シャープ製の「SH-05C」は、ケータイカメラとしては高性能な、光学3倍ズーム対応の1410万画素CCDカメラを搭載したモデル。テンキーを備えないフルタッチ形状のボディも大きな特徴だ。最先端の技術を盛り込んだSH-05Cには、どんなこだわりが込められているのだろうか。
カメラ機能に注力したシャープの「AQUOS SHOT」シリーズは、これまでは回転2軸の折りたたみ型が採用されていたが、「SH-05C」ではフルタッチ操作のストレート型に変更された。カメラには光学3倍ズーム対応の1410万画素CCDセンサーを搭載してスペックを強化したほか、タッチパネルによるUI(ユーザーインタフェース)も一新した。スマートフォンブームが続く中で投入されるフルタッチのiモード対応機。最新のデジカメケータイはどのような経緯で完成したのだろうか。シャープの開発陣に聞いた。
―― SH-05Cの開発コンセプトについて教えてください。
永井氏 NTTドコモのPROシリーズ向けには、QWERTYキーボードを搭載した端末や、Blu-ray Discレコーダーとの連携機能を備えた端末などがありましたが、今回はデジカメケータイのAQUOS SHOTとして最高峰の端末を開発しようと考えました。単にCCDセンサーを搭載して画素数を上げただけでなく、光学3倍ズームを搭載し、フルタッチにこだわりました。
―― 開発期間はどれくらいかかったのでしょうか。
永井氏 コンセプト自体は1年以上前から考えていました。実際にカメラモジュールの大きさなどを検討したのがちょうど1年ぐらい前ですね。
―― 光学3倍ズームはほかにも搭載した端末がありました。今回のSH-05Cにはどんな違いがあるのでしょうか。
神原氏 まずこの薄さで搭載できたことですね。折りたたみ型の端末であればヒンジ部分に搭載できます。しかしフルタッチのストレート型の場合、ボディが薄く、光学3倍ズームのユニットを搭載するのが難しくなります。さらにタッチパネルを備えているので、液晶も通常より厚くなります。部品の配置場所に制限がある中でユニットを開発しました。内部を見ると分かりますが、普通のCCDモジュールよりも5倍ほど大きくなっています。
東氏 アンテナの配置も難しかったですね。折りたたみ端末なら筐体が上下に2つあるので、アンテナもある程度自由に設置できます。SH-05CはGPS、FeliCa、Bluetooth、ワンセグ、FOMAのアンテナを搭載していますが、フルタッチ型では、アンテナを載せられるのは筺体周囲部分に限定されてしまいます。しかも大きなカメラモジュールや側面のキーなどにより、配置できる場所がさらに制限され、アンテナの位置が調整しにくいのです。また、カメラモジュールのシールド構造が無線特性にも大きく影響するため、機構が担当するカメラモジュールの設計に、無線からも初期段階より加わりました。
―― となると、さまざまなサイズ感を検討されたと思います。
永井氏 最初は縦長にして横幅を狭くしたり、横に広くして薄くしたものなど、いろいろなパターンのラフなモデルを作成して検討しました。PROシリーズですので、カメラ以外にもGPSやBluetoothなど、ほとんどの機能を搭載しますし、フルタッチ形状が主流のスマートフォンとも比較されます。厚すぎても受け入れられないと思いましたが、最終的にこの形状、デザインが提案されたときは満場一致で決まりました。このサイズはカメラモジュールと液晶で決まったようなものです。それ以降はほぼこのままで進みました。他の端末では開発途中で形を変更することもありますが、今回はコンセプトもはっきりしていたので変わらなかったですね。
―― 「SH-06C」と同じフルタッチ形状も最初から決まっていたのでしょうか。
永井氏 そうですね。SH-05Cと併せてSH-06Cの企画検討を進めたので、兄弟機という位置付けです。
片山氏 SH-05Cのカメラ部分は、SH-06Cではプロジェクターの放熱に有効利用しています。ただ、SH-05CのカメラとSH-06Cのプロジェクターにはどちらも新規ユニットを使っているので、この部分の共通化には苦労しました。SH-05Cでは落下対策とスペースの制約、SH-06Cでは落下対策と放熱が特に大変でした。
東氏 光学3倍ズームのユニットの部分を、SH-06Cのプロジェクターのユニットに置き替えるだけで済むように設計していますからね。
―― 先に形がある程度決まっていて、2台とも同じとなると、デザインの差別化が大変だったのではないでしょうか。
