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» 2008年07月25日 09時23分 UPDATE

小牟田啓博のD-room:第22回 iPhone 3Gというインパクト、国内メーカーにはないAppleの割り切り

数々の端末を世に送り出してきたデザインプロデューサーの小牟田啓博氏が、日常で感じたこと、経験したことを書き綴る「小牟田啓博のD-room」。かつてないほどの“お祭り騒ぎ”となった「iPhone 3G」には、国内メーカーにはない“Apple流”のモノ作りが見える。

[小牟田啓博,ITmedia]
sm080725001.jpg 全世界21の国と地域で同時発売された「iPhone 3G」。発売3日間で100万台に達したという

 暑いですね! 梅雨が明け、本格的な夏が到来しました。この暑い夏、日本のケータイ市場をヒートアップさせているのが、ご存じ「iPhone 3G」です。

 当初、どこのキャリアで導入されるのかと、いろいろな憶測やウワサが飛んでいましたよね。「ドコモじゃないか?」「いや、ソフトバンクじゃない」とか……。

 そして6月10日の発表を経て、7月11日、ついにソフトバンクモバイルからiPhone 3Gが発売されました。

 発売初日、東京表参道にあるソフトバンクショップには、発売日の3日も前の8日からiPhone 3G欲しさに並んだつわものもいたようで、初日にはおよそ1400人超の長い列ができたそうです。

 すごいですよね。しかも、孫社長自ら発売日にお客さんを迎えたのです。この話題にもソフトバンクのiPhone 3Gに対する期待値が見えてきますね。

 11日が金曜日でしたから、土曜日、日曜日と、マスコミのこの話題の取り上げ方も半端じゃありませんでした。全世界の21の国と地域で同時発売されたiPhone 3Gは、3日間で販売台数が何と100万台に達したということです。

 こうした社会現象とも言えるほど話題の的となったiPhone 3Gの完成された世界観からくるデザインと、“触る”ことの心地よさはどうなのか。当然のことながら、今回はこの辺りを探っていきたいと思います。

本体を取り出す前のパッケージにも“触る”楽しさを演出

sm080725002.jpg 国内のケータイには見られない秀逸なパッケージデザイン

 まずは何と言ってもデザインのよさと、完成度の高さが秀逸です。本体を取り出す前のパッケージ。マットブラックやホワイトの静かでありつつ主張の強いボックスが“触る”楽しさを十分に演出してくれています。

 これは近年のApple製品全般に見られる統一した世界観です。ホワイト、ブラック、シルバーといったミニマルなモノトーンをシンプルにまとめることで、Appleのアイデンティティーかのようにイメージを押さえてしまっている。これって、インパクトが強いんですよね、デザインを展開する上では……。

 だって、これだけ完成度が高いミニマルカラーでデザインがまとまっていると、後から登場させる競合他社が同じようなテーマのデザインをしても、後だしジャンケンをして負けちゃうくらいに、スマートでなく感じてしまうからなのです。

 もちろんパッケージだけでなく、本体や周辺アクセサリーデザインについても同様です。本来目的であるはずの、“本体に触れる”前から完成された世界観を演出されて、いわば刷り込みをされているようなものなのです。

 買った本人は一気に満足度が上がって、ファンになってしまう確率が高くなるというわけです。

 パッケージデザインについてもう少し触れておくと、確かにミニマルなデザインで完成度が高いのだけども、シンプル過ぎてユーザーを突き放すような気取ったデザインになっていない、という点が本当にいいのだと思います。

初代iPhoneからサイズアップしたことを感じさせないデザインの妙

 いよいよ本体です。まず6月10日にソフトバンクモバイルからの発売発表があった時点で僕が驚いたのが、日本で登場するiPhoneが「3G(第3世代)端末」だということ。

 日本市場では、今回のiPhone 3Gが初上陸モデルとなるのですが、世界的には3Gでない2G(GSM)モデルの「iPhone」が話題をさらっていました。

 日本の携帯電話市場では、3Gが圧倒的な主流です。それに対して、そうでない2G端末のiPhoneは、実際にネットワークのパフォーマンスを使いこなすかどうかは別として、通信速度が遅い点が技術的なハンディキャップとなるのかな、と思っていました。

