BtoBtoCは法人ビジネスのもう1つの柱──ドコモ 真藤務氏に聞くケータイ旅人サービスの狙い神尾寿のMobile+Views

» 2009年01月26日 11時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 1月8日、沖縄県で総務省のユビキタス特区事業の1つ「携帯電話による観光動線誘導サービスの実証(ケータイ旅人(たびんちゅ)サービス)」の発表が行われた。その概要などはすでにリポートしているが、同サービスはNTTドコモが中心となり、沖縄県名護市、名護総合学園名桜大学、NTT西日本沖縄支店と協同で、携帯電話の「位置」を軸に観光振興のコンテンツやサービスを提供するというものだ。実証実験という位置づけであるが、リアル連携やプッシュ配信の要素技術がふんだんに盛り込まれており、ケータイの“リアル連携型サービス”を見る上で注目すべきものになっている。

 ドコモは沖縄のユビキタス特区事業で、何を狙っているのか。また、こうしたリアル連携サービスにおけるドコモの強みとは何か。今回のMobile +Viewsでは、NTTドコモ 執行役員 法人事業部 第一法人事業部長の真藤務氏のインタビューをお届けする。

BtoBtoC市場を「もう1つの法人ビジネスの柱に」

──(聞き手:神尾寿) 今回のユビキタス特区事業に(ドコモでは)法人事業部として参加しているそうですね。ドコモの法人ビジネスにおける今回の実証実験の位置づけをお聞かせいただけますでしょうか。

Photo NTTドコモ 執行役員 法人事業部 第一法人事業部長の真藤務氏

真藤務氏 我々が考える法人ビジネスというのは、「B to B」と「BtoBtoC」の2つのパターンがあります。

 これまで携帯電話キャリアの法人ビジネスというとB to Bが主流で、ここではコスト削減が重要視されていたわけですけれども、(携帯電話を導入する企業も)新たな成長戦略を考えなければなりません。そこではビジネスの拡大に携帯電話のサービスを活用していくという考え方になります。ドコモでは、このBtoBtoCの市場も支援していきたいと考えていまして、今回のユビキタス特区事業での実証サービスもその一環という位置づけになっています。

── 企業がより積極的に携帯電話サービスを、「自社のビジネス拡大に利用する」という考え方ですね。

真藤氏 そうです。BtoBtoC市場はまだ大きくはありませんが、将来的にはB to B市場と並ぶ、クルマの両輪にしたいと考えています。

 ドコモではこうしたBtoBtoC市場に向けたアプローチを多く手がけているのですが、そこで(顧客となる)企業から、従来の検索サービスの利用・応用ではなく、プッシュ技術や行動支援型サービスの活用をしたいという声が上がってきています。今回の旅人サービスでは「プッシュ」と、GPSやアクティブタグによる「リアル連携/行動支援」が技術的な柱になっていますが、そこにフォーカスした理由としては、こうしたBtoBtoC市場のニーズやトレンドがあります。

── プッシュ技術や行動支援の分野では、ドコモはコンシューマー市場向けとして「iチャネル」を成功させて、新たに(行動支援型サービス)「iコンシェル」にも取り組んでいますね。こうしたドコモ全体のトレンドと、法人ビジネスにおけるBtoBtoCの取り組みはリンクしているということでしょうか。

真藤氏 コンシューマー向けのプラットフォームをそのまま使うわけではありませんが、連携や統合ができる部分もありますね。特にBtoBtoCでは、ドコモ以外の企業が(iコンシェルなどドコモのサービスインフラを使って)コンシューマー向けにビジネスを展開することが考えられます。ですから、BtoBtoCの市場が広がることは、コンテンツやサービスの層が厚くなることにつながるでしょう。

