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» 2008年12月25日 09時44分 UPDATE

小牟田啓博のD-room:第27回 2008年のケータイデザインを振返る。そして僕のこれから――

数々の端末を世に送り出してきたデザインプロデューサーの小牟田啓博氏が、日常で感じたこと、経験したことを書き綴る「小牟田啓博のD-room」。特徴的な端末が多数登場した2008年を振り返るとともに、2009年は「ケータイデザインの開発に深く携わる」という自身のこれからを語る。

[小牟田啓博,ITmedia]

 今回は、「iPhone 3G」の登場を始めとする2008年のケータイの市場動向を振り返るとともに、僕の2009年についてお話させていただきたいと思います。

MVNOによるディズニーモバイル参入、お祭り騒ぎとなったiPhone 3G発売

 iPhone 3Gの登場もさることながら、日本のケータイ業界に大きなインパクトを与えたと思うのが、3月1日にサービスインした「ディズニーモバイル」でした。

 「MVNO(Mobile Virtual Network Operator : 仮想移動体通信事業者)」によって、ウォルト・ディズニー・ジャパンとソフトバンクモバイルが満を持して携帯電話サービスを共同でスタートさせ、このディズニーモバイルの登場を皮切りに、2008年が始まりました。

sm081221001.jpgsm081221002.jpgsm081221003.jpg 左からディズニー・ケータイの1号機となった「DM001SH」、シンデレラをモチーフにした「DM002SH」、光の魔法をテーマにした「DM003SH」と、2008年にディズニーの世界観を満載した端末が3機種も投入された

 ディズニー・ケータイの1号機となった「DM001SH」のデザインは、ベースモデルであるソフトバンクの「THE PREMIUM」シリーズのテイストを色濃く残しつつも、端末の各部にディズニーらしさが表現され、「GUI」(Graphical User Interface)の操作画面でもしっかりとディズニーの“夢と魔法”の世界観が再現されていました。

 続いて夏モデルとして「DM002SH」、冬モデルとして「DM003SH」が発売され、すでにディズニー・ケータイは3機種が登場しています。

 続いて、7月11日にはソフトバンクモバイルからAppleのiPhone 3Gが登場。マスコミでも大きく報じられるなど、ケータイ業界を超えた各方面で大きな話題となりました。

sm081221004.jpg デザインのよさと完成度の高さが秀逸な「iPhone 3G」。Appleの世界観が味わえる端末と言っていいだろう

 このiPhone 3Gは日本のケータイ市場だけでなく、世界中に旋風を巻き起こしましたね。さまざまな楽曲や映像コンテンツ、アプリケーションを配信する自社サービスと、Appleが長年にわたって培ってきた完成されたデザインが統一された、独特の世界観が味わえる端末に仕上ったと言っていいでしょう。

 ちょっと話が逸れてしまいますが、僕は「iPod touch」を使っています。このiTunesの世界が結構面白くて、音楽のダウンロードはもちろん、「おやすみヨガ」や「ねたまんまヨガ」という寝るときに聞くヨガのコンテンツを気に入って利用しています。

 もう1つ、「aSleep」という、これも寝るときに聞く音楽アプリがお気に入りです。音楽というよりは“音”なのです。ひたすら雨音を聞いていたり、雷の音を聞いていたり――。Beach、Forest、GardenWind、Airplane、Cabin、Helicopterなど、およそ50種類の効果音や音楽が用意されたアプリなのです。心地よい睡眠の導入を助けてくれるという、とても“今”らしいアプリです。

 話を元に戻して、iPhone 3Gをデザインという観点でお話しすると、これまでの常識では考えられないくらいこだわったハードウェアの作り込みがなされています。

 例えば、バッテリーはユーザーが直接交換できないようになっていて、ショップ預かりで対応するという割り切り方です。これにより、本体サイズを劇的にコンパクトにすることに成功しています。

 また、外側から目に見える部品の組み付けにも配慮が行き届いています。通常は部品と部品を合わせたラインには、溝を設けたり曲線を付けるなど、何かしらのギャップを取るものなのですが、このiPhone 3Gでは部品間のギャップを徹底的に攻め込んでぴったりと、極限までゼロに合わせているのです。これにより、高い精緻感を味わえるデザインに仕上がっています。

 こういったディテールにまで徹底的にこだわったモノ作りを実現しているのが、Appleの真骨頂ですよね。iPhone 3Gの世界感は、今後さらに新たな展開を見せるでしょう。引き続き楽しみにしています。

防水機能やブランドコラボなど、魅力的な企画端末が登場

sm081221005.jpg ケータイがスポーツのシーンにも飛び出してきたというアプローチにより、アディダスとのコラボレーションで生まれた「sportio」

 夏モデルは、これまでにない魅力的な企画端末がいくつも登場しました。その1つが、au(KDDI)から登場した「sportio」です。

 これは“携帯電話をスポーツに活用する”というライフスタイルの提案から生まれたもので、利用シーンを深くイメージさせる魅力と特徴のあるGUIを持つ端末に仕上がっています。

