病院もホスピタリティの時代――日本初、電子カルテ連動のFeliCa診察券神尾寿の時事日想・特別編(2/2 ページ)

» 2008年07月30日 14時39分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
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 さらにFeliCa診察券は、患者の取り違いなど医療現場におけるミスを防止する役割も担っている。患者ひとりひとりの電子カルテはFeliCa診察券の認証キーと連動して呼び出される仕組みになっており、同姓同名の患者が同じ時間帯に来院しても、混乱なく適切な電子カルテが扱えるという。

 「現在は受付時にFeliCa診察券で認証し、診察室に電子カルテ情報を回すスキームですが、次のフェイズでは(受付後の)診療時や検査時にも認証する仕組みにしていきます。これにより、さらに確実かつ安全に電子カルテ情報を扱うことができます。また、FeliCaは“かざすだけ”と、認証が簡単かつスピーディーですので、患者側の(個々の認証における)煩雑さや負担が最小限に抑えられるのもメリットですね」(棚町氏)

医療サービスのクオリティと顧客満足度の向上を目指す

 このようにPIECeは、電子カルテとFeliCaを組み合わせ、医療現場の安全性や効率性を高める最新のシステムになっている。パークサイド広尾レディスクリニックではなぜ、これほど先進性が高く、充実した情報システムを導入したのだろうか。

 「一般的な病院と異なり、クリニックでは医療サービスを提供するというスタンスがあります。特に我々は、広尾という立地で、女性向けのクリニックとして開業しておりますので、来院者の中にはクオリティの高さを求める方がとても多くいらっしゃいます。ですから、サービスのクオリティを高め、患者の皆さまの満足度の向上を常に考えていかなければなりません」(棚町氏)

 また、女性向けの医療では、産婦人科を筆頭に自費診療が多いという事情もある。パークサイド広尾レディスクリニックでは、保険診療と自費診療の比率は、ほぼ半々だという。自費診療の場合、患者側も「サービスを選ぶ」という意識が高くなるため、より“選ばれるための努力・投資”が必要になるのだ。

 「例えば、今回のFeliCa診察券の導入にあたり、最も腐心し、苦労したのはカードのデザインでした。病院らしくないもの、高級フィットネスクラブの会員証のようなデザインを目指しました。そこで30以上のサンプルパターンを制作し、最終的には、デザイン業界の仕事を経験した経歴がある看護師を中心とした女性の(プロジェクト)チームで決めました」(棚町氏)

 実際にできあがったカードは、とてもシンプルで飽きのこないデザインだ。写真では分かりにくいが、光の加減によって色合いが変わるパール系の特殊な塗装が施されている。「これまで発行されたFeliCaカード全体で見ても、このパール系塗装は初めての試みになった」(フェリカポケットマーケティング)というこだわりようである。

 さらにデザインだけでなく、今後は顧客満足度向上に繋がる受付体制作りで、FeliCa診察券を活用していくという。

 「顧客満足度の観点から言いますと、最も重要なのは『時間』です。可能なかぎり患者の皆さまの希望通りの時間で予約していただき、来院後は待たせない体制作りが大切になります。ここでFeliCa診察券を導入した効果を引き出していきたい」(棚町氏)

 パークサイド広尾レディスクリニックでは、すでに完全予約制を採用している。現在は医師やスタッフの配置によって曜日・時間帯ごとに予約枠を設定しているが、FeliCa診察券によって蓄積される情報で来院状況の傾向分析や予測が可能になれば、「来院ニーズの多い曜日・時間帯に応じて、細分化して予約枠の調整ができるようになる。医師やスタッフの配置を最適化し、お客様のニーズに最大限にお応えしながら、現場の負担も抑える体制作りが可能になる」(棚町氏)という。

 さらに受付だけでなく、クリニック全体にFeliCa診察券の認証ステップを設けることで、“患者を待たせない”ための仕組み作りにも取り組んでいくという。

 「(今後、)診察や検査の各ステップでもFeliCa診察券での認証を行えば、受付後のそれぞれの段階で、どの程度(患者に)お待ちいただいたのが正確に把握できます。どういった状況で待ち時間が発生しているかが把握できれば、待ち時間削減に向けた改善の取り組みができる。医師による診療はゆったりと受けていただきながら、全体としては待ち時間を少なくする。来院された方をお待たせしない診療体制作りに、(FeliCa診察券の導入で得られる)これらの情報は役立つのです」(棚町氏)

最終的には、半数をおサイフケータイ利用にしたい

 パークサイド広尾レディスクリニックのFeliCa診察券システムは、8月1日から「FeliCaポケットモバイル」を用いて、おサイフケータイの利用も可能になる。棚町氏は、このおサイフケータイ利用を積極的に推進したいと話す。

 「当クリニックに来院される方々は、20代後半〜30代の女性が多い。アクティブに仕事や生活をされている方が大半ですので、ケータイを使いこなしている方も多くいらっしゃいます。ですから、おサイフケータイの利用は、長い目で見れば相性がいいと考えています。簡単に使えるものとしてFeliCaカード型を用意していますが、将来的には来院者の半分程度は、おサイフケータイの利用にしていきたい」(棚町氏)

 すでにクリニックの予約受付システムはケータイに対応しており、おサイフケータイの診察券対応を推進することが、「ケータイ予約」の利用率向上に繋がるという期待もある。FeliCaカードのデザインにこだわる一方で、女性と相性がいい「おサイフケータイの活用」も合わせて推進するという姿勢である。

パークサイド広尾レディスクリニックの受付風景。カウンターの上にリーダー/ライターが設置されている(左)。なお、現在のリーダー/ライターは暫定的に設置されたもの。今年9月から、よりデザイン性の高い新タイプに置き換えられるという。ここでも「デザインを重視した空間作り」が貫かれている(右)

新タイプのリーダー/ライター。小型で白を基調としたデザイン性の高いモデルだ。カードとおサイフケータイの両方に対応する

 医療分野における電子化、ITサービスの導入というと、とかく「合理化・効率化」や「管理性」ばかりが重視されたものになりがちだ。しかし、パークサイド広尾レディスクリニックのFeliCa診察券の導入では、それらの点がしっかりと押さえられているのはもちろんだが、“来院される方に満足してもらうためのサービス作り”が考えられている。ホスピタリティ重視の姿勢が、電子カルテとFeliCaの特性やメリットをしっかりと引き出す要因になっている。

 医療におけるITサービス市場は今後さらに成長する。そしてそこは、ユーザーの使いやすさや利便性を重視して作られた“幸せのカード・FeliCa”にとっても、新ビジネスの可能性となる場所である。今後の広がりに期待したい。

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