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» 2008年11月18日 10時00分 UPDATE

神尾寿のMobile+Views:カーナビ市場の黒船となるか──ナビタイム「WND」の狙いと戦略 (1/2)

携帯電話向けの「NAVITIME」やクルマの同乗者向けの「ドライブサポーター」といったナビサービスを提供するナビタイムジャパンが、運転者向けに提供する新デバイスが「WND」だ。社長の大西啓介氏に、ナビタイムの成長とWNDの狙いを聞いた。

[神尾寿,ITmedia]

 携帯電話とGPSは相性がいい。これを実際のサービスとビジネスの成功によって証明したのが、ナビタイムジャパン(以降、ナビタイム)だ。同社はKDDIとともにau向けのGPSナビゲーションサービス「EZナビウォーク」を開発、成功させた。その後、ドコモやソフトバンクモバイルを初めとする国内キャリア向けに自社ブランドサービス「NAVITIME」を展開。日本の携帯電話向けGPSナビゲーションサービスにとって、“ナビタイム”は知名度・内容ともに随一のブランドとして市場をリードしている。

Photo ナビタイムジャパン 代表取締役社長の大西啓介氏

 携帯電話向けGPSナビゲーション市場を創出し、その拡大とともにナビタイムは成長してきた。そして、同社が次なる一歩として踏み出すのが、成長著しいパーソナルナビゲーションデバイス(PND)市場だ。PNDは欧州市場と北米市場を中心に急成長を続けており、日本でも2007年から急速に市場規模を拡大。今までの高付加価値・高価格な据え付け型カーナビが“取り切れなかった”新たなカーナビ市場を開拓する形で、成長し始めている。ナビタイムはここに“携帯ナビ”を発展させたコンセプト「WND」(ワイヤレスナビゲーションデバイス)で挑戦する。

 携帯電話向けGPSナビゲーション市場で成功を収めたナビタイムは、次なる成長プランをどのように描いているのか。ナビタイムジャパン 代表取締役社長の大西啓介氏に話を聞いた。

年内に単独100万契約を突破──リアルタイム情報が人気

 近ごろの携帯電話業界は、端末の販売不振を筆頭に厳しい局面が続いているが、“GPSナビゲーションサービス”を売るナビタイムの成長は依然好調だ。GPS搭載携帯電話の普及、パケット定額制の広まりなどもあり、「新規契約者が2007年を上回るペースで増えている」(大西氏)という。特にこの冬商戦期を見据えると、NTTドコモが10月1日から2段階定額制「パケ・ホーダイ ダブル」を投入。ドコモショップでの拡販も旺盛であり、最大シェアを誇るドコモでパケット定額制の裾野が拡大、多くのユーザーが定額制プランに移行する見込みだ。これは「GPS+定額制」がユーザー獲得・利用促進の大きな要因となるナビタイムにとっても、追い風といえる。

 「(KDDIと共同運営している)EZナビウォークとEZ助手席ナビのユーザー数は我々からは発表できないのですが、au以外で展開している『NAVITIME』サービスの有料会員数は約95万人となっています。自社ブランドサービスだけで年内に100万会員を突破するのは、ほぼ確実と言えるでしょう」(大西氏)

 また、もう1つ注目なのが、「会員増加のペースが一定化しており、解約率も低い」(大西氏)ことだろう。携帯電話の端末市場と同じく、GPSナビゲーションサービスの契約者数が一気に増えるのは春商戦だが、それを過ぎても季節変動が少なく、新規契約が増えているという。これはGPSナビゲーションサービスの価値や効果が広く認知されてきたことと、エンターテインメント系コンテンツと異なり、ユーザーのニーズ変動が少ない実用系サービスであることが理由だろう。

 「サービス全体の伸びの中で、特に手応えを感じているのは、助手席向けカーナビゲーションの『ドライブサポーター』ですね。こちらは対応機種がまだ少ないというハードルがあるのですが、新規契約者の伸びが大きい。8月の夏休みシーズンにはかなりの数の新規加入がありました。クルマ向けのサービスも浸透してきていると感じています。

 また、個別のサービス項目としては、『鉄道運行情報メール』などリアルタイム情報の人気が高い。特に今年の夏は“ゲリラ雷雨”がずいぶんとありましたので、運行情報メールや、ドライブサポーターのリアルタイム道路交通情報に高い評価をいただきました。リアルタイムコンテンツが、ナビゲーションサービスのキラーコンテンツになるのは明確ですね」(大西氏)

 ナビタイムは鉄道運行情報メールや、クルマ向けの道路交通情報のほかにも、バスの運行情報や駐車場の満車・空車情報など、さまざまなリアルタイムコンテンツを用意している。これらは常にサーバと情報をやりとりをする「通信型ナビ」ならではのものだ。リアルタイムコンテンツの拡充は、今後の携帯向けGPSナビゲーションの進化にとっても注目と言えそうだ。