 ですが、iPhoneが3Gモデルとして登場することで、iPhoneの描く将来像が理解しやすくなるのです。

 iPhoneが3G化されたことで、パフォーマンスの向上だけでなく、ハードのデザインも若干の変わっています。若干といっても本体サイズが少々大きくなっているという程度なのですが、ケータイはサイズが1ミリ違うとまったく別物のような印象を受けるものです。

 そのためサイズだけで見るのではなく、実際には触って握って確かめてみる必要があります。するとですね、人にもよりますが、先代よりも握ったときの感触が向上したと感じる人もいる、というくらいによく練りこまれた造形をしていることが分かります。

 本体サイズが大きくなっているのに握り感が向上したと感じさせるのは、まさにデザインの妙だと思います。

 もう1つの驚きは、ボディカラーが先代はシルバー一色だったのに対しiPhone 3Gでは、ブラックとホワイトの2色展開となっている点です。

 先代iPhoneの裏面はアルミニウムでしたが、iPhone 3Gでは光沢樹脂を採用しており、全光沢の質感は、まるでワンオフ製品かのように非常に高い仕上がりです。 樹脂成形の上から、強度的にもおそらくUVコーティングがなされているのだと思うのですが、塗装面特有の柚子肌が見えない。Appleのことですから、UV塗装後にバフ掛けくらいはしているのかもしれません。とにかく表面の仕上がりがパーフェクトにきれいです。

電池交換という発想を割り切るなど、1つの造形でつながった面構成

sm080725003.jpg 16Gバイトモデルのみにラインアップされているホワイトバージョン。右側に写っているパッケージもブラックモデルとは違うホワイトバージョン

 特に今回新たなカラーとして登場した、16Gバイトモデルのみにラインアップされているホワイトバージョンは、僕としては非常にお勧めです。質の高い大理石か象牙を思わせるリッチな白さが好印象です。

 ホワイトはブラックと比較して指紋が目立たないので、ボディが美しく保たれている印象を受けます。

 形状についても相当練られていて、先代が裏面をフラットにして角を丸くカットしていたのに対し、3Gでは裏面から側面にかけて自由曲線の連続でサーフェス(面)が構成されていて、裏面から正面(タッチパネル面)まで1つの造形でつながった面構成をしています。

 この面処理によって、若干のサイズアップがネガティブに感じないのです。とてもしっくりくるハンドリングを実現しています。先代のマットシルバーの質感が光沢仕上げとなったことで、すべり落ちてしまいそうな不安感も少なくなった印象です。

 仕上がりに関しても、先代iPhoneと同様にパーティングラインの合わせが非常に美しく、さらに電池交換というメンテナンスを完全に割り切っているために、普通は必ず存在するはずのバッテリーカバーがありません。

sm080725004.jpg バッテリーカバーが存在しないから裏面のボディーラインもすっきりしていて美しい

 バッテリーの交換はショップ対応になるものの、メンテナンスもサービス対応という発想によるモノ作りが、本体を美しい仕上がりに魅せることに大きく貢献しているという好例です。

 一方、正面の操作面は、全面ガラスのタッチパネルでできていて、ガラスの中に1カ所だけ、インタフェースで非常に重要な役割を果たすボタンが配置されています。ハードとして、僕はこの辺りの造作が非常に素晴らしいと感じています。

 どういうことかと言うと、ガラスパネルに丸いボタン形状の穴が空いています。これ自体はどうということはないのに、このボタンとガラスパネルのクリアランス(すき間)が皆無に近いような印象を受けるのです。

 パネルにボタンをレイアウトするのはよくあることです。しかし、通常、すき間をこれだけキチキチに詰めて作られることはなく、ボタンに手を置いて前後左右に動かすとパネルとのすき間で動く“遊び”ができるのに、iPhone 3Gにはこの“遊び”が見当たりません。

 こういった作り込みのこだわり部分に、Appleのモノ作りやデザインに対する想いが垣間見えます。この割り切りが、日本のモノ作りのスタンダードからすると、かなりうらやましい部分でもあるのです。