アクティブタグは「あんしんキー」をベースに生まれた

── 今回の旅人サービスでは、「GPSログの活用」や特定省電力通信を活用した「アクティブタグ」の利用が特長になっていますね。

真藤氏 ええ。我々は今後、デジタルサイネージやエリアワンセグなどを含めて「街のリアルメディア化」が起きると考えていまして、今回の旅人サービスで用いたGPSログやアクティブタグ、そしてFeliCaなどは、そうしたリアルメディアの中で(コンテンツやサービスとの接触の)トリガーになるものだと考えています。

 今回は「沖縄」という観光地での実証実験ですが、この仕組みを応用すれば、例えば「東京・丸の内」のような街をメディア化することもできます。将来的には観光地はもちろん、都市部での街作りでの活用なども視野に入れていきます。

── GPSとFeliCaは、以前から「ケータイサービスのリアル連携」の要素技術として注目されていました。そして今回の実証実験でユニークなのが、アクティブタグですね。これは十数メートル範囲での位置を認識するという、“ゆるやかな位置測位”を実現しています。

真藤氏 我々は「気づかせ空間」と呼んでいますが、GPSやFeliCaと異なる近傍通信には新たなサービスやビジネスの可能性があると考えています。特に観光支援では、こうした(十数メートルの)距離感でコンテンツ提供をするというのはニーズに合うでしょう。

── 距離感としては、ニンテンドーDSの「すれちがい通信」に似ていますね。しかし確かに、GPSと違い屋内でも利用可能で、FeliCaよりも広い範囲で認識するというのは、プッシュ技術とも組み合わせやすそうです。

Photo 左がP904iなどに付属していた「あんしんキー」。右は今回の実証実験で利用するアクティブタグ

真藤氏 余談ですが、このアクティブタグのベースは、「P903i」や「P904i」で搭載していた「あんしんキー」なのです。あんしんキーは特定省電力通信を、本体内蔵のアンテナとチップで受信していましたが、P905i以降の端末はその機構がありません。ですから、アクティブタグ内で特定省電力通信の受信信号をBluetoothに変換し、携帯電話側に送信するという仕組みになったのです。

── なるほど。では、例えば将来的にアクティブタグ技術を広範囲に使うとなれば、もういちど特定省電力通信の機構を携帯電話本体に内蔵するということも考えられるわけですね。

真藤氏 これはドコモの強みなのかもしれませんが、我々は過去にさまざまな技術を実用化し、市場投入しています。残念ながら(コンシューマー市場で)大ヒットとならなくても、今回のアクティブタグのように過去に取り組んだ技術を応用して、新しい使い方を生み出すことができるのです。

実証実験や導入事例のノウハウと、顧客基盤が強み

── 沖縄のユビキタス特区事業はBtoBtoC市場向けサービスの実証実験の1つという位置づけですが、今後ドコモとして、この新たな市場をどのように拡大していくのでしょうか。展望をお聞かせください。

真藤氏 我々としては、企業や自治体のニーズがあれば、多様な要素技術を組み合わせてソリューションを提供していきたいと考えています。また、これは社会的なコンセンサスが必要でありますが、そうした(BtoBtoC市場創出の)中でプッシュ型や行動支援型のサービスの在り方も考えていきます。

── 法人ビジネス、特にBtoBtoC市場のようなソリューション分野は今後の競争が激しくなると考えられますが、そこでのドコモの優位性はどのようなものになるのでしょうか。

真藤氏 まず、今回の沖縄ユビキタス特区事業での取り組みをはじめとして、数々の実証実験や実際の導入事例で得た豊富なノウハウと、それを実現する技術を持っていることが挙げられます。

 さらにBtoBtoCで新たなサービスを展開するということになれば、ドコモの顧客基盤の大きさも優位性になるでしょう。特にドコモでは約5400万のお客様のうち、4000万人以上に(会員組織である)ドコモプレミアクラブにご加入いただいています。ドコモのBtoBtoC市場への取り組みでは、このプレミアクラブの高度化や連携も重要なミッションになっています。顧客基盤の量の多さだけでなく、(顧客属性情報が豊富であるという)質のよさが、我々の大きな優位性になるでしょう。

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