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» 2008年05月26日 10時47分 公開

小牟田啓博のD-room:第20回 ソフトバンクの年間純増数トップと端末デザインの関連性

数々の端末を世に送り出してきたデザインプロデューサーの小牟田啓博氏が、日常で感じたこと、経験したことを書き綴る「小牟田啓博のD-room」。この2年弱、ソフトバンクケータイのデザインに携わってきた小牟田氏が、純増数1位とデザインの関連性を語る。

[小牟田啓博,ITmedia]

 こんにちは。小牟田です。先日、電気通信事業者協会(TCA)が発表した2008年4月末の携帯電話・PHS契約数で、ソフトバンクモバイルの純増数が1年連続でトップになったことが確定しましたね。

 実際の稼働台数は依然NTTドコモが群を抜いていますが、ソフトバンクが1年間連続で純増数トップをキープしてきたという事実は、日本のケータイの歴史で大きな出来事だと僕は思っています。

 そこで今回は、ソフトバンクの年間連続純増数トップと端末デザインとの関連性についてお話ししましょう。

ソフトバンクケータイのデザインに携わって2年弱

 今さらカミングアウト! というわけではありませんが、僕がau(KDDI)を辞めてKom&Co.というチームをスタートさせてから2年弱。ソフトバンクモバイルの社外デザインコンサルティング業務という形で、ソフトバンクケータイのデザインに携わらさせていただいてきました。

 孫正義社長の号令の下、ソフトバンクのデザインチームの方々をはじめ、ソフトバンクの各部門の方々と超忙しくも意義のある取り組みご一緒させていただいているところです。

2008年4月末、ソフトバンクモバイルが年間連続純増数トップという記録の牽引役にもなった2008年春モデル

 今回の年間純増トップについて、僕の方からビジネスの観点であれこれと論じることは避けますが、デザインの観点から言えば、まずは“お客さまの反応”を見過ごすわけにはいきません。

 デザインという観点からケータイの市場環境を振り返ると……。

 僕がKDDIでデザインディレクターを務めていたのが2001年初頭のことでした。そのときケータイの市場はドコモの独壇場で、圧倒的な強さを見せていたことはご存じのとおりです。

 首位のドコモから大きく離され、KDDIと当時のデジタルホンが2位、3位のポジションにいて、デザインの注目度という意味ではまだまだでした。

 当時のことを思い起こしてみると、ケータイというプロダクトに対する市場の興味は非常に高まりつつあるなかで、デザインそのものに満足しているという人はとても少なく、むしろ“デザインが不満だ!”という声が高まり続けている状況でした。

 ここで僕が思い出す、少々つらいエピソードがあります。それは、KDDIへ移籍して間もないころの、あるデザイン系の大きなセミナーでの出来事です。

 ケータイデザインに携わるメーカーデザイナー数名と、キャリア代表で僕ともう1人、加えてモデレーターの方といったメンバーがステージ上にいて、それを周囲ぐるりと取り囲むレイアウトで総勢400名近いオーディエンスが話を聞くというイベントでした。

 そのときのテーマが、まさに「ケータイのデザインについて」だったのです。

 今でこそ、ケータイデザインにそれほど大きな不満を持たない方が多いと思うのですが、当時は不満だらけ。むしろ不満な声しか聞こえない――。そんな状況でした。

 するとですね、ステージにいる僕たちコメンテーターは、会場中のオーディエンスから不満の声を聞くことになる。そして、何せ400人近いデザインに関係する職業の人たちが参加するセミナーでしたから、その声はやがてケータイデザインに携わる僕たちに対する非難へとヒートアップしていきました。

 それほどケータイデザインに対して、不満が多い時代でした。群集意識って怖いものだな……って思いながらも、デザインの優れたケータイが欲しいという要求が、枯渇感にまで高まっていると深く理解したものです。

 であれば、本気で取り組んでクオリティーの高いケータイを登場させれば、間違いなく注目され、人気を集めることができるだろうと、強く実感した瞬間でもありました。

 「このままでは終わらせないぜ!」と反骨精神のようなものが燃え上がったことをよく覚えています(笑)。

KDDI時代とは違ってソフトバンクではスタンダードデザインに向き合った

2003年にauから発表された「INFOBAR」。デザイナー深澤直人氏による洗練されたデザインが話題を呼んだ

 あのときの僕のイメージでは、“市場はデザインに関してはまったく期待できていない。であれば、圧倒的にデザインが優れるプロダクトを登場させることそのものに、深い意味がある”――。そう思ってデザインコンセプトモデルの発表に向けて力を注ぎました。

 先端を押さえてしまう戦略ですね。ここで肝心なのは、ちょっとやそっと突出したというレベルではなく圧倒的に優れていることが、何よりも重要だった。そんななか登場させたのが「INFOBAR」です。

 前述したあの“つらいイベント”からしばらくして、ケータイとデザインについて深く向き合うことになるわけです。結果として各キャリアの純増数に変動が見えたまさにそのターニングポイントとなったのが、2003年にauからINFOBARを発表したそのときでした。

 当時、auのラインアップがデザインに注力していたときでもありましたから、ケータイ業界が大きく変わろうとしている瞬間だったと思います。

 当時のことを客観的に冷静に考えてみると、いいデザインのケータイをラインアップすることで、意外にレスポンスよくお客さまの反応は出てくるものだなということです。これが純増数の動きから感じた僕の感想でした。

