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» 2008年12月26日 23時55分 公開

2008年の通信業界を振り返る(1):守りを固めたドコモ──KDDIの巻き返しはあるのか (3/4)

[房野麻子,ITmedia]

KDDIの勢いが衰えた理由とは

ITmedia では次に、1年を通して苦戦を強いられたKDDIについてうかがいます。3月31日にはツーカーのサービス終了などもあって、4月に契約数が純減したこともありました。この1年、KDDIの影が薄かったのは何が原因だったのでしょうか。

Photo 「2008年は、ドコモやソフトバンクモバイルとは異なるCDMA2000方式が、KDDIにとってメリットではなくがデメリットになってしまった」(石川氏)

石川 今までKDDIは、ドコモやソフトバンクモバイルとはネットワークが違う(CDMA2000方式を採用している)ということが最大の武器になっていたのに、それがすべてマイナスになってしまったといいますか、そこに引っ張られている部分が多分にあるのかな、という状況だと思います。端末調達やサービスの提供、インフラの世代交代などもそうです。(W-CDMA方式の他社とは)規格が違うということで、いろいろなことのすべてを自社で抱えなくてはいけなくなってしまいました。この先も非常に厳しいと言わざるを得ないのかなと思っています。

神尾 おっしゃるとおりですね。本当にそこはベーシックなところ。ドコモやソフトバンク、イー・モバイルなどのW-CDMA陣営は、極論すれば、端末の初期調達数の(メーカーに対する)コミットメントをauよりもはるかに少なく設定できるんです。なぜなら、ドコモとソフトバンクモバイルは、端末内で共通化できる領域が非常に多いからです。さらに端末メーカーのグローバル化が進めば、調達数を10万台以下に設定することも不可能ではなくなると思います。実際、海外メーカーの日本向け端末は、初期調達数が5〜6万台でも用意してくれるわけですから。

 でも、auは少なくとも、30、40万台はコミットしないと、作ってもらえないし、頼めない。これはものすごいハンデです。端末を作る上で、CDMA2000は、規模としてはデメリットしかありません。もちろん、技術が悪いわけではないですよ。数をたくさん作れないというのが、この状況下では不利な要因なんです。

 auがCDMA2000方式で成長していくには、他キャリアからどんどんユーザーが入ってくることが前提になります。そうなれば流入ユーザー数でボリュームが作れるので、たくさんの端末を開発できます。でも、ドコモが完全にガードを固めてしまったので、もはやドコモからユーザーは入って来ません。むしろ、auから出ていく方が多くなってきたくらいなので、そうなるとネガティブスパイラルから抜け出せなくなります。

 残念ながら、auが取った道は、他キャリアのシェアを攻め続けられることが前提だった。コンシューマー市場の飽和によって端末需要が頭打ちになってしまっても、自分たちが攻め続けて、ドコモから(ユーザーを)取ることでドコモ以上のボリュームを確保できる、という状況であれば、CDMA2000でも問題はなかったんですが、それが反対になってしまったので、今やデメリットしかないわけです。

石川 そうですね。

神尾 私はauの端末ラインアップは、4モデルくらいでいいんじゃないかという気もしています(笑) 1モデルあたりの販売ボリュームを確保しなくてはいけないことを考えると、絞った方がいい。絞って、ものすごい競争力のある端末を作った方がいいと思うんです。Appleと同じ戦略ですよ。

 Appleは、プレミアムな製品やソフトウェア、サービスを創り出せますが、マイノリティです。だから、MaciPodも、徹底してラインアップを絞っています。auもiPodと同じ方法論でいいんじゃないかと思うんです。

 iPodのラインアップはiPod touchがあって、iPod classiciPod nanoiPod shuffleがあります。全部で4モデルですよね。iPodってすごくたくさんあるように見えて、4モデルとカラーバリエーションでラインアップを構成しているだけで、実質的なモデルのプラットフォーム数は4つしかないんです。

 auも「それでいいじゃん」という気がするんです。あとは、その上で動くユーザー体験やデザインで他社を圧倒すればいい。その方が、auとしては健全な競争ができるんじゃないかと思うんです。

石川 そうですねえ。「KCP+」がきっちりと動いて、魅力的なUIなり、メニュー構成なりを作れればよかったんですが、あまりにそれが期待外れで終わったというか……。

ITmedia まだ「終わった」わけではないですよね。

石川 でもあまりに不甲斐ないと。要は、KCP+が思想としてしっかりしていて、数年後のケータイのことも考えて作っていればよかったんです。その分、開発コストは大変だったかもしれないけれど。でも現状は、今の一般的なスペックにすら追いついていない状況になっている。例えばタッチパネルの導入が遅れてしまい、横画面のUIもまともに用意できなかった。こういったことを考えると、プラットフォームを作るということは、ものすごい大変なことだし、日数もかかるということを我々に教えてくれたという良い面もあると言えるかもしれませんが。

神尾 それは“良い面”ですか?

石川 教訓、反面教師ですね。そういうこともあるけれど、ただ、やっぱり思想、高い志を持って作ってほしかった。端末の開発コストを安くする、効率よく作るということばかりを重視してしまったのかもしれませんが、もったいなかったなと思います。

神尾 率直にいえば、auはAppleになりきれなかったんですよ。とるべき道はAppleのような道しかなかったのに、それに踏み切れなかったし、そういう雰囲気を作りつつも、やり切れなかった。ニッチな世界で勝負をかけるのであれば、“選択と集中”でやるしかなくて、そうするには、かなりの開発力とセンスが必要なんですが、KCP+に関してはどちらも足りなかった。タイミングにも恵まれなかったということもあります。

石川 ネットワークにしろプラットフォームにしろ、切り替わりのタイミングには、相当厳しい戦いが強いられるな、というのは通信業界を見ていて強く思うことです。

auは通信業界のAppleを目指せ

ITmedia KDDIが巻き返すためには、今後どうしたらいいとお考えですか?

