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» 2010年06月28日 12時00分 UPDATE

小寺信良「ケータイの力学」:チェーンメールの何が「悪」なのか

チェーンメールというと、PCリテラシーのある人にとっては既知のものだが、子供たちにとってはそうではない。しかし、チェーンメールの何が悪いのかというところを突き詰めていくと、かなり難しい話なのだ。

[小寺信良,ITmedia]

 メールにまつわるトラブルで、いつまでもなくならないのが「チェーンメール」である。MIAUのリテラシー読本も一応6章まででひとまず完成ということにしたが、これを使って実際に授業をやってみたところ、「チェーンメールの話を加えてほしい」という先生からのリクエストがあった。

 以前からメールやネットを使っている大人にとっては、すでにチェーンメールに対する耐性が高くなっており、今さらのような気がする。しかし子どもたちにとっては、チェーンメールも初めて体験するものである。

 チェーンメール対策を読本に加えるにあたり、今どのような指導が行なわれているのかを調べてみた。多くの対策サイトでは「届いたら転送せずに自分のところで止めましょう」という指導がされている。これはまことに正しいのだが、MIAUのメンバーで議論していくうちに、基本的なところの答えがどこにもないという点に気がづいた。

 チェーンメールのパターンとしては、怖い話で人を脅かすいわゆる不幸の手紙系のものが主流だが、逆にHappyメールと呼ばれる、幸福の手紙系のものもある。あるいは「子犬の引き取り手を探している」だとか、「B型RHマイナスの血液が足りない」など、人の善意を喚起するものもある。

 人に不快な思いをばらまくのはよろしくないということは分かるが、笑い話を転送することは、本当に悪いことなのか。また悪いとしたら、何が「悪い」のか。あるいは人助けのつもりで善意の気持ちでメールを転送することは、悪いこととして責められるのか。

 チェーンメール対策については、すでに枯れた話であると思い込んでいたが、何が悪いのかというところを突き詰めていくと、かなり難しい話なのであった。

チェーンメールという手段の是非

Photo チェーンメールを受け取る人数の推移。2時間後にはのべ人数で約3億人を超える

 まず「悪い」と考えられる理由の1つが、チェーンメールによる情報伝達の拡大率である。例えばチェーンメールを受け取った人が、10分間に5人の人に必ず転送すると仮定する。すると10分で5人、20分で5+25で30人、30分で30+25×5で155人…といった具合に広まっていく。この調子でいくと90分後にはのべ約250万人に、2時間後には約3億人にメールが転送されることになる。2時間で、日本の総人口を軽く超えるわけである。

 この計算をしてみて、最初はインターネットにかかる負荷が問題であると考えた。しかし実際には、テキストしかないメールの流通がそれぐらい増えたとしても、インターネット全体に負荷がかかるとは言えないだろう。実際にはこの程度のチェーンメールより、spamメールのほうがより大きな負荷をかけている。

 では、その内容の真偽が問題なのか。確かに嘘の情報が大量にばらまかれ、それによってパニックが起きるとしたら、問題である。その情報が本当かどうかの裏を取る、という行為は、たとえ子どもでも必要であるという教育は、妥当であろう。自分で調べられなくても、親や先生など、真偽を判断できる大人に意見を求めることはできるはずだ。

 しかし、本当にあった話としているのではなく、笑い話としてのフィクションの場合はどうだろうか。もともと真実などはどこにもない、あるいは真偽のほどはどうでもいい、ただの「話」なのだ。例えばTwitterと比較して、面白い発言をRTするのとメールを転送するのとでは、一体何が違うのだろうか。

 これも悪いことだとするならば、これはもう「チェーンメールという手法」が悪であるということになる。すなわちネズミ講が法律で規制されているように、1人が数人の胴元になって広げていくというやり方そのものが罪なのである、という考え方である。

 確かに詐欺商法でこれらの方法を用いることは、加速度的に被害者数が拡がることになるため、法的な規制は必要だったろう。しかし情報の拡散においても、この方法に罪が問えるのか。つまりチェーンメールが問題となったころはまだ議論が十分ではなかったわけだが、この問題の本質はWinny事件が改めて世に問うたように、手法・アイデア・テクノロジーに罪が問えるのか、ということだったのではなかったのか。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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