一番の特徴は、タッチパネルを使って思うがままに操作できるUI

 今回のiPhone 3Gの一番の特徴は、なんと言ってもタッチパネルを導入したUI(ユーザーインタフェース)でしょう。

 iPhone 3Gに限らず、Apple製品の一番の特徴であり、ユーザーの気持ちをわしづかみにして離さないのが、この操作性に優れたUIです。

 前述の、正面に1つだけ存在するキーとタッチパネルによるタッチ操作だけで完結するインタフェースのずごさは、ヒトとモノとの距離感を一気に縮めることに成功しています。

 言葉じりだけの使いやすさの追求とはわけが違っていて、気持ちよく日常で使い続けることができるセンス。とことんまで完成に向かって造り込まれているのが、AppleのUIと言えるでしょう。

 最初に触れるメインメニューの画面には、認識しやすいアイコンが整然と並んでいます。このアイコンを画面の上からタッチしていくことで、iPhone 3Gの階層ワールドに入って行くことになります。

 画面をタッチして深く入り込んで行く操作をしながら、戻りの作業をパネル面にたった1つだけあるボタンで行います。このミニマムの操作こそが、iPhone 3Gを自在に操るすべての操作となります。

 UI上のディテールには魅力的な部分が随所にありますが、この操作で基本的な操作のほとんどができるところにまで煮詰めて開発してきた歴史こそ、AppleのAppleたる部分だと思います。

 この基本操作に加えて、画面をめくる操作は画面を指でめくる方向になぞる。画面の拡大、縮小も画面上を2本の指で操作をするなど、特徴的な操作もいくつかあります。

 こういった発想と、それを実現したノウハウが素晴らしいことは言うまでもありませんが、それ以上にスムーズにストレスなく、それこそイメージ通りにアクションを行えるというサクサク感が非常に気持ちいいのです。この技術と実稼働とのバランスが秀逸なために、操作していて気持ちいいと感じるのだと思います。

sm080725005.jpg ディスプレイは「ハーフVGA」を採用しながらも高精細な画面の印象を実現している

 最後にインタフェースで特筆しておきたいのがディスプレイです。国内のケータイ市場で主流となりつつあるる「ワイドVGA(480×854/480×864ピクセル)」に対し、このiPhone 3Gでは解像度がVGAの半分の「ハーフVGA(320×480ピクセル)」なのです。

 なのにストレスを感じるどころか、非常に高精細な画面の印象を実現しています。iPhone 3Gの特徴であるマップ表示や動画再生などは、デザインと表示パフォーマンスを実にバランスよく表現していて、液晶デバイスの解像度に対してほとんど不満を感じることはありません。この辺りも、Appleの製品に対するこだわりとデザイン完成度の高さのすごさでしょうね。

 さぁ、ここまでべた褒めできましたけど、別の側面もお話ししておきましょう。

 すべての操作をタッチパネルで行うインタフェースこそがiPhoneの魅力でありオリジナリティです。でも、日本のケータイ市場はメール文化とも言えます。メールの命であるキー入力とその操作感は、ケータイメーカー各社の技術の真骨頂です。iPhoneのタッチパネルでの入力は、こうした既存のキーでの文字入力と比べると、操作感が劣る点は否めません。メールのメインユーザーである若い女性の高い要求レベルに、常に喰らいついて開発し、技術を進歩させてきた日本の端末メーカーの技術の前では、iPhoneの日本語入力は非力に映ります。

 この辺りは論点の分かれる部分だと思うのですが、iPhoneはそもそもコンセプトと用途の違う製品というのが僕の考えです。タッチパネルで使いたい人はタッチパネルで、キー入力で使いたい人はキー入力で、というふうに市場が細分化されて、ユーザーにとっては選択肢が増えた、ということなのだろうと思います。

 今後も、いろいろな意味でiPhone 3Gが話題になるでしょうし、今後のケータイ市場に少なからずインパクトを与えることは間違いないでしょう。そんな中、僕は日本のエンジニアの方々にiPhone 3Gを越える製品をぜひ作ってほしいと思っています。

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PROFILE 小牟田啓博(こむたよしひろ)

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1991年カシオ計算機デザインセンター入社。2001年KDDIに移籍し、「au design project」を立ち上げ、デザインディレクションを通じて同社の携帯電話事業に貢献。2006年幅広い領域に対するデザイン・ブランドコンサルティングの実現を目指してKom&Co.を設立。日々の出来事をつづったブログ小牟田啓博の「日々是好日」も公開中。国立京都工芸繊維大学特任准教授。


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