 “アクティブなケータイ”という枠を超え、ケータイとスポーツを連携させるというアプローチは、企画コンセプトの面でも高く評価したいと思います。ただ、キーレイアウトが特徴的なので、一般的なユーザーからすると少し使いにくさを感じるかもしれません。今後の改善に期待しています。

sm081221006.jpg “防水機能”と言えばカシオ製のG'zOneシリーズを思い浮かぶが、「G'zOne W62CA」は同シリーズの夏モデルとして登場

 携帯端末のコンセプトやデザインが、人の生活を豊かにしたりサポートしたりという形で、日常生活に役立つのは素晴らしいことです。もっともっと、こういった端末やサービスが登場することを大いに期待しています。

 さらに2008年の夏モデルは、「防水機能」が充実した年だったと言えるでしょう。

 auから発売されているカシオ計算機の「G'zOne」は、業界の元祖といえるほど防水に対する取り組みに対して歴史のあるシリーズで、夏モデルでは同シリーズの最新モデルとして「G'zOne W62CA」が登場しました。

 そしてソフトバンクからは防水ケータイとして、「THE PREMIUM WATERPROOF 824SH」と「TROPICAL 823P」の2モデルが登場しました。

sm081221007.jpgsm081221008.jpg 左が「THE PREMIUM WATERPROOF 824SH」、右が「TROPICAL 823P」。G'zOneと同じ防水仕様だが、お風呂場での利用シーンなど、こちらはともに女性ユーザーを強く意識したプロダクト

 これらの端末は、G'zOneが防水機能とタフネス性能をデザイン面でも強調して表現したのに対し、いわゆるスタンダードモデルのような普通のデザインを採用しながら、日常生活を送る上で必要な防水機能が搭載されています。しかも、G'zOneが男性をメインターゲットに据えたのに対し、824SHや823Pは女性ユーザーを強く意識した端末に仕上げています。

 これは今から30年ほど前の、腕時計にデジタル表示が導入されてハイテク機器となり、防水機能があるものとないものが混在していた時期に僕は似ていると思っています。今となっては腕時計に日常生活防水対応は当たり前ですが、当時は、今のケータイと同じように、技術的ハードルがとても高く感じられていたのではないでしょうか。

 話の脱線ついでに腕時計を例に挙げると、まずは必要なスペックを搭載した状態で腕にはめる時計として必要最小限のサイズに押し込むことから始まり、それがある程度一巡すると、人々の利用シーンを考えた防水機能が求められ始めました。

 防水がある程度当たり前に搭載されてくると、今度はデザインの本格展開がスタートして、高級品からリーズナブルなものまで幅広い選択肢が用意される――。この構図にケータイ市場も当てはまる気がします。

sm081221009.jpgsm081221010.jpg 1台で何パターンものデザインやカラーに簡単に交換できる「フルチェンケータイ re」。右は「フルチェンケータイ re」をベースに、よしもと所属の芸人がプロデュースした「よしもとケータイ」。パッケージデザインは「ホームレス中学生」で時の人となった麒麟の田村裕さんが担当した

 さらに夏にはauから、ショップでのカスタマイズや他業種とのコラボレーションが可能な「フルチェンケータイ re」が登場しました。これも多様化するユーザーニーズにうまく対応した取り組みだと思います。

 この端末をベースに、よしもと所属の芸人がプロデュースした「よしもとケータイ」や、「FIFAクラブ ワールドカップ公式ケータイ」など、さまざまなコラボレーション企画が登場しており、今後の展開が楽しみです。

多彩なスマートフォンが登場、シンプルモデルのラインアップも拡充

sm081221011.jpgsm081221012.jpg 左はドコモとソフトバンクから発売される予定だった「Nokia E71」、右は裏面の三角形を多数組み合わせた面構成のデザインが特長の「Touch Diamond」。多彩なスマートフォンが登場

 秋冬モデルで特徴的だったのが、多彩な「スマートフォン」の登場でした。

 僕は、NTTドコモとソフトバンクから発売される予定だった「Nokia E71」に注目していましたが、ノキアの日本市場向け端末販売見直しのニュースを受けて、ドコモが12月1日、そしてソフトバンクが12月5日に発売を見送ると発表しました。僕にとっては、とても残念でなりません。

 そのほかのスマートフォンでは、「Touch Diamond」のデザインがなかなかだと思っています。ダイヤモンドという名の通り、裏面の三角形を多数組み合わせたデザインは、スタイリングといった観点ではとてもオリジナリティが高いと評価できるからです。

 グローバル端末であるスマートフォンが、世界から見て特殊といわれる日本のケータイ市場でどのようにユーザーから受け入れられるのか、引き続き今後も注目していきたいですね。

