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» 2010年04月27日 12時35分 UPDATE

携帯から銀幕にコメント:劇場がまるでニコ生――作品、監督、観客が1つになった「東のエデン」AR上映会

劇場で作品を見ながら感じた疑問をケータイから投稿すると、スクリーンにそれが浮かび、監督が答えてくれる――。アニメ「東のエデン」の上映イベントでは、作中の“東のエデンシステム”を模したユニークな仕掛けが用意され、会場を盛り上げた。

[山田祐介,ITmedia]
photo 神山健治監督

 「ジョニー!」「滝沢のモデルは?」「このシーン大好きです!」――。暗闇の中、静かに映画を鑑賞する観客の「声」が銀幕にあふれた。4月24日、テアトル新宿で行われた「東のエデン 劇場版一挙上映 ARオールナイト」には、携帯電話から劇場のスクリーンにコメントを投稿できるユニークな仕掛けが用意されていた。映画のシーンに合わせて次々と寄せられる質問や感想に対して、作品を手掛けた神山健治監督らがマイクで回答。クリエイターと観客が一体となって映画を楽しむ試みに、「作り手として、これ以上幸せな気持ちになれるイベントはない」と神山監督は語った。


photo AR上映の様子

“ケータイ+AR”で、観客と作り手が一体になる

photo AR三兄弟

 2009年にテレビシリーズの放映が始まり、現在は「東のエデン劇場版II Paradise Lost」が公開中のアニメ「東のエデン」シリーズ。作中には、携帯電話のカメラを向けると周りにある建物や人物の情報が調べられるAR(※)システム「東のエデンシステム」が登場する。上映イベントでは、この東のエデンシステムのユーザーインタフェースを模したコメント投稿システムが用意された。開発したのは、ARを使った作品を手掛けるクリエイティブユニット・AR三兄弟だ。

(※)「Augmented Reality」の略。「拡張現実」とも呼ばれる。ITで現実空間に情報を付加し、人間の認識を強化する技術のこと。

 同システムでは、携帯向け特設サイトから観客がコメントを投稿すると、すぐさまスクリーン上に反映され、しばらくすると画面から消える。コメントは半透明の白い背景が緑のフレームに縁取られたデザインで、殺到すると画面が埋めつくされ、映画そのものがよく見えなくなる。例えるなら、ニコニコ動画の“弾幕”状態だ。

photophoto 「エデンシステム」なるサイトにアクセスし、コメントを投稿する。iPhoneからもアクセスできる
photophoto すると、スクリーンにコメントが反映される(写真=左)。一度にたくさんの投稿があると、画面が埋めつくされる(写真=右)

 作品の上映前に、まずは“試し打ち”。「D列もっと撃ってこいよ」「監督なにかぶっこきなさい」――神山監督が作品に対する思いを語るその背後で、作品のセリフをもじったコメントが次々に浮かび、会場を沸かせる。AR上映はオールナイトイベントの“トリ”として、午前4時過ぎから始まったのだが、大画面に映し出される自分の投稿を見て、眠気は一気に飛び去った。

photo 石井朋彦プロデューサー

 上映が始まると、神山監督や石井朋彦プロデューサーが目にとまったコメントに答えるかたちで、作品の背景や秘密、シーンに込めた作り手の思いが明かされていった。好きなキャラクターを聞かれれば、「滝沢君かなぁ」と監督が答え、物部という人物が付けている指輪について質問が投稿されると、「あれはカレッジリングですね」。さらに思わぬシーンでコメントが盛り上がれば、「なるほど、ここなんだ!」と石井プロデューサーが納得する。スクリーンを介して観客と作り手が、時に笑い、時に感動しながら交流を重ねていった。


photophoto 上映がはじまると「ドキドキ」「画面見エンよw」など、コメントが続々と浮かび上がる(写真=左)。イベントでは差し入れとしてドーナッツが提供されたのだが、「ドーナッツは食べましたか?」という監督の問いかけに、画面が回答で埋まる

 さらに上映中は、作り手からの“逆質問”も会場を沸かせた。作中では「ノブレス携帯」と呼ばれる100億円がチャージされた特別な携帯電話が登場するのだが、神山監督は「ノブレス携帯は欲しいですか?」「みなさんは100億円あったら何に使いますか?」など、いくつかの質問を投げかけ、そのたびに回答がスクリーンを埋めつくした。また監督は、劇中に登場する“飯沼総理”のモデルになった人物をクイズとして出題。明かされた答えは、「三船敏郎さんです」。

photophoto パンツも大人気(写真=左)。おネエの最大の見せ場がコメントで埋まる……(写真=右)

 コメントのやりとりを通じて、映画とは直接関係のない神山監督の考え方や哲学を聞けたのも、ファンにとっては貴重な思い出になっただろう。趣味を問われた監督は、「趣味はないんです。好きなことを仕事にしてしまったので」と答える。「好きなことを仕事にするのに覚悟は必要ですか」と新たな質問がスクリーンに浮かべば、諦めないことの大切さを説く。そんな風にして、2時間以上をかけて実施されたAR上映会はあっという間に終了した。

「映画の上映のしかたが変わるかもしれない」

photo

 東のエデンのAR上映は、3月27日に同じくテアトル新宿で開催されたオールナイトイベントに次いで2回目となる。「初見の人にはストーリーを追うのが難しい」(神山監督)のがAR上映の難点だが、「一緒に劇場で見ている人がどういうことを考えているか、作品と一緒に見られるのはとても不思議だし楽しい。こういうイベントもあっていいと思う。もしかしたら映画の上映のしかたが変わるかもしれない」と、監督は試みに手応えを感じているようだ。

 また、「作り手として、これ以上幸せな気持ちになれるイベントはない」とも。「実際に作品を見た人の声を直接聞ける機会は少ないですから」(神山監督)。スクリーンを通じたテキストのコミュニケーションは、小さな疑問や感想も含め、観客が自分の思いを言葉にしやすい。エンドロールには、作品や作り手、AR三兄弟に対する感謝のメッセージがあふれ、これには監督も胸を打たれた様子だった。


photo 感謝のコメントがあふれるエンドロール

 「東のエデン」は今回の劇場版によってひとまず結末を迎えるが、エンドロールで再び動き出すノブレス携帯を見ながら「続きはあると思います」「こういったイベントも、もう一回できると思うので」と神山監督はコメントを残し、会場を後にした。東のエデンのAR上映を見られるチャンスはまだあるのかもしれない。

 また、8月4日に発売される初回限定生産「東のエデン劇場版II Paradise Lost BD プレミアム・エディション」には、今回のARイベントの様子、そして東のエデンシステムを模した「ビジュアル・コメンタリー」を収録した特典ディスクが同梱されるとのこと。イベントの内容が気になるファンは、こちらをチェックしてみるのもいいだろう。

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