連載
» 2008年07月04日 13時43分 UPDATE

ケータイの未来を創る“裏方”列伝:“青山のデニーズ”で思いついた技術が“夏モデル18機種”に搭載されるまで――モルフォ(前編) (1/2)

「LUMIX」のテレビCMを見て思いつき、青山のデニーズで開発を決意――。こんなふうに生まれたケータイ向け手ブレ補正技術が、今や夏モデルの18機種に搭載されている。開発したのはモルフォという会社。同社の手ブレ補正技術は、なぜ多くのケータイメーカーに採用されるのか。

[荻窪圭,ITmedia]
sa_mf00.jpgPhoto 左からモルフォ代表取締役社長の平賀督基氏、営業本部広報担当の西谷友希氏

 日本のケータイは、ほとんどがNTTドコモやau、ソフトバンクモバイルといった、いわゆるケータイキャリアから発売されている。でも、いうまでもなく実際に端末を開発、製造しているのはシャープやNEC、パナソニック モバイルコミュニケーションズ、京セラなどの端末メーカーである。

 さらに端末開発は、キャリアとメーカーだけで成り立ってるわけじゃない。ネット上にはケータイ向けにさまざまなサービスを提供するコンテンツプロバイダが存在し、端末開発についても、個々の機能には無数の会社の技術が詰まっている。

 この連載ではケータイ開発において、ふだんはなかなか表に出てくることのない、“縁の下の力持ち”的な存在として技術を提供している企業に光を当ててみようと思ったわけである。

 連載第1回の企業として選んだのは「モルフォ」。NEC製の端末を使っている人にはおなじみの、ケータイカメラ向け“6軸手ブレ補正”機能を開発した企業だ。2006年に登場したNEC製の「N902iS」に初採用された同社の手ブレ補正技術は今や、「P906i」「SH906i」など、2008年夏モデルだけでも18端末に搭載されている。さらに2008年夏モデルからは、顔検出機能やワンセグ視聴時のフレーム補間機能を提供するなど、実はかなりすごいITベンチャーなのである。

 モルフォがあるのは東京大学の構内。東大発のベンチャー企業がオフィスを構える「東京大学アントレプレナープラザ」というビルがあり、モルフォもその中にある。

 この会社は技術だけでなく、(社長の個性も含めて)その成り立ちがなかなか面白いのも特筆すべき点だ。どのくらい面白いかというと、設立まもない時期に……いきなり「タモリ倶楽部」(テレビ朝日系列の20年以上続く長寿深夜番組)に登場しちゃったくらいである。ちなみに登場したのは2005年4月放送の「驚異の最新技術でデジタモリを作ろう!!」という回である。

 それではモルフォに、ケータイ向け手ブレ補正技術が生まれるまでの経緯や同社が持つ技術の特徴、同業他社にはないアドバンテージについて聞いていこう。

青山のデニーズで「ケータイ向け手ブレ補正をやろう」と思い立つ

ITmedia(聞き手:荻窪圭) まず自己紹介をお願いします

平賀氏 モルフォの社長です。もともと技術者出身で、今でも技術開発の責任者を務めていることから、それ以外のビジネスは他の取締役に助けてもらってます。東大発のベンチャーなので、東大出身者が社長にならないといけないかなと(笑)。

西谷氏 営業の業務管理やコーポレートマーケティングに携わってます。IT系って軟弱な世界だと思ってたんですが(笑)、今は世の中の最先端についていっているところが面白くて、のめりこんでます。

ITmedia 技術者出身ということは、新しく開発した技術があり、それを生かすために起業したのだと思います。それはどんな技術だったのでしょう?

平賀氏 最初は映像配信システムやオーサリングツールを作ろうと思っていたんです。具体的には「イメージベースのヴァーチャルリアリティ」ですね。実写の写真をベースにノンリニアで映像を作れないかと考えていて、そのネタで「タモリ倶楽部」に出演しました。動きベクトル検出の技術を使って、数枚の静止画からモーフィングなどの動画を作る――という回でした。

 ただこの技術は、“技術”としては面白くてもビジネスモデルが難しかったんです。いざ出資してもらおうとなると「これでどうやって金を儲けるんだ?」といわれまして。そうこうしているうちに、資金が底をついてしまったんです。

ITmedia それで静止画の画像処理の技術を?

平賀氏 同じ研究室出身の共同設立者と「これからどうしよう……」と青山のデニーズで途方に暮れているときに、「手ブレ補正をやろう」と決めたんです。テレビを見てたら、ちょうどパナソニック製のデジタルカメラ「LUMIX」のCMをやっていて。手ブレ補正の宣伝ですね。これはデジカメではいいけど、そのままではケータイには入らない。そこで“ソフトウェアでやろう”と。そういう意味では、浜崎あゆみさんに感謝してます(笑)。

 もともと動きを検出する技術は自分たちでスクラッチから作っていたんです。それを他の分野に応用できないかな、と考えたとき、静止画の手ブレ補正に使えるんじゃないかと。つまり、“露出はアンダーでいいからシャッタースピードを早くした写真を何枚か撮って、それを重ねてやればいいんじゃないか”と。その発想自体が新しいわけではないのですが、我々には“動き検出を高速で高精度に行う技術”という強みがあったんです。

モルフォの手ブレ補正はどこがすごいのか

平賀氏 「じゃあ作ってみよう」ということでPC上で試作して、とある大手デジカメメーカーへ持ち込んでプレゼンしたんです。でもダメでした。カメラの世界にはカメラの世界の歴史があって、“ソフトウェアだけで手ブレ補正を行う”という手法が、すぐには受け入れられなかったんですね。

ITmedia 確かに、デジカメの世界はすべて「光学式手ブレ補正」でやっていますね。

平賀氏 それなら“同じようにカメラが付いている機械でこれから発展するものはないか”と考えたとき、そこにケータイがあったんです。それで最初に門を叩いたのがNECさんでした。今思うと、それがよかったですね。やはり自社でデジカメを手がけているところはどうしても自社のデジカメの技術と比較されてしまいますから。

 そして、最初に我々の技術が採用されたのが「N902iS」です。ただのデジタル手ブレ補正ではなく、6軸の手ブレを補正できる“スーパーデジタル手ブレ補正”だったところが、採用の決め手だったと思います。

ITmedia 6軸の前に、まずは“ソフトウェアで手ブレを補正する”という技術の基本について教えてください。

平賀氏 そもそも、静止画の手ブレがなぜ起きるかというと、露光中(シャッターが開いている時間)にカメラが動くことによって像がブレちゃうからなんです。露光時間が長い(シャッタースピードが遅い)と動きによるブレが大きくなる。でもシャッタースピードが速いとカメラの動きによる影響がでなくなる。つまりシャッタースピードを速くすればいいわけです。

 でも無理に速くすると、露出不足の暗い絵になるか、ノイズが増えてしまう。では、ノイズが少なくてブレのない写真を撮るにはどうするか。露出不足の写真を3〜4枚連写して、重ねてやればいいわけです。そうすることで、ランダムノイズを減らすことができます。おおもとの原理はそれですね。

Photo 連写した写真を重ねて動きデータを検出し、それに基づいて手ブレを補正する

 さらに複数枚撮ると、手がブレていたとき、1枚目と2枚目、2枚目と3枚目で絵がずれるんです。ずれたまま合成するとブレた写真になるので、位置補正をしてから合成するわけです。そのとき、普通は縦横だけなのですが、我々は6つの方向で検出するのです。

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