無線だけでなく基幹網の高速化も重要――Qualcomm CEOのジェイコブス氏Mobile World Congress 2009

» 2009年02月19日 18時10分 公開
[末岡洋子,ITmedia]

世界最速HSPA+サービス「Next G」

 Qualcomm CEOのポール・ジェイコブス氏が2月18日、Mobile World Congress 2009で基調講演を行い、モバイルブロードバンドについて語った。

photo QualcommのCEO ポール・ジェイコブス氏

 「世界中でHSPAの普及が進んでおり、モバイルブロードバンドが本格化しつつある。3G/HSPAの加入者は29%、端末は20%増えている」とジェイコブス氏。標準化作業や技術開発、製品・サービス、ユーザーの受け入れまで、一連のサイクルに要する期間が短縮されており、好環境が生まれているという。

 ジェイコブス氏は、同社が2月16日にオーストラリアのオペレーターTelestraとともに発表した、HSPAを高速化する“HSPA+”の商用サービス「Next G」を紹介。Next Gは、850MHz幅のHSPAネットワークで、下り最大21Mbpsの伝送速度を実現した。年内には42Mbpsへの高速化を目指すという。16日の発表会では、TelestraのCEO、ソル・トルヒーヨ氏が「Next Gは世界最速のHSPA+サービスだ」と胸を張った。

 伝送速度を上げるための新しい方向性として、ジェイコブス氏は、超小型基地局でネットワークの密度を高くする技術「フェムトセル(Femtocell)」に言及した。フェムトセルを利用し、電波干渉管理技術を実装したネットワークを構築してシュミレーションを行ったところ、ピークレートだけではなく、全体の伝送速度を大幅に改善できたという。

 ただし、周波数帯とバックホール(基幹網)には課題が残るとジェイコブス氏。米国ではデジタルTVへの移行が延期されたため、700MHzの開放が遅れている。周波数帯開放は各国により進展速度が異なるが、全体として動きが遅いという。

 無線側が高速化する一方で、バックホールの対応が遅れているため、結局は全体の速度が落ちることもある。無線では同じ技術を利用しても、バックホールの設定がオペレーターによって異なるため、エンドユーザーが実感する速度には差が出る。「無線側だけでは不十分。システムはエンドツーエンド(すべての通信区間)で構築しなければならない」とジェイコブス氏は強調した。

HSPAの高速化技術「DC-HSPA」と「MIMO」をデモ

 Qualcommのブースでは、HSPA+関連の技術として、「DC-HSPA(マルチキャリアHSPA)」と「MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)」によるHSPAの高速化デモが実施されていた。

 DC-HSPAは、1チャンネルあたり5MHzの帯域を2つ束ねることでスループットを改善させる手法で、下りの最大通信速度は42Mbps。会場に設置したデモ設備では、データカード用チップ「MDM8200」を搭載したモデムを有線接続。3つのビデオコンテンツとライブカメラの画像をストリーミングして、Webサイトにアクセスしたところ、伝送速度31〜32Mbpsを達成した。

photo マルチキャストのデモ(左)と、デモに使用したマルチキャスト用モデム(右)

 MIMOは、複数のアンテナを使って広帯域を実現することで、HSPAの理論上の下り最大通信速度を28Mbpsにする手法。デモではMDM8200を搭載した試作端末を利用し、23Mbps程度の通信速度を実現していた。

 「オペレーターはHSPAの活用を考えている。HSPAを進化させることが重要」と広報・マーケティング部長の野崎孝幸氏。「LTEがスタートしても、しばらくはHSPAと共存していくだろう」と同氏は予想する。

LTEと3Gのマルチモードチップも発表

 同社は2月17日、LTE/3Gマルチモードチップ「MSM8960」を発表した。これは既存のLTEチップ(LTE/HSPA+R8の「MDM9200」とLTE/HSPA+R8/EV-DO Rev.Bの「MDM9600」)に加わるものだが、MDMがデータカード向けであるのに対し、MSM8960はスマートフォン向けとなる。

 Snapdragonと同様に、MSM8960は1GHzのプロセッサを持ち、HSPA+R8/EV-DO Rev.8に対応する。2010年中ごろのサンプル出荷を予定している。

 LTEはサービス開始後も当面は提供地域が限定され、国や地域全体をカバーするには数年がかかると予想される。マルチモードチップの投入は、他社との差別化戦略として重要なものになるだろう。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年