ルネサンス高校の取り組みに見る「デジタル教科書」のメリット小寺信良「ケータイの力学」

» 2011年08月01日 12時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 7月27日、半導体大手クアルコムと通信制高校のルネサンス高校が「スマートフォン×デジタル教科書」プロジェクトを開始すると発表した。具体的には、クアルコムが社会貢献事業としてルネサンス高校へ寄付を行い、同校がスマートフォン500台を生徒に配布。さらにスマートフォン用の学習教材開発を行なう――というものである。

photo 記者発表会の模様。左からクアルコム会長兼社長の山田純氏、慶應義塾大学教授でDiTT副会長・事務局長の中村伊知哉氏、ルネサンス・アカデミー社長の桃井隆良氏

 ルネサンス高校は、株式会社が運営する珍しい学校である。本来学校は、学校教育法第一章第二条により、国や地方公共団体、学校法人でなければ営むことができないと規定されている。しかし小泉内閣時代に構造改革特区制度により、一時期だけ株式会社による設立が可能になった。現在株式会社運営の高校は、全国で20校ほど存在する。

 ルネサンス高校は広域通信制を導入しており、さまざまな理由で通常の通学が難しい日本全国の高校生約2200人が教育を受けている。例えば職業を持っている子、不登校の子、学習について行けなくなり中退した子などだ。人数で考えれば、まさにマンモス校と言っていい。

 これまで本コラムでは、電子教科書教材導入の実態を検証してきた。この導入に関しては必ず一定の抵抗を示す層があるわけだが、それは現在の紙ベースの教育で過去一定の成果を上げてきた「自信」がそうさせるのではないかと、DiTT(デジタル教科書教材協議会)の中村教授は指摘する。

 だがその成功体験はいわゆる通学制の学校の話なわけで、ルネサンス高校のような通信制高校となれば、そもそも学習環境自体が普通の学校と同じにするのが無理な話であり、そこには電子教科書教材を導入する明らかなメリットが存在する。モバイルラーニングだ。

 現在日本の高校生数は、平成22年度の文科省調査(PDF)によれば、全日制・定時制課程が約337万人。そして通信制高校に通う生徒は18万8千人となっている。ITによる教育手法の確立は、実質的にこれだけの人数に関わりのある話なのである。

効率を考えない学習は無意味だ

 ルネサンス高校ではこれまでも、e-ラーニングやVODによる授業配信、少人数のライブ事業などITをフル活用してきたが、同時にモバイルラーニングとして携帯電話の活用も積極的に行なってきた。一般の高校でもごく一部で、携帯電話を学習に使う取り組みが行なわれているが、ここは「ケータイで学ぶ」ということが当たり前に行なわれている。

 そもそもPCを使ったe-ラーニングで、一日の授業をまるまる受けることは難しい。いくら通信制高校に所属する身とはいえ、日がな一日パソコンの前に座っているわけにはいかないだろう。しかしケータイなら、いつでもどこでも学習できるため現実的なのだ。

photo スマートフォン用に開発された学習教材

 ケータイによる学習のメリットとしては、問題発送ミスや採点結果通知をある程度自動化することで、生徒側はタイムラグなしに教育が受けられる点がある。また先生側も自動化により余裕ができた時間で、より多くの個別指導を行なうことができる。そう言うと、学習は効率ではないという人が必ず出てくるが、昔ながらの根性論ではもう成果が上がらなくなってきたから、今の教育の問題がある。

 もちろん、すべての学習がケータイだけでできるとは学校も思っていない。そのためにVODやリアルな教室での体験学習も併用している。要するに、反復学習のように時間がかかるものをIT化することで、学習を効率化しているわけだ。

 すでにこの4月より、スマートフォンによるモバイルラーニングにも着手しているが、ご存じのようにまだ高校生ぐらいだとスマートフォンへの乗り換え組は少ない。しかしクアルコムとのプロジェクトでスマートフォン学習者が大幅に増え、「英語演習A」ではすでに600人が学習を始めている。

 次回はスマートフォンを使った学習の可能性とその効果について、検証してみたい。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は津田大介氏とともにさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社)(amazon.co.jpで購入)。


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