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» 2008年05月26日 11時17分 UPDATE

石川温・神尾寿の「モバイル業界の向かう先」:第9回 マイクロソフト 梅田成二氏――Windows Mobileの課題と勝算 (1/2)

業界のキーパーソンと、ジャーナリストの石川温氏、神尾寿氏が携帯業界についてざっくばらんに語るモバイル鼎談。今回はマイクロソフト モバイル&エンベデッドデバイス本部部長の梅田成二氏に、Windows Mobileの今後の方向性について話を聞いた。

[田中聡(至楽社), 聞き手:石川温、神尾寿,ITmedia]

 ウィルコムの「W-ZERO3」を皮切りに、日本でもスマートフォンが浸透しつつある。このスマートフォンを支えるOSの1つが、マイクロソフトが提供している「Windows Mobile」だ。Windows Mobileのユーザーインタフェース(UI)は基本的にPCのWindowsがベースとなっているため、一般的な携帯電話とは操作性が異なり、必要なアプリケーションを自分でインストールする必要があるなど、ライトユーザーにはハードルが高い面もある。

 マイクロソフトは今後どのような方向性でWindows Mobileの開発に取り組んでいくのか? また、Windows MobileのUIは、より携帯電話に近いものに変更されていくのだろうか? マイクロソフト モバイル&エンベデッドデバイス本部 部長の梅田成二氏に聞いた。

PhotoPhoto ジャーナリストの石川温氏、神尾寿氏(左)と、マイクロソフト モバイル&エンベデッドデバイス本部 部長の梅田成二氏(右)

Windows Mobileは“携帯電話におけるWindows95”を目指す

神尾寿氏(以下敬称略) マイクロソフトさんは、今広がりつつあるスマートフォン市場をどのようにとらえているのでしょうか。

梅田成二氏(以下敬称略) Windows Mobileそのものは、国内に関しては約2年半前の2005年12月に発売したW-ZERO3から導入が始まりました。当時はPCとケータイの機能を兼ね備えたデバイスがありませんでしたが、W-ZERO3はこの需要を満たす機種だったといえます。ただ、初期のW-ZERO3ユーザーは主にITリテラシーの高い方だったので、その後はより一般のケータイに近い形を目指しました。NTTドコモやソフトバンクモバイルから順次スマートフォンが発売されて選択肢が増えたのも、ユーザー層を広げる追い風となりました。スマートフォンの女性比率も、5%から15%ほどに上がっています。

神尾 現在のWindows Mobileユーザーの属性を見ますと、主な利用者層がITリテラシーの高い層に偏っています。今後ユーザーのセグメントは拡大していくのでしょうか?

梅田 もちろん拡大していきます。世界の携帯電話市場は年間約10億台程度の出荷台数ですが、そのうちスマートフォンと呼ばれるようなコンバージ端末が3億台程度あります。このコンバージ端末市場における日本のシェアは10%(3000万台)ほどですが、ワールドワイドで見ると、日本のマーケットは非常に特殊ですし、ユーザーシナリオという点では世界を間違いなくリードしています。

 マイクロソフトは、今まではどちらかというとハイエンドな人たちをターゲットにして、バックエンドのサーバとの接続サービスだとか、そういうものを1つのウリにしてきました。つまり、日本のユーザー全体をターゲットにしていたというよりは、かつてRIMのBlackBerryが開拓したビジネスマーケットに対してプロダクトを投入していたわけです。

 しかし、気が付くとAppleが「iPhone」を、Googleが「Android」を投入するなど、スマートフォン市場は多様化しています。今後はもう少し広い層に訴求していく必要があると考えています。一番分かりやすい言い方をしますと、“携帯電話におけるWindows95を目指そう”ということです。

神尾 つまり、現時点でのスマートフォンはアーリーアダプター向けであり、これからマジョリティ市場に進出していくわけですね。

梅田 今はまさに過渡期ですね。

神尾 タイムテーブル的にはどんな感覚でしょうか? ユーザー層の拡大には時間がかかると思いますが。

梅田 5年、10年という長いスパンではなくて、1〜2年の短いスパンで考えています。スマートフォンの使いやすさは、ベースになるOSの世代に大きく左右されます。今搭載している「Windows Mobile 6」は、組み込みのOSとしてかなりこなれてきましたが、次の世代では新しいOSのバージョンである「Windows Embedded CE 6.0」がベースになります。

 従来のWindows CE 5.0ではメモリー空間の制約があり、32Mバイトのメモリを複数のアプリケーションで共有しながら動かしています。しかし現在はHSDPAや3.9Gなどの高速通信で、動画コンテンツをダウンロードしながらメールやワンセグを見る──といった使い方が想定されるので、PCのようにパワフルなOSを使わざるを得ません。CE 6.0はアプリケーションごとに2Gバイトのバーチャルメモリ空間を個別に持てるので、ヘビーな用途にも耐えられます。

新しいOSではWindows MobileのUIも変わる

神尾 Windows MobileのUIは、一般的な携帯電話としては使いにくく、これがユーザー層の拡大を阻む最大の要因になっているのではないかと思っています。しかも、UI体系が大きくは変わっていません。今後の改善では、このあたりにも手が入ってくるのでしょうか?

