世界をクリッカブルにするオープンプラットフォーム──「セカイカメラ」松村太郎のiPhone生活 番外編

» 2009年02月19日 16時38分 公開
[松村太郎,ITmedia]
Photo 「rooms」の会場で披露された「セカイカメラ」

 2月17日から19日にかけて開催されたファッションイベント「rooms」で、頓智・(とんちどっと)が開発中のiPhoneを用いた拡張現実(AR)アプリ「セカイカメラ」のワールドプレビューが開催された。今回は、TechCrunch 50やフランス元老院などでもプレゼンされ、すでに世界的に話題になっているこのセカイカメラのワールドプレビューの模様を紹介しよう。

 iPhoneのカメラは通常、写真撮影の際にのみ使用される。しかし、セカイカメラではカメラからの情報をライブビューの映像として表示し、その上に「エアタグ」と呼ばれるタグを重ねて表示する。空間に浮かぶ情報にタッチすると、その内容が閲覧できる。

 位置情報を用いて現実世界の映像に情報世界を重ねる。特別なタグなどが必要ない、自然なARが体験できるアプリだ。このアプリによって、iPhoneが現実世界から仮想世界の情報を探す、フィジカルな検索情報端末になるのではないか、という未来を見せてくれる。

 今回のワールドプレビューでは、「rooms」というファッションイベントが開催されている東京・渋谷区の代々木第一体育館をフィールドにデモが行われた。代々木第一体育館は屋根がある大きなスタジアム。そのため、当然GPSを利用することできない。そこで頓智・は、無線LANを利用するクウジットの位置情報サービス「PlaceEngine」とマッシュアップ。狭所・室内の位置情報を取得し、ブース内のファッションアイテムの情報が見られる環境を構築していた。

 まずはセカイカメラの動作の様子を、以下の画像と映像で確認してほしい。

PhotoPhoto iPhone上でセカイカメラを起動すると、カメラを通して現実の世界が表示される。iPhoneを動かし、さまざまな場所を見ると、情報がある場所にはエアタグが表示される
Photo セカイカメラを起動したところ
PhotoPhoto アプリを起動してiPhoneを動かすと、位置情報から場所を割り出し、周囲の景色を判別して、現実世界の映像の上にタグが表示される
PhotoPhoto タグを選んでタップすると、詳細なデータや情報が表示される。データは提供されるだけでなく、ユーザーがその場で追加していくことも可能だ


Photo 頓智・代表取締役社長の井口尊仁氏

 「セカイカメラは、世界をクリッカブルにする、オープンなプラットフォームだ」と説明するのは、頓智・の代表取締役社長 井口尊仁氏。井口氏は、大学で哲学を専攻していたが、寮で隣に住んでいた友人にプログラミングを習って、「人間の思考はマッシュアップが可能ではないか?」というアイデアを持つようになったという。

 「見たままのアイデアや考えが分かる、そんな世界観が、モバイルやテクノロジーによって実現できるのではないかと思うようになりました。コンピュータやネットワーク、そしてモバイル端末の能力がパワフルになり、ここにオープンさ、簡単さ、そしてなにより楽しさが加わることで構築される、現実世界と仮想世界のマッシュアップを具現化しています」(井口氏)

エアフィルター、エアシャウト、エアメール、エアポケットといった付加機能も

 仮想空間上から、誰かが投稿した情報を受け取るだけでなく、自分が情報を提供することもできる双方向性を備えるセカイカメラ。ユーザーが増え、人気サービスになってくると、おそらくエアタグで空間が埋め尽くされ、真っ黒になることが予想される。そこで今後実装する予定なのが「エア・フィルター」である。

 「現実世界にあふれている情報をいかに探しやすくするか、という手段としてエア・フィルターを提供します。例えば、承認された情報のみを探す、あるいは飲食店の情報だけ、友人のエアタグだけを表示することもできます。そのほかにも、直近5分のエアタグだけ、1年前の自分の思い出のエアタグだけ、企業のタグだけ、UGC(一般の人によって生み出されたコンテンツ)のタグだけ、といった具合に、空間や時間、ポストした人や属性によって情報をフィルタリングできるようにします」(井口氏)

 今回のデモでは、ユーザー側でエア・フィルターを切り替えて利用する機能は提供していなかったが、タグが増えすぎて見にくくならないように、タグの数に制限をかける形でエア・フィルターによるコントロールを使っている。また狭い所で利用されるため、PlaceEngineから得られる位置情報を元に、周囲のタグが表示される距離についても見やすくなるよう設定してあるという。

 そのほかにも、周囲1キロ程度の人にエアタグをアピールできる「エア・シャウト」、特定の人にタグを教える「エア・メール」、エアタグを手元に保存する「エア・ポケット」などのサービスを提供する予定で、ただフィールドに情報が重ねられるだけでなく、それらの情報の流通や活用方法に関するツールも積極的に投入していく考えだ。

「セカイカメラはオープンプラットフォーム」──そのビジネスモデルは?

 では、セカイカメラは、どのようにして生活の中で使われていくのだろうか。井口氏は何度も「(セカイカメラを)オープンプラットフォームとして使ってもらうこと」を強調していることからも分かるとおり、開かれた仮想現実の場として、さまざまなプレーヤーとのコラボレーションやマッシュアップを、運用の基本に据えている。

 「ネットの面白いところは、オープンさです。例えば渋谷のタグは、渋谷に詳しい人が付けていけばいいし、専門的なエア・フィルターも誰かが作ればいい。端末や位置情報などのハードのレイヤー、セカイカメラそのもののレイヤー、エア・フィルターなどのサービスのレイヤーも、すべてオープンなプラットフォームにしています。TwitterやSkypeがセカイカメラとマッシュアップしてリアルタイムなコミュニケーションがあってもいいんじゃないでしょうか」(井口氏)

 このオープンなプラットフォームを、日本に限らず世界的に展開していくという。

 一方でセカイカメラをビジネスとしてどのように展開するか、という点にも言及している。

 「例えば、エア看板のように、エアタグをオーソライズして、企業向けに提供する手段を考えています。ただセカイカメラに看板が出るだけではなく、場所や時間帯、個人の属性に応じた利便性を加えていく必要があります。例えばポイントやクーポンなどです。朝ならファストフードの朝メニューのクーポンが、昼なら昼のクーポンが拾えるべきでしょう」(井口氏)

 単に空間情報だけでなく、時間などの情報と絡めながら、いかにサービスとして伝えていくかがポイントになるという。頓智・も積極的にアプリケーションを作っていくが、井口氏自身、「キラーアプリは僕らじゃないところから出るかもしれない」と期待を寄せている。

 今回のデモで見えてきたのは、ユーザーがiPhoneを、現実空間と仮想空間をつなぐパスポートのように扱いながら生活する1つのモデルであった。井口氏によると、すでにAndroid版も開発しているという。既に販売されている「T-Mobile G1」には電子コンパスが搭載されているため、エアタグの方向まで自動的に取得できるそうだ。

 「暖かくなる頃にはアプリをリリースします」と井口氏。セカイカメラのリリース時期は、春以降を目処にしているという。日本発のオープンな情報プラットフォームとして、世界的にユニークでかつ、支持されるアプリになってくれることを期待している。

プロフィール:松村太郎

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東京、渋谷に生まれ、現在も東京で生活をしているジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ(クラブ、MC)。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。1997年頃より、コンピュータがある生活、ネットワーク、メディアなどを含む情報技術に興味を持つ。これらを研究するため、慶應義塾大学環境情報学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。大学・大学院時代から通じて、小檜山賢二研究室にて、ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性について追求している。


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