Photo 「KDDIは通信業界のAppleを目指すべき」(神尾氏)

神尾 それに答えられたら、KDDIからコンサルタントとしてお金をもらえますね(笑)

 ただ、auは次世代の通信規格に「LTE」を採用するという方向でほぼ決まりましたので、ドコモに正面から勝つ目はないと思います。後追いにならざるを得ませんから。その中で、いかに自分たちのポジショニングをするかが重要になってきます。今はポジショニング戦略が上手くいっていないので、そこの足固めが必要でしょうね。マジョリティにならなくてもいいから、ユーザーの満足度が高くて、収益性の高い事業に持っていくというなら、auの再躍進はあり得ると見ています。

 実際に、形を変えての躍進ができるんじゃないかと期待させるところもあります。例えば「EZナビウォーク」や「au Smart Sports 」はとてもセンスがいい取り組みですし、ビジネスとしてもいい形になっています。「au BOX」は、製品そのものがどうかという部分はありますが、コンセプトとして、ああいう路線はないこともないんです。だから、Appleと同じようになればいい。マイノリティでもほかにない魅力があるというブランドになれれば、auは生き残れると思います。携帯電話市場の多様性に貢献できますし、通信方式が一緒になって、数においてドコモを上回れないにしても、ARPUの高いユーザーを取れるでしょう。

 今は、個々の事業やサービス、端末との連携性で1本の軸ができていないと感じます。統一感のあるユーザー体験ができていないので、どうにもならないところにきていますよね。それをどうやってデザインし直せるのかが一番重要だと思います。

石川 僕も今、au Smart Sportsを使って日々自転車に乗っています(笑)

神尾 効果はどうですか?

石川 まあ、出ているんですけど(笑) 一応、満足して使っているし、au Smart Sportsは、標準搭載されているGPSや音楽、KCP+で対応したBluetoothといった、auが持っているものをうまく連携させました。落とし所としてよくできているサービスだし、このオプションとして出た「Karada Manager」も、使ってみるとハマって、日々カロリーを記録するようになったりしているんです。神尾さんのおっしゃるとおり、auの目の付け所はいいし、あれによってユーザーの満足度は上がっているわけですよ。じゃあ、それで端末は「Sportio」でいいのか、というのは別の話で……。

神尾 でも、Sportioはいい端末だと思いますよ。サービス連携・連動のための端末というコンセプトは悪くないと思います。

石川 そう、いいですよ。Sportioを出せるauの気概は買うべきだし、売れなかったからといって、次はない、ということにはしてほしくない。

神尾 SportioはiPod shuffle(的な位置づけ)なんですよ。2台持ちを前提にした割り切りの世界です。でも、ドコモに対抗しよう、ソフトバンクモバイルと対抗しよう、という流れがあるから、どうにも踏ん切りの悪い状況になってしまったと思います。auは目の付け所のいいものを作れるんだから、コンテンツサービスから、auとしての使い勝手、いわゆるau体験の軸をちゃんと作って、端末もそれに付随させて作っていけばいいと思います。ユーザーが「auのサービスはこういうのが気持ちいい」と感じるものを、端末もサービスもソフトウェアも一直線にして、垂直統合で作るべきですよ。その中で、どれだけクオリティが高くてコストの安い端末を作れるかは、重要なミッションになりますけど。

ITmedia 突き抜けて自分たちの世界を作れ、ということですね。

神尾 そうです。au BOXにしても、「もっと高級感のある端末でないとウチの名前では出せないよ」といって、モトローラに突っ返すくらいの気概がほしいですね。「もっと格好よくて、メモリーも3〜4Gバイトくらい載ってるものを持ってこい」と(笑) そこまでやらないとauは埋没してしまう可能性があります。今後、ソフトバンクモバイルだけじゃなくて、イー・モバイルも成長してくるわけですから、そうなったときに、Appleのようなマイノリティだけど存在感があるという方向に、auも行かざるを得なくなるのかなと思います。そういう方向でドコモと闘っていかないと、対抗し切れないのかなと思うんです。MNPで色気を出して、普通の人もいっぱい取り込もうとしたのが失敗だったのかな、という気もしています。

石川 変にドコモに対抗しようとしたのが間違いだったのかな、という気がしますね。MNPが始まったころの端末ラインアップは、ドコモユーザーが満足するような中庸な端末に振っていました。その結果、auの個性の埋没につながってしまった点があることを考えると、もっと際立った端末を作り続けることは重要だと思いますね。

神尾 そのときの重要なポイントは、際立った=キワモノじゃない、ということですね。

石川 確かに。

神尾 キワモノじゃなくて、際立ったもの。さらにauとしてのポリシーが一貫しているもの。今のauにはポリシーが感じられないんです。個々にはあるけれど、au全体を貫くポリシーがないんですよ。ポリシーには、サービスのポリシーもあればクオリティのポリシーもあると思っていて、「auとしては、このクオリティは絶対譲れない」というところを作ってこないといけない。ここは重要だと思います。サービスクオリティにせよ、端末のデザインや質感のクオリティにせよ、コントロールできているときと、できていないときがあって、できていたときがau全盛期だったんですよね。

 今の端末は「なんでこんなデザインで出てくるの?」って感じるものがあるわけですよ。サービスも「なんでauなのに、こんな気の利かないUIなの?」というものがあるわけです。でも、そこで気が利いていないと、auの存在意義って何? みたいな話になってきちゃうので、きちんと一貫してやってほしいなという気はしますね。

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