先述のとおり、MediaFLOは米国で商用サービスが提供されているほか、英国、台湾、香港、マレーシアでもトライアルが実施されている。米国ではVerizon Wirelessが2007年に、AT&T社が2008年にサービスを開始し、各事業者が10機種以上の端末を投入している。サービスエリアは112都市、2億人以上をカバーしている。また、南米では日本と同様に、ワンセグとMediaFLOを同時に利用することを前提とした導入も検討している。
また、Qualcommは2010 FIFA ワールドカップの全試合をMediaFLOで放送する権利を獲得した。メディアフロージャパン企画 取締役 クアルコムジャパン代表取締役兼社長の山田純氏は、「メジャーなスポーツイベントは多くの関心を持ってもらえるコンテンツ。Qualcommがサービスの普及に向けていかに本気で取り組んでいるかが分かる」と胸を張った。
山田氏は、MediaFLOに最も適したデバイスにiPadを挙げ、「iPadのような大画面のタブレット型デバイスを活用するための技術開発を進めている」という。会見では「PocketFLO」と呼ばれる試作機を使い、無線LAN経由でMediaFLOコンテンツを視聴するデモを披露した。
MediaFLO用のチューナーを内蔵しているPocketFLOは、端末に保存した蓄積型のコンテンツを無線LAN経由で送信し、iPadなどのWi-Fi機器で番組を視聴できるのが特長だ。このほか、タブレット端末やiPhone用ジャケット、USB型のデバイスにMediaFLOチューナーを内蔵することも可能。山田氏が「(チューナーを搭載する)技術の成熟には十分な自信を持っている」と力説したことから、日本でもさまざまな形でMediaFLOを楽しめることが期待される。
端末メーカーにとっても、世界規模で展開しているMediaFLOに参入するメリットは大きい。山田氏は「米国の市場は魅力的。日本のメーカーも海外にMediaFLO端末を投入するのではないか」と見ている。
携帯端末向けのマルチメディア放送の実現を目指し、KDDIは「メディアフロー放送サービス企画株式会社」を5月26日に設立。テレビ朝日、スペースシャワーネットワーク、アサツー ディ・ケイ、電通、博報堂の5社が資本参加する。この新会社は、ケータイや電子書籍端末、タブレット型PC、カーナビなどを対象としたMediaFLO向けのコンテンツや事業モデルを開発する。
メディアフロージャパン企画とKDDIが沖縄ユビキタス特区で実施したMediaFLOの実証実験では、70%のユーザーがストリーミング放送、75%のユーザーがファイル蓄積配信のさらなる利用意向を示した。この調査結果を受け、メディアフロー放送サービス企画代表取締役社長に就任した神山隆氏は、「マルチメディア放送の興味と期待をひしひしと感じている」と手応えを話した。
マルチメディア放送は有料サービスが中心となるので、ストリーミングではスポーツや音楽、アニメ、海外ドラマ、ファイル蓄積配信では映画や雑誌、ゲームなど、より嗜好性の強いコンテンツ配信を目指す。「電子書籍や映画1本のダウンロードなども取り入れていきたい」(神山氏)
また、神山氏は「ケータイと組み合わせることで、ターゲティング型の広告ビジネスも期待できる」と話し、同社はB to Bモデルの可能性も追求する。KDDIはEZチャンネルやEZチャンネルプラスなどでコンテンツ制作のノウハウもあることから、「MediaFLO向けに自社コンテンツの制作も考えていく」構えだ。もちろん、ファイル配信や課金システムなど、これまでKDDIがEZwebでも実施してきた、コンテンツプロバイダーが参入しやすい環境作りにも注力する。
Qualcommが米国で証明したMediaFLOサービスの実績と、KDDIが日本で培ったコンテンツプラットフォーム。この2つが融合し、日本でどんなマルチメディア放送が誕生するのか。まずは総務省が下す、受託放送事業者選定の動向を見守りたい。
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