Photo 「OSのベースを買えるタイミングでは、UIもがらっと変わる」

梅田 そうですね。OSのベースを変えるタイミングではガラッとUIも変えようと思っています。昔から誤解があるのですが、マイクロソフト自身もUIについては制限を緩めて、パートナー様のやりたいようにする方向に舵を切っているんです。実際、HTC製のスマートフォン「EMONSTER」「HT1100」には独自のUIが採用されています。また、ここ数か月で出てくる新しいWindows Mobileからは、今までとは違う仕様になる見通しです。

神尾 ほかのWindows製品と違う考え方をしているのが、(カーナビなどに採用されている)「Windows Automotive」だと思います。あれはUI自体はメーカーが作っていて、マイクロソフトはUIスキンを実装するスキームやAPIを用意するという考え方で作っていますよね。Windows Mobileもメーカーが独自にUIを作り、切磋琢磨していった方が、モバイルという(PCに比べて)I/O的に制限のある領域で使いやすいものを作るにはいいと思うのですが、この点についてはいかがでしょうか。

梅田 (マイクロソフトは)黒子に徹して、ユーザーさんの目に見える部分は、メーカーさんがカスタマイズしていくというやり方は、方向性としては考えています。ただ一方で、携帯電話は同じキャリアやメーカーがUIを作っても、(OSや製品の)世代が変わると使い勝手も変わるところがあるので、ある程度作法が同じほうが、ユーザーから見たときに使いやすいという考え方もあります。ただ、UIのカスタマイズは必要になるでしょう。

神尾 選択肢をたくさん作る方向にしていくということですね。

石川温氏(以下敬称略) マイクロソフトとしては、独自にUIを強化していくということですね。

梅田 おっしゃるとりです。ただ、PCはマイクロソフトが新しい市場を作って、デファクトスタンダードになってきたところがあるので、我々がUIも含めてリードしていかないといけないという自負があります。しかしケータイの世界では我々は新規参入組であり、すでに世の中にはいろいろな携帯電話があって、それを使い慣れた人たちがいます。

 マイクロソフトならではのUIは用意しますが、マイクロソフトのWindows Mobileのブランド価値の源泉がどこにあるか、という点が重要になってくると思います。それが本当にUIなのかどうか。もしかしたらWebブラウザかもしれませんし、接続性なのかもしれません……。この点は、2〜3年前とは考え方が変わってきていますね。

神尾 UIはかなり地域市場の特性や傾向が大きく出る分野です。日本は特にそれが顕著だと思います。実際にWindows Mobileを使っていて感じるのが、どれだけ日本市場の声が届いているのか、UIの作り手が日本市場や日本語文化を理解しているのか、という部分なんです。それは日本語の扱いから始まって、いろいろなところで感じます。(iPhoneを作る)アップルさんは世界共通UIですけれども、多言語環境や非英語文化圏への理解や配慮があると感じています。フォント1つをとっても、「日本語を美しく」見せてくれます。Windows Mobileもそういう方向になって、地域市場に合わせた作り込みをしていくのか、という点も気になります。

梅田 そこは間違いなく強化されます。ただ、OSが開発されてから、そのOSが搭載されたデバイスが出るまでにはどうしても時間がかかってしまうので、こうしたタイムラグにはフラストレーションを感じますね。ただ、W-ZERO3が出てから「日本でもチャンスがあるよね」とわれわれ自身も思いましたし、そう思っていただいたキャリアさんも増えてきました。

 本社のWindows Mobileコアの開発チームには日本人を入れ始めました。本社の中で日本のモバイルオペレーター担当のプログラムマネージャーも2人いて、2人に付いている外国人のスタッフも日本語を話せます。そういう意味では、日本の仕様をOSに入れようという機運は高まっていますし、実際にそのための投資がなされています。ただ、「なるほど、よくなったな」と(成果を)実感できるには、もう少し時間がかかるでしょう。

石川 そういった体制に変わったのはどれくらい前からですか?

梅田 日本人が付き始めたのは1年半〜1年前です。それまでも、日本の仕様を取り入れることは日本サイドからも口をすっぱくして言ってきました。例えば、ワイドVGAディスプレイを搭載した機種がそうですが、ワールドワイドでここまでハイエンドなデバイスを企画している端末はありませんでした。

 Windows Mobileのような組み込みOSだと、PCのようにスケーラブルに解像度に対応できないところがあって、ワイドVGAに対応するとなると、それに合わせてOffice Mobileのいろいろなアプリケーションの画面のレイアウトを調整したりと、いろいろな作業が発生します。われわれがアメリカに行って個別に交渉するのにも限界があるので、日本に担当者を置いて、その人が定期的にキャリアさんやメーカーさんと話をするようにしています。

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