iPhone 3G、スマートフォンそしてMVNO──2009年注目のキーワードは2008年の通信業界を振り返る(4)(4/4 ページ)

» 2009年01月05日 07時00分 公開
[房野麻子, あるかでぃあ(K-MAX),ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

エリアワンセグの可能性

ITmedia 2008年にちょっと動きがあったものとして、「エリア限定ワンセグ」が興味深かったように思います。現状はいずれも実証実験レベルですが、“携帯電話向けのマルチメディア放送”の1つの形になりつつあるのかな、という印象を受けました。エリア限定ワンセグ放送はどのようにとらえられていますか?

石川 例えば今までのサーキット内でのレース実況などでは、ラジオを使うか、無線LANを使ってPCでストリーミング放送を見てください、という世界でした。でもPCを使うと、直射日光で画面が見えないとか、ストリーミングなのでタイムラグが発生するといった問題があり、あまり実用的ではなかったんです。それがエリアワンセグになると、ケータイが使えるので画面が見やすくなるとか、誰でも使いやすくなるというメリットがある一方で、やはりどうしてもタイムラグは発生してしまうので、その壁は越えられなかったという感じです。

 ただ、それは目の前でレースをやっている“サーキット”という特殊な環境での話なので、タイムラグが関係ないような場所であればエリアワンセグは広まる可能性があると思います。その時果たしてどういったニーズがあるのかという点は、じっくりと考える必要があると思います。

神尾 エリアワンセグはコンテンツ次第なんですよ。チャンネル設定のユーザーインタフェースが使いにくいという部分は時間が解決してくれますから、あとはコンテンツをエリアワンセグで観たいかどうかが問題です。サーキット(レース)やスポーツなど、存在そのものがコンテンツとして価値のあるものはリアルタイムで観たいものだからいいと思います。エリアワンセグで情報をフォローするといった使い方ができると思いますし。しかし一方で、渋谷や新宿などで実験しているタウンメディアの世界が課題ですよね。

 低コストで作った映像コンテンツほどショボいものはありません。映像はお金をかけているかかけていないかが一目瞭然なんです。その中でいかにきちんとしたクオリティのコンテンツを作れるのかが課題でしょう。エリアワンセグのコンテンツはこんなものか、と思われたら終わりなんです。厳しい言い方をしますと、商店街のコンテンツはエリアワンセグで流せますが、商店街のコンテンツが楽しいか楽しくないかは別問題ということなんです。

石川 その話は次世代マルチメディア放送につながってくると思います。ISDB-Tmm陣営は圧倒的にTV局が多いですから、実用化されたら恐らくさまざまなリッチコンテンツが観られるのだろうという期待はあります。

神尾 その場合、エリアワンセグがテレビ局の独立した事業として成立するかが課題ですね。そうでないと、地上波キー局が流しているコンテンツの番組宣伝的な要素になってしまいますから、結局(固定テレビ向けの)本放送が前提になってしまいます。

石川 それは仕方がないのではないかと思います。今の「SKY PerfecTV!」を見ても、なんだかんだ言って人気のあるチャンネルはフジテレビ721などの民放がやっているCS放送ですし、再放送とかスポーツ中継の長時間版が観られるといったところに価値を見出したりするので。そう考えるとモバイルも単独では厳しく、地上波の本放送のおこぼれをお金を払って観るというスタンスにならざるを得ないという気がします。

神尾 そうなるとつまらないですよね……。エリアワンセグが、固定テレビ放送に縛られるのは、発展性と可能性が縛られて面白くないと思います。(エリアワンセグに)プロのクオリティは必要ですが、一方で、新たな映像コンテンツビジネスのチャレンジの場になった方が将来の発展があります。

 個人的には、不謹慎かもしれないけれど、今の大手テレビキー局の経営悪化を、映像コンテンツビジネスの「構造変化」の大きなきっかけとして、期待をもって見守っているのです。今まではテレビ局が“カネ”と“パイプ(流通路)”を押さえることで、実質的に制作を行うプロダクションを支配していましたが、今の地上波テレビ局のビジネスモデルが崩れれば、相対的に新たなパートナーやビジネスを見つけて成長するプロダクションが現れてくるのではないでしょうか。プロダクションサイドが(映像コンテンツの)流通とビジネスを選べるようになれば、例えば、エリアワンセグのよう新たなメディアも面白くなると思うのです。

