ユーザーのライフスタイルをデザインするKDDIのデザインケータイブランド「iida」の第9番目のモデルとなる「LIGHT POOL」を手がけたのは、29歳の若手プロダクトデザイナー、坪井浩尚氏。発表会場では自らが作品のコンセプトやLIGHT POOLに込めた思いなどを語った。
坪井氏は、今回LIGHT POOLをデザインするに当たって、携帯電話そのものをデザインするというよりは、ケータイという現象や風景をイメージして提案をしたという。
「風景や現象というのは、そのもの単体で成立しているわけではありません。例えば夕焼けという現象は、太陽が大気中にある埃やチリ、水蒸気などさまざまな環境を巻き込んで作り出されたものです。ケータイも同じように、ケータイの背後に取り巻いている空気感やにおい、光や音など、ケータイそのものが辺り一帯の要素とさまざまな折り合いを付けてケータイの輪郭を成している、と考えてデザインをしました」(坪井氏)
この“現象”を表現するために取り入れたのが、これまでのケータイにはなかった「トラス構造」だ。建築物の外観でいうと柱と窓のように見える三角形のフレームと開口部がきれいに並ぶ大胆な構造は、強度を保ちつつ、背面全体をライティングメディアとして活用できる形を可能にした。フレーム部分でおおよその強度を確保し、三角形の開口部分には高輝度なイルミネーションを仕込んでいる。
「通常のケータイの背面は樹脂の塊や金属の塊であったりするわけですが、この構造にすることによって、意匠的なアクセントになっています。また構造的にもトラス構造のおかげで強度が保てています。さまざまな環境との“折り合い”を、このような意匠で表現しています」(坪井氏)
このような大胆なデザインと機構を目指す一方、道具としての誠実さも求めたと坪井氏は言う。ディスプレイを開きやすい、画面が見やすい、ボタンが押しやすい、開いたときの印象が美しい、そういったこと配慮しながら細部をデザイン。パーティングラインも1つ1つこだわり抜いて美しく仕上げたという。
充電台は、デザインはシンプルだがLIGHT POOL本体よりもかなり大きい。坪井氏は「一般的には、充電台はできるだけ小さく、ケータイの存在を引き立てるようなものとしてデザインされるが、今回はあえて大きめにデザインした」と話す。これには理由がある。LIGHT POOLには、「ロングモード」という、内蔵の音楽と光による演出を楽しめるモードが用意されているのだが、これを充電しながら楽しめるディスプレイ台として使えるようなデザインを目指したためだ。
こうした坪井氏の狙いやこだわりを実際の端末に仕上げるための開発は、困難を極めた。iidaや、その前身であるau design projectの初期から数多くのデザインケータイの開発に立ち会ってきたKDDIの砂原哲氏によると「これまでの機種の中で最も大変だった」という。「それほどまでに数多くの挑戦と実験的要素を含む新しいフォルム」だったと坪井氏は振り返った。
「細いフレームで強度を保ち、大きいライティングディスプレイを作ることはもちろん大変でしたが、すごく薄い空間の中で、鮮やかな光を演出するために、どのような厚さの拡散材を入れるかも苦労して検証しました。それこそミクロン単位で厚さが違うサンプルを何百種類も作り、塗装もいろいろなパターンを試し、その中で一番美しく見えるものをメーカーさんに作っていただきました」(坪井氏)
そんな坪井氏は、auのデザインケータイには強い思い入れがあるという。坪井氏がプロダクトデザイナーを目指すきっかけになったのが、2003年に発売された「INFOBAR」だったというのだ。
「21歳の時、深沢直人さんが手がけたINFOBARを見て、これほどデザインという価値は人と物との距離を縮めることができることができるんだと感動しました。このときの体験が、プロダクトデザインの道を目指す直接的なきっかけになりました」(坪井氏)
au design projectのINFOBARに薫陶を受け、プロダクトデザイナーになり、そしてiidaの新たなケータイを手がける――。「今こうしてこの場で新モデルを発表できることを光栄に、ありがたく感じています」と話した坪井氏のLIGHT POOLは、iidaを代表するようなモデルになるだろうか。
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