“エリア型ワンセグ”で、街はもっと面白くなる――エリアポータル松村太郎のノマド・ビジネス(1/2 ページ)

» 2009年01月28日 07時00分 公開
[松村太郎,ITmedia]

 2006年の4月のサービス開始から2年9カ月。ワンセグは今や多くの携帯電話に搭載されるようになり、累計出荷台数は2008年8月に4000万台を突破した。

 しかし、ユーザーがワンセグを積極的に視聴しているかといえば、そうは言い難いのが現状だ。また、ビジネスモデルの面でも、当初期待された“放送と通信の連携”を生かした画期的なモデルは、いまだ登場していない。

 こうした中、にわかに注目を集め始めたのが、商店街やイベント会場、商業施設などの限定した範囲に向け、独自の番組構成の放送を展開する「エリア型ワンセグ」だ。

 エリア型ワンセグ(KDDIはスポットワンセグと呼んでいる)は、その場所に集まる人のニーズに合った番組やデータ放送を展開できることから、この仕組みを利用したビジネスモデルへの関心が高まっている。

 エリア型ワンセグは、利用者や参加プレーヤーにどのようなメリットをもたらし、どのような新たなビジネスの可能性を秘めているのか。エリア型ワンセグの実証実験で高い実績を持つ、エリアポータル 代表取締役の加藤恂一氏と、YRP研究開発推進協会 研究推進部担当部長の寺村允安氏に聞いた。

4つの大型街頭ビジョンがヒントに、ワンセグの普及にチャンスを見いだす

Photo エリアポータル代表取締役の加藤恂一氏

 「エリア型ワンセグを見てもらうきっかけとして注目したのは、渋谷駅前の街頭ビジョン」――加藤氏は、このビジネスを始めるきっかけを、こう振り返る。

 渋谷の駅前には4つの大型ビジョンが設置され、そこに集まる若者の目を引くさまざまな映像が絶え間なく流れている。これを、普及が進んでいるワンセグケータイで展開すれば、放送と通信の融合を生かした新たなサービスを生み出せるのではないか――。こうしてエリア限定ワンセグの可能性を模索する試みが始まったという。

 「繁華街には映像があふれています。例えば渋谷の駅前には大型ビジョンが4つあり、それぞれが非常に質の高い映像をスポンサーつきで流している。時にはそのうちの2〜4つが同期し、同じ映像が流れることもあります。このような地域の属性やニーズに合った映像を、手軽に放送できる手段があるはずだ、と思ったわけです」(加藤氏)

 繁華街の大型ビジョンに限らず、街にはさまざまな映像メディアが登場している。映像を流す交通広告も増え、屋外の映像ビジョンも主要なターミナル駅では当たり前の光景になった。そこでは、映画やナショナルブランドの広告だけでなく、その駅周辺の店舗やキャンペーンの情報なども流れている。こうした映像や情報をエリア限定ワンセグで流せば、利用者は情報を見るだけでなく、データ放送を通じてWebにアクセスし、さらなる情報を得たり商品を購入したりできる。エリアポータルは、この新たなビジネスモデルの可能性を追求するため、さまざまなイベントや施設で実証実験を重ねてきた。

 「何といっても、ワンセグケータイが普及したことがこの取り組みを始めたきっかけです。特に人が集まる街では、受信端末に対する投資が一切必要ないことがメリットになります。ケータイ事業者もワンセグチップをケータイに入れてはいますが、ビジネス化はできていません。これは参入するチャンスだと考えている事業者がおられます」(加藤氏)

 エリアを限定した放送といえば、市町村を対象に地元に密着した情報を提供するコミュニティFM放送が思い浮かぶが、加藤氏は区をカバーするような広い範囲での展開は他メディアとの差別化が難しいと話す。

 「規模が大きくなれば、これまでのラジオやテレビと同じになってしまいます。エリア型ワンセグでは制作やコストの面で、誰もが参加できる放送を目指すことで、ビジネスが成立するかどうかが決まるでしょう。広告を出すとしても、自分のサービスに見合ったアクセスを求めればよいという仕組みを考えることだと思います。」(加藤氏)

 ケータイでテレビとデータ放送を見せるサービスを人が集まるエリアに投下し、アクセス見込みに合った規模やコストで質の高い放送を提供して収益を上げる――。これがエリアポータルが提案するエリア型ワンセグのビジネスモデルだ。

高精度の効果測定も可能に――実証実験の成果は

 エリアポータルはこれまで、中小規模エリアを対象とした、さまざまなエリア限定ワンセグの実証実験を行ってきた。

 中でも好評だったというのが、鈴鹿サーキットなどで実施したモータースポーツの中継だ。レースで繰り広げられる攻防は観客席から見えるものにとどまらず、見えないコースでの争いも見逃せない。

 見えないコースの状況やリアルタイムの順位、ラップタイムをエリア限定ワンセグで中継すれば、観客はレースの臨場感を味わいながら、さまざまなレースの情報を入手できる。このサービスは好評で、2009年のも継続実施する予定だ。

Photo 鈴鹿サーキット フォーミュラニッポンサーキットのワンセグ再送信システム
Photo 丸の内行幸通り地下のワンセグ実験

 また、公共空間やイベント会場でもワンセグ中継が活躍したと加藤氏。屋外だけでなく、ビルの館内放送をワンセグで受信できるようにした丸の内と有楽町エリアの実験や、セミナーやトークセッションを展示会場向けに生中継したIT関連イベント、ランウェイの様子を放送した日本ファッションウィークの実験なども、来場者に好評だったという。

 「IT関連イベントでは、記者が会場で取材した記事をデータ放送で配信するなど、これまでのワンセグ放送にはない、“その場で活用することに意味がある”情報サービスを提供できました」(加藤氏)

 このように、サービスの実用性はある程度実証された感があるが、その効果を測定する方法については、何らかのフィードバックが得られたのだろうか。

 「効果測定はワンセグのエリア放送で最も難しい領域です。例えばモータースポーツ会場のようにスタンドがある場合は、目視やアンケートなどの複合的な検証を行い、結果的には視聴率70%くらいでした。ただ、ワンセグ放送では、番組とともに流したデータ放送のクリック数をチェックできるので、ある程度正確なデータが取れるはずです」(加藤氏)

 また、エリア限定ワンセグを視聴するには、ユーザーがチャンネルを設定しなければならないというハードルがある点も気になるが、加藤氏によれば、今ではおサイフケータイの機能を使って簡単にチャンネルを設定できるという。

 「最近の多くのワンセグケータイにはおサイフケータイの機能がついています。ケータイをFeliCaポートにタッチすると、Webサイトを経由してワンセグのチューニング用のデータを端末に送ることができます(加藤)

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