 そして、12月にauから発表されたのが、「Walkman Phone Xmini」。今年最後のインパクトのある端末としてデビューしました。

 2004年、超小型ケータイとして話題をさらった「premini」(ドコモ)の再来を思わせる、スペックを割り切った小型軽量モデルです。

sm081221013.jpg “新しい音楽スタイル”を提案する超小型ボディの音楽ケータイ「Walkman Phone Xmini」。閉じると“ウォークマン”、開けると“音楽ケータイ”としての顔が表れる

 ワンセグやFeliCaはもちろん、カメラまでもが省かれたシンプル機能のモデルで、ソニーの“ウォークマン”ブランドを冠していることからも分かるとおり、音楽を楽しむことに的を絞った端末です。

 コンパクトでかわいいたたずまいのボディデザインに、パープル×ピンク、グリーン×ブルーなど音楽端末に相応しいビビッドなボディーカラーがラインアップされています。

 ただ、もう少し価格相応の質感や、緻密なディテールを考慮したデザインにしてもよかったのではないかと感じますが、みなさんはいかがでしょうか。

 いずれにしても、こうした特化型端末の登場が、冷え込みの続くケータイ市場で生き残りの鍵を握ることは間違いないでしょう。だからこそ、今後は“安いけれどチープではない”“ターゲットの幅は狭いかもしれないけれど確実に使う人の満足度が高い”“ハイスペックモデルではないものの、しっかりした作り込みがなされている”――。そんな端末の登場が望まれているのだと思います。

 2008年もいろいろな端末が登場しました。今後も縮小に向かうであろうコンシューマーマーケットに対して、問題解決型の優等生的なだけのケータイを投入するのでは、きっと生き残ってはいけないだろうと思います。

 端末を開発する側の最大のライバルとなるのは、ユーザーが今使っているケータイそのものなのです。ユーザー自身が、基本的に使っている端末に大きな不満を持っていないか、思い切って買い換えるだけの “ポジティブないいわけ”で納得させるだけの魅力がなければ、買い換える必要はないわけです。

 端末ではありませんが、冬モデルの発表会でドコモは「iコンシェル」を発表しました。これはなかなか魅力的なサービスだと感じています。

 その名の通り、コンシェルジュサービスをケータイで提供しようというもので、多種多様な便利なサービスにアクセスするための間口を大きく広げてくれるものになるはずですから、多いに期待しています。

 人の生活をもっと楽しく便利にするために届けられる提案型のサービスが、今後はもっともっと充実するでしょうし、幅広く展開してほしいものです。こうした情報を快適に使うためのソフトとハードが充実し、デザインのクオリティが向上すれば、それこそ豊かな生活支援ツールやサービスに成長するだろうと考えられます。

 このあたりは、ドコモが一歩も二歩もリードしていますので、ほかの通信キャリアにも魅力的な展開を期待したいところです。

2009年は僕自身、モノ作りの現場に身を投じていきます

 さて、これまで2年と少しの間、毎月連載してきた「小牟田啓博のD-room」は、今回をもって少しの間お休みいたします。

 僕自身、今後は魅力的なケータイ作りの現場に、さらにどっぷりと入っていって、今まで以上により多くのユーザーのみなさんに愛されるモデル開発に身を投じたいと考えています。

 どうかこのコラムに親しんでくださったみなさん、今後のケータイデザインに期待してください。

 この連載を読んでくださったみなさんは、デザインの基礎的な知識を、身に付けていただいたのではないかと思います。デザインのプロとはいかないまでも、“デザイン通”くらいの視点は手に入れたのではないでしょうか。その厳しくも温かい視線で、今後もケータイ業界の発展を見守っていてください。

 2009年は激変する景気の影響を受けて、ケータイ市場もかなり厳しい環境になると予測されます。しかし、未来は所詮未来です。いつの時代もニッポンのエンジニアリングが時代を発展へと導いてきました。

 そこには熟達した技術とアイデア、大胆な発想や決断などがあり、ダイナミックな取り組みが常に明るく豊かな未来を作り上げてきたのです。もちろん楽観視は禁物ですが、僕たちクリエイティブの現場や開発の現場が、未来に対して魅力的なイメージを抱かなければ何も実現しません。

 縮小方向のマーケットだから“安全策シフトもあり”ですが、ダイナミックな方向に踏み出していくモデルがあってもいいですよね。

 そんな気持ちで、2009年は僕自身もモノ作りの現場で動いてみよう――こう思っています。それでは、またお会いできることを楽しみにしています。

PROFILE 小牟田啓博(こむたよしひろ)

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1991年カシオ計算機デザインセンター入社。2001年KDDIに移籍し、「au design project」を立ち上げ、デザインディレクションを通じて同社の携帯電話事業に貢献。2006年幅広い領域に対するデザイン・ブランドコンサルティングの実現を目指してKom&Co.を設立。日々の出来事をつづったブログ小牟田啓博の「日々是好日」も公開中。国立京都工芸繊維大学特任准教授。


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