石川 しかしお金が回らないのではコンテンツ自体は面白くなくなると思いますね……。

神尾 お金という点では、通信業界がテレビ局の頭越しにプロダクションと手を組むといった時代が来ればいいんですよ。NTTグループやKDDIなど、資金力はテレビ局以上にあるわけですし、映像コンテンツを流すパイプも固定ブロードバンドやモバイルブロードバンドで持っているわけですから。今のところ通信キャリアとテレビ局という提携がトレンドになっていますが、今後はキャリアやコンテンツプロバイダーが(テレビ局向けビジネスだけでは)経営悪化したプロダクションと出資し、通信業界の中に映像コンテンツ制作や番組放送のノウハウを積極的に取り組む流れがあってもいいでしょう。通信業界のビジネススキームやセンスが入った方が、映像・放送ビジネスは多様化し活性化すると思います。そういった動きに注目しています。

2009年のキーワードは

ITmedia 最後に2009年がどのような年になるのか、簡単に総括していただけますでしょうか。

石川 “忍耐”の年ですよね。次の世代に向かっての準備期間という気がしますし、だからこそ求められるのは体力勝負だとも思います。消耗戦ですよね。まだまだ嵐の中にいる気がします。決して終わりのない嵐ではないと思うので、耐え忍ぶしかないのかなと。

Photo「2009年は夜明け前」と語る神尾氏

神尾 私は“夜明け前”だと思います。キャリアや端末メーカーなどの、プレーヤーの競争力やポジションが変化しつつ、2010年以降に向けた取り組みが活性化すると思います。夜明け前というのはとても暗く寒いのですが、新しい1日が始まる期待に満ちた時間でもあるのです。2010年以降、モバイル通信産業全体が新たな成長期に入るでしょう。

 その直前である2009年、私がとても大切なキーワードだと思うのが、2009年を『いかにポジティブに過ごせるか』です。世界的に景況感が悪化していますが、モバイル通信業界はとても恵まれているんです。

 例えば、自動車産業は消費者がクルマを「買わない」・「乗らない」ことで大変苦しい市場環境にあるわけです。でも携帯電話は、不況だからという理由で「解約する」消費者はそういません。必要があれば、魅力的であれば、端末も買い換えてくれます。ケータイは消費者の可処分時間の大半を占有しているので、いいサービスや製品を作れば、(景況が悪化していても)しっかりと売れるのです。さらに技術やサービスの革新・進化も止まっていません。2009年、これほど希望に満ちた明るい産業はそうそうないと思いますよ。携帯電話業界が不況を言い訳にして、後ろ向きな姿勢になるのは間違っています。2009年をポジティブに、チャンスだと捉えられる企業や人が、モバイル産業の中で、次の10年の勝ち組になれるでしょう。

 一方、ユーザー側の視点では、2009年はいよいよ本格的なモバイルブロードバンド時代に向けたサービスやコンテンツ、端末、そしてビジネスが登場してくることがポイントになると思います。一般ユーザー層への展開を狙うスマートフォンなども台頭してきて、ここ最近の閉塞感があったモバイル市場に、再び“何が成功するか分からない”面白さが戻ってきます。新時代の幕開けはいつもエキサイティングなので、2年縛りに負けずに(笑)、来年のモバイル市場に注目してほしいですね。

Photo 「2009年は忍耐。iコンシェルのようなエージェント機能に期待したい」という石川氏

石川 サービスで期待するのはエージェント機能だと思っています。情報が大量に存在し、ユーザーが何が情報として有益なのか分からなくなりつつある中、今回ドコモの「iコンシェル」というのが出てきたことで、個人に合った情報を正しく選んで届けてくれるというのはかなり期待したいですね。

 ただし一方で迷惑メール的になってしまったり、ユーザーが欲しいと思っていた情報が来なかったり、不必要な情報が配信されたりするので難しい世界だとは思いますが、だからこそ挑戦し甲斐がありますし、本当に便利なものが出来たときに非常に面白くなると思います。

前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年