスイメージについて岡村氏は、2つのサービスを組み合わせていくと説明する。「まず1つ目がオンスケジュールといわれるリアルタイム型の視聴サービス。もう1つがプッシュ型として、時間軸の概念を切り離した蓄積型の視聴サービス」(岡村氏)。蓄積型の視聴サービスは、“ファイル化した映像の送信”をコンセプトとしている。
またISDB-Tmmは、現在のワンセグとの親和性が高いことが特徴だという。「ISDB-Tmmのmmはモバイルマルチメディアの略。決して新しい方式ではなく、今のワンセグを発展させたものといえる。アプリケーション層の上に入れるため、ほとんどのコンポーネントは共用できる。ワンセグとのシームレスな視聴が可能で、いまのワンセグとつながったサービスになる」(岡村氏)
さらにISDB-Tmmでは、VHFの6MHz幅をすべて使うことで、高速ダウンロードサービスや高精細な映像配信が可能になるという。
「今のワンセグは毎秒15フレームだが、これは開発当時のマシンパワーやバッテリーを考えると15フレームが現実的だったため。現状では30フレームに対応でき、ISDB-Tmmではコンテンツとして(30フレームを)使うこともできる」(岡村氏)
岡村氏は続いて、視聴スタイルの具体例を紹介。配信はリアルタイムで放送しながら、蓄積型コンテンツを同時に配信するスタイルで、「ダウンロードサービスといっても、人の生活に合わせたコンテンツを流していく」(岡村氏)という。例えば朝なら電子新聞や語学コンテンツ、通販番組を流す――といった具合だ。夜は、昼に蓄積型コンテンツの配信に使っていた帯域をスポーツ中継などのリアルタイム放送に割り振っていくことも可能だという。
岡村氏はまた、間もなく方針案がまとまるとみられる次世代マルチメディア放送の懇談会の議論についても言及した。
「方針案は5月末にまとまり、6月にはパブリックコメントが募集されるのではないか。技術は複数方式がヒアリングされているが、これがどうなるかは次の議論になるだろう。サービスは2011年7月以降になるといわれるが、実際は“2012年初頭になるか”という感触でもある。ターゲットになる日程は確定ではなく、今後の進展具合によるところが大きい」(岡村氏)
そしてあらためてISDB-Tmmのメリットを強調するとともに、技術方式の採用に関する考え方を述べた。
「ISDB-Tmmは共通の受信機を開発しやすく、部品も少なくて済む。ワンセグが包含されるので、(ISDB-Tmmのスタートを待たずに)先行して端末を発売できる。さらに1台の端末で(技術方式が近い)デジタルラジオなどの複数のサービスを包含できる。
やはり放送方式は1つであるのが望ましく、その上で、サービスやコンテンツで競争しないといけない。過剰なインフラ投資をしても仕方がない。メディア横断的な技術で、ワンセグ、デジタルラジオも受けられることが望ましいと考えている」(岡村氏)
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