真野氏 確かにフルタッチで厚さがある程度は決まっていましたが、デジカメとプロジェクターという、それぞれが異なる機能を盛り込んだケータイなので、世界観も違います。細かくディテールを作り込んでいきました。
徳力氏 PROシリーズというカテゴリーなので、まずデジタルツールの先進感を出したい。SH-05Cの場合は高性能カメラの搭載が決まっていましたが、カメラのレンズの位置がボディの真ん中に来ません。なのでカメラ部分を円のデザインにすると、本体からはみ出てしまいます。
真野氏 そこでカメラ周りのデザインは円ではなく、円弧にしました。完全に円ではありませんが、丸いレンズをイメージしています。また、本体の縁の部分を少し絞ることで、持ちやすく小顔のようにサイズが小さく見えます。さらに、デジカメはセルフタイマーで撮影できるよう横置きができるので、SH-05Cも横に立つよう、端子のカバーに小さな脚を付けました。
徳力氏 色もSH-05Cはマットなブラックと金属調のレッドを採用し、よりカメラのイメージに合わせて作っています。
―― サイズ以外ではどんなところを工夫したのでしょうか。
水本氏 現在のズーム倍率がすぐに把握できるよう、ズーム時の画面に倍率表示しています。起動速度やズームの処理の高速化にも取り組みました。また、ズームとフォーカスのレンズを動かす仕組み(ズームトラッキング)では、それぞれのレンズを動かす際に、先にズームレンズだけを動かしてしまうとフォーカスが合うのが遅くなります。そこで、1段ずつズームとフォーカスを交互に繰り返すという仕組みを取っています。光学ズームの動きはデジカメのようにスムーズとまではいきませんが、操作している人には違和感がないようにしています。
神原氏 ズームを動かすのに、これまでは磁石を使っていましたが、今回はモーターを使っています。ソフトで制御するのですが、モーターメーカーの方とどこまで高速化できるのか、相談しながら開発しました。モーター音の調整も大変でした。最初は草刈り機のような音がしていました。モーターの高速化、サイズダウン、さらにモーターのせいでボディ全体も振動する。これらを工夫して、今ではフルHDムービーの撮影時に、動画だけでなく音もクリアに記録できるようになりました。
―― カメラの画質は進化したのでしょうか。
水本氏 相当いいですよ。実は生産時のモジュールは画質にばらつきがあって、ホワイトバランスや色味のバランス調整が大変でした。光学ズームも11段階のズームですが、1段階ずつばらつきがあります。それを大きく3つに分けて調整し、ソフト処理でデータ変換の補正をして生産工程で平均化し、画質を整えました。スペックからは見えませんが、光学ズームの画質調整ソフトの実装は本当に大変でした。
神原氏 それと光学ズームは暗くなりがちですが、SH-05Cでは10枚のレンズを使い、そのうち8枚にガラスを採用したことで、明るく撮れます。普通は軽くしたり、安上がりなのでプラスチックを使いますが、レンズ1枚ずつが他のケータイとは違います。
水本氏 デジカメでは当たり前の機能ですが、光学ズームを搭載したことで、AFレンズをダイナミックに動かせるようになりました。するとマクロ撮影の際にさらに寄って撮ることができるようになったんです。
―― 被写体に5センチまで寄れるスーパーマクロ撮影ですね。
永井氏 ユーザーの皆さんのブログを見ていると、料理などを至近距離で大きく撮る人が多いですね。接写モードは需要があると思ったので、さらに寄れると分かったときは、即機能に盛り込みました。
―― 撮影機能はどんなものが搭載されていますか?
永井氏 ズームを生かした機能として、「ベストレンジズーム」があります。人物撮影のときに最適にズームします。「プレビュー」機能も撮影画面に付いています。撮影中に写真を確認したいとき、データBOXを開くのは面倒ですからね。直前に撮影した小さな写真が表示されるので、それをタッチすればすぐに確認できます。また先ほど少し触れましたが、従来のAQUOS SHOTで利用できる機能はすべて搭載しています。「SH-01C」などに搭載していた「ペット検出」や「オススメフォト」などの機能もあります。
―― ペット検出は顔認識の延長の技術と思っていいのでしょうか。
永井氏 はい。今のところデータベースにあるのは犬と猫だけですが、データを集めれば鳥などもできると思います。いずれは自分のペットだけを認識できればいいですね。
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提供:シャープ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2011年2月20日