WNDは「クルマ向けサービス」の拡充

 NAVITIMEはその始まりが「携帯電話向け」だったため、“携帯GPSナビゲーションサービス”が中心だと考えられている。実際、ナビタイムのビジネスは今のところ携帯電話向けが収益の柱であるが、NAVITIME自体のコンセプトは「サーバ中心で、さまざまな端末にナビゲーションサービスを提供していく」ところにある。携帯電話向けを主軸に、PC向けサービスの「NAVITIME」(http://www.navitime.co.jp/)、スマートフォン向けサービスなどが、均等に進化し、相互に連携する仕組みになっていることからも、それは分かるだろう。

 この基本コンセプトの中で、新たに発表された「WND」は、“クルマ”というナビゲーションビジネスで重要な市場をカバーするものという位置づけになる。

 「EZ助手席ナビやドライブサポーターは携帯電話向けサービスなので、ドライバー自身が運転中に操作することはできず、『同乗者向け』という位置づけでした。つまり、今までドライバーがNAVITIMEを使える端末がありませんでした。WNDはNAVITIMEのサービスをドライバーに直接提供し、携帯電話やPC向けのサービスと地点登録データや履歴などのパーソナル情報、すでに用意されているリアルタイムコンテンツを(ドライバーに)使ってもらうための製品という位置づけです」(大西氏)

 目下、急成長しているPNDは、程度の差こそあれスタンドアローン(単体)での利用を前提にし、シンプルな構成で低価格化を実現した「簡易型カーナビ」だ。それらとWNDが本質的に異なるのは、あくまで“NAVITIMEというサービスを利用するための端末”であることだ。サーバによるパーソナル情報の管理やリアルタイムコンテンツの提供、ケータイやPC向けWebサービス連動といった要素は、付加価値ではなく基本機能となっている。サーバサービスが中心にあり、その周辺にPCや携帯電話、スマートフォンなど各種端末を「利用機器」として用意していく。その輪の中に、クルマ向けのWNDは存在している。

PhotoPhoto 開発中のWNDの画面。タッチパネル操作に最適化した画面と、高精細なディスプレイを生かせる精細な地図表示が特徴

 「WNDのコンセプト自体は昔からあって、ずっとやりたいと思っていました。しかし、ここで大きなハードルとなっていたのが、通信コストの高さです。クルマ専用のパケット定額制で、安価なサービスが登場しないとWNDは成立しません。

 しかし、今後のワイヤレスブロードバンド時代を見据えますと、キャリアは『1ユーザー/1契約』といった考え方になり、その契約に携帯電話だけでなくさまざまな専用機器が紐付いて課金される形になると予想しています。(ナビゲーションの)WNDに限らず、音楽や動画、電子書籍など多様な端末が通信機能を持ち、それが1契約の下でパケット定額制が適用される。これはユーザーニーズの変化・拡大を考えれば当然な流れでしょう。どこかのキャリアが、ユーザーの声に応える形で、1契約で複数端末に適用可能な通信サービスを提供し、それが市場に広がると想像しています」(大西氏)

 PNDの登場と市場拡大は、小型のナビゲーション端末を安価で製造できるというプロダクト側の背景が大きな要因になっていた。一方で、ナビタイムがWNDを提唱する背景には、「ワイヤレスブロードバンド時代の到来と、そのインフラを使う端末市場の成熟」(大西氏)というインフラ側の予測がある。

 「WNDにとって重要なのは市場投入のタイミングです。インフラ側の準備が整い、市場環境が変わるタイミングを見極めなければなりません。

 一方で、我々がWNDを作る開発リソースの面で見ますと、すでにサーバ側のサービスやリアルタイムコンテンツは存在しますし、あまり知られていませんが(ナビタイムはOEMで)PND向けのナビゲーションエンジンも開発しています。実はそれほど新規の投資は必要ないのです」(大西氏)

 ナビタイムの強みは、すでに社内にあったコンシューマー市場向けの「NAVITIME」と、OEM販売が主になる法人向けNAVITIMEエンジンの開発リソースを組み合わせることで、タイムリーかつ低コストでWNDが投入できることだ。

 「ほかにも、各種リアルタイム情報の収集・配信システムや、グルメ情報やクーポン情報の提供などまで考えますと、これらをサーバシステム込みでゼロから構築するとなると時間がかかりますし、『クルマ向け』だけでは採算性が合いません。

 しかし我々は、すでに携帯電話向けNAVITIMEで、これらリアルタイムコンテンツの仕組みを用意していますので、開発・運用のどちらも(携帯電話市場とシェアすることで)コスト的に有利になります。またすでにユーザー規模が大きいので、リアルタイムコンテンツも集めやすいという優位性もあります」(大西氏)

 むろん、こうした優位性を受けてWNDが商品化されるには、前述のとおりモバイル通信インフラの進化とサービスの成熟が必要になる。大西氏はそのタイミングが「今後1〜2年くらいで到来する」と見る。

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