 それ以後、auは純増数1位をキープし続け、auがサービス開始以来の連続8カ月間トップという記録をたたき出しました。

 その後しばらく市場は混戦状態に入るのですが、ボーダフォンがソフトバンクモバイルへと生まれ変わると同時に、あるご縁からソフトバンクケータイのデザインに携わることになります。

 そして2007年5月、新生ソフトバンクモバイルが純増数トップに躍りでました。「番号ポータビリティ(MNP)」のスタート直後には、圧倒的にauが有利と言われたケータイ市場ですが、今振り返ればソフトバンクが大健闘するという結果になりました。

 この成果は、やはり端末デザインのレベルが向上したこととまったく無関係とは言えないだろうと思います。

 もちろん、ケータイは端末だけで売れるというものではありません。サービス内容や料金プラン、ブランドイメージなどなど、実に多くの要素があり、それに伴う情報は複雑を極めます。

 これはあくまでも僕の感想ですが、ソフトバンクの躍進は“感覚的に訴えた”ことにあると思います。デザインを核にした端末ラインアップの充実感が、会社のイメージと密接に結びつき、“いいものはいい、そうでないものはそうではない”ことが、シビアに結果として表れたのだと感じています。

 ソフトバンクが純増数を伸ばしたときと、2003年のINFOBARの登場からauが純増数を伸ばしたときの市場環境とはまったく違います。“ケータイはデザインで選ぶ”という人が市場調査の中でもかなりの比重を占める状況ですから、過激な方向のデザインに展開するのではなく、より多くの人たちにしっかりと長く使ってもらうデザインが必要になるのです。

 つまり今は、スタンダードでなおかつハイクオリティなデザインが必要な時期ということです。それも、圧倒的に美しく普遍性すら感じるデザインでなければなりません。

美しいスタンダードデザイン端末の1つ「MIRROR 821P」

 そういった意味で僕は、「814T」「815T」「THE PREMIUM 820SH」「THE PREMIUM 821SH」「MIRROR 821P」「820P」のような、スタンダードで美しいデザインの端末を複数存在させることが非常に重要と考え、ソフトバンクでスタンダードデザインに向き合ってきました。

完成度の高い端末登場が純増数アップのターニングポイントだった

 auの8カ月間連続トップという出来事は、デザインという一元的な役割とはいえ、その一役を担っていた僕にとって、とてもワクワクしたものでした。

 ですが、今回のソフトバンクは12カ月間連続。丸々1年間の純増トップですから、以前とはまた違う興奮状態を味わわせてもらっています。とてもすごいことですよね。だって、1年間ですよ、1年間!

 これは、ソフトバンクモバイルがお客さまのためにサービスや設備を充実させ、端末のクオリティーを非常に重要視してきたことも大いに関係があると思います。

 もちろんその中で、デザインという要素も無視はできませんから、デザインの貢献度も非常に大きいと言えるでしょう。

 これは、孫社長以下、デザインチームを中心とした全社一丸となった取り組みと、なんと言っても各端末メーカーさんのデザイナーの方、技術、企画、営業の方々などなど、それはそれはとてもハイレベルな取り組みのなかから生まれた端末たちが、しっかりとお客さまに受け入れてもらっているわけです。

 こうして結果をとらえてみると、デザインそのものの位置付けや流れが変化してきていることに気付きます。

20色ものボディーカラーという業界の常識を破って登場した「PANTONE 812SH」

 前述したように、auが純増数トップになった2003年のその月にはINFOBARの登場がありましたし、今回のソフトバンクがトップに躍り出た2007年は「PANTONE 812SH」が登場したあとだというのも、シェア変動に少なからずインパクトを与えていると思います。

 まさにターニングポイントには象徴的な端末の存在があった。そしてそれを維持しキープし続けるには、さまざまなバリエーションの充実したラインアップが必要だということです。

 スペック面でも価格面でも、特定ターゲットに向けた端末でも、それからデザインであっても、基本的に純増シェアでトップとなるブランドのラインアップには、どれをとってもすきのない完成度を持っているものです。

 ソフトバンクはPANTONE以降、「FULLFACE 913SH」「fanfun. 815T」「AQUOSケータイ 911SH」「THE PREMIUM TEXTURE 823SH」「インターネットマシン 922SH」など、個性的で満足感を得られる完成度の高い製品をラインアップしています。

 そうした端末ラインアップを魅せていく役割を担っているのがデザインなのです。

 さらに、キャラクターケータイ(キャラケー)のようなイレギュラーだけども魅力あふれる端末も存在させ、GUI(グラフィックユーザーインタフェース)にも気を配って、ネーミングにも配慮をした世界観をお客さまへのメッセージとしてお届けする――。こういった全方位的なイメージが、ブランドイメージ向上につながるわけです。

 半分当事者、半分客観的に今回は純増数とデザインの関連性をテーマに話してきましたが、いかがだったでしょうか? 自分なりにというか、かなり独断と偏見に満ちている印象もあるかもしれません。

 ソフトバンクの1年間純増数連続1位。その記録は現在も更新中です。どこまでこの記録が伸び続けていくのか。さらに想像を超えるような展開やデザインが登場してくるかもしれません。それは未来のことですから、誰にも分かりません。

PROFILE 小牟田啓博(こむたよしひろ)

1991年カシオ計算機デザインセンター入社。2001年KDDIに移籍し、「au design project」を立ち上げ、デザインディレクションを通じて同社の携帯電話事業に貢献。2006年幅広い領域に対するデザイン・ブランドコンサルティングの実現を目指してKom&Co.を設立。日々の出来事をつづったブログ小牟田啓博の「日々是好日」も公開中。国立京都工芸繊維大学特任准教授。


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