示されたのは「新たな飛躍」――Appleが実現するモバイル&クラウド時代の理想像WWDC 2011(3/3 ページ)

» 2011年06月07日 21時45分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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メンテナンスフリーを実現するiCloud

Photo AppleのiCloudが重視するのは、「It just works(とにかくちゃんと動く)」

 「It just works(とにかくちゃんと動く)」

 iCloudのプレゼン中、スティーブ・ジョブズ氏はこの言葉を何度も繰り返し、スクリーン上にも何度も文字が躍った。そこにiCloudに対する、ジョブズ氏とAppleの思い入れが読み取れる。

 iCloudは、今後のAppleのクラウド戦略の中核になるものだ。デジタルライフスタイルの世界観が、過去のMac(PC)中心から、Mac・iPhone・iPad・AppleTVなど複数のデジタル機器によるマルチデバイス時代になる中で、それらの統合と協調を司るものがiCloudなのである。


iCloudではバックアップや直近に撮影した写真の保管・同期、アプリの同期、文書の保管など、ユーザーがiPhone/iPadを活用するためのさまざまな支援が行われる

 では、このiCloudで実現する価値とはどのようなものか。

 誤解を恐れずに言えば、それは「メンテナンスフリーの世界」である。ユーザーのすべてのデータや購入したアプリ/コンテンツが自動的にバックアップ・同期され、ユーザーは”いつもそこにあるもの”として安心して利用できる。iCloudではクラウドのサービスが端末やアプリAPIと密接に結びついているため、一般ユーザーは自分たちがクラウドサービスを利用しているという意識すらすることなく利用できる環境になるだろう。それでいて常にMac・iPhone・iPadが同期していて、クラウド上に常にバックアップがある安心と安全が享受できる。だからこそ「It just works」なのである。

 これは”当たり前”のように思えるが、実現はたやすいものではない。Appleはその実現のためにノースキャロライナに大規模データセンターを開設し、OS XとiOSを同時にメジャーバージョンアップしなければならなかった。逆説的にいえば、そこまでやらなければモバイル&クラウド時代の新たな飛躍はできないのである。

Photo 「It just works」を実現するために、Appleが新たに構築した大規模データセンターの内部の様子

iCloud中心の世界観はソフトバンクに有利

 iCloudを軸に新たな段階に入るiPhone・iPadであるが、このクラウド中心のコンセプトを考えたときに、心配されるのがネットワークインフラの負担増である。日本に目を向けてみても、現時点のiPhone・iPad取り扱いキャリアであるソフトバンクモバイルが、Appleのモバイル&クラウド戦略を支えられるかは気になるところだろう。

 結論からいえば、筆者は今回のiCloud + iOS 5をソフトバンクモバイルはきちんと支えられると見ている。それどころか同社にとっては、やり方次第では追い風にもなるかもしれないと考えている。

 なぜか。

 それは逆説的ではあるが、「iCloud + iOS 5」の体制はWi-Fiへのオフロードなしでは成り立たないからだ。バックアップなどデータ容量の大きいiCloudとの連携はWi-Fi利用を前提にしており、特にPCフリーで運用するには、自宅内の固定網+Wi-Fi環境の導入が不可欠である。キャリアの3Gインフラだけでは、今後のiPhoneやiPadは支えられない。むしろ積極的に、キャリアがオフロード戦略を推進・投資していることが望ましいのである。

 ひるがえって今のソフトバンクモバイルを見ると、3Gインフラの構築ではいまだドコモやKDDIに後れを取っているものの、Wi-Fiインフラを活用したオフロード戦略ではむしろ他キャリアよりリードしている。街中へのWi-Fiスポットエリアの拡大だけでなく、ユーザー宅のWi-Fi化にも注力しており、この分野でのノウハウは国内キャリアでも随一といえる。またソフトバンクとしては固定網ブロードバンドサービスの「Yahoo! BB」も擁しているため、PCフリーでiPhone・iPadを使いたい新たなユーザー層に向けて、簡単かつ安価に導入できる「固定網ブロードバンドサービスとWi-Fi環境のセットプラン」も作りやすい。

 オフロード戦略に早くから取り組んでいたことが、iCloud+iOS 5時代のiPhone・iPadを取り扱う上で有利に働く。そのような見方もできるのである。

クラウドとスマートデバイスの世界が変わる

Photo クラウド活用はコンテンツストアにも拡大する。その第一弾として今回は、「iTunes Match」が発表された

 iPhoneとiPadの登場以降、スマートフォンやタブレット端末などスマートデバイスの世界は、名実ともにAppleによって未来が切り開かれ、市場が牽引されてきた。そして、その波及効果によってコンピューティングとインターネットの在り方が変わっていった。

 今回WWDC 2011で発表されたOS X Lion・iOS 5・iCloudは、2007年からAppleが起こしてきた革新の第2章になる。クラウドとスマートデバイスの世界の様相が再び変わり、市場の裾野が拡大する。それだけ大きなポテンシャルを、これらは持っているのである。

 Appleが出した3枚のカードが、すべてそろうのは今秋。今から楽しみである。

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