さらにキャリアにとって悩ましいのが、スマートフォンでトラフィックが爆発的に増えても、ユーザーに課す通信料金を簡単には上げられないことだ。ドコモやKDDIではフィーチャーフォン向けのパケット定額制よりも上限額を1000円ほど値上げしているが、スマートフォンによる実際のトラフィックの増加量はこの値上げ分では吸収できていない。またソフトバンクモバイルの主力商品であるiPhone向けの料金プランは、戦略的にパケット定額料金の上限が一般的なフィーチャーフォンと同じ月額4410円に抑えられているため、インフラ側の収益バランスは、ドコモやKDDIよりさらに苦しいだろう。
スマートフォンが普及すればするほどトラフィックは増大し、キャリアはそれに対応できるだけのインフラ投資の積み増しが求められる。一方で、これまでのパケット料金定額制の仕組みやスマートフォン市場での競争戦略上、実際の利用増に応じた料金の値上げは難しい。このような二律背反な状況の中で、キャリア各社は苦肉の策として、まずは大量のデータ通信を行うユーザーの通信速度制御を実施。さらにはパケット料金定額制の見直し議論まで起きているのだ。
とはいえ、スマートフォンの普及と市場拡大は世界的な潮流である。またキャリアから見ても、スマートフォンはインフラの収益バランスを崩すという点では悩みの種だが、スマートフォン向けの新たなビジネスやサービスを展開するという点では重要な存在だ。インフラ負担・収益バランスの問題が大きいからという理由で、スマートフォン移行への流れを押しとどめることはできない。
そのような中で、キャリア各社が注力するのが、高コストな携帯電話インフラ以外にトラフィックを分散する「オフロード戦略」の推進だ。ここでは、どれだけ割安なインフラを活用できるかが鍵になる。例えば、データ通信利用が集中する商業施設や公共施設に設置する「Wi-Fiスポット」や、家庭向けの「Wi-Fi」、「フェムトセル(超小型基地局)」活用、従来の3G (第3世代携帯電話)よりもインフラコストが安い「モバイルWiMAX」などは今後さらに注目となるだろう。
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