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» 2012年02月27日 17時30分 UPDATE

小寺信良「ケータイの力学」:子どものネット利用とプライバシーの問題(2)

普及するスマートフォンだが、子どもたちへの浸透はこれから。スマートデバイス向け「監視アプリ」の機能を正しく理解し、また対象となる子どもたちとの信頼関係を損なう使い方は避けなければならない。

[小寺信良,ITmedia]

 前回は、シマンテックから無料公開されたAndroid向け監視アプリ「ノートンセーフティマインダー」の動作を試してみた。基本的にはWebサイトのフィルタリングアプリだが、単にアクセスできないようにするだけでなく、アクセスログを収集し、保護者向けサイトでそれを確認する事ができる。具体的には遮断したサイトのURLが表示されるわけだが、Googleなどのサーチエンジンで検索した結果遮断された場合は、どんなキーワードで検索したかも分かる。

 さらに、最もよくアクセスしているサイトやよく参照するサイトのカテゴリなども分析してくれる。保護者にとってはいいことだらけのような気がするが、ネットには子どものプライバシーへの侵害を懸念する声も多い。

 ここで前提条件を整理しておくと、本アプリはAndroid用なので、子どもがAndroid端末を使うという前提に立っている。現在、子どもがどれぐらいスマートフォンを所有しているか普及率で調べると、このコラムではすっかりお馴染みとなった内閣府「青少年のインターネット利用環境実態調査」の平成23年度版では、小学生は0%、中学生では5.4%、高校生では7.2%、小中高合わせると平均で5.7%という数字が出ている。

 民間の調査では、フィルタリング提供会社のデジタルアーツが昨年12月に発表した資料がある。これによれば、小中高生全体でスマートフォン所有者は14.4%となっている。

調査では見えてこないもの

 これらの調査では、見えてこないことがいくつかある。まずiOSとAndroidの比率が出ていない。大人の市場で考えるとだいたい半々ぐらいになっているので、子どももまあ同様と考えると、多く見積もってもAndroid端末は、まだ小中高全体の7%程度の普及とみられる。

 もう一つ、これらの調査は子どもが所有する携帯電話に限っており、家庭内で共有している、あるいは親が所有するものであっても子どもに使用を許可しているタブレット端末が含まれていない。

 タブレット端末は子どもにとって高い教育的効果が見込めるデバイスとして、期待されている。米国のCommon Sense Mediaという非営利団体が昨年秋に調査した結果では、0歳から8歳までの子どものうち約52%がスマートフォンやタブレット端末を使った経験があり、そのうちの29%の親は子どものためにアプリをダウンロードした事があるという調査結果がある。

 日本においても、携帯電話でなくともAndroid端末は家の中にある、あるいは数年先には家中にあるということも、考えられない話ではない。数が増えれば、常時ペアレンタルコントロールは難しくなり、なんらかの監視は必要になる。

 この潜在需要が大きく広がる時期に、無料で使えるフィルタリングツールがあるということは、タイミング的に有り難い話である。なにせそれまでは、これらモバイル端末用のフィルタリングツールはi-フィルターしかなく、年間3780円の使用料がかかっていた。今回のシマンテックの参入で、フィルタリングツールも今のアンチウイルスソフトのように、簡易版は無償提供されるモデルになっていく可能性もある。

実は大したものは採れない

 このツールで親が知る事ができる子どもの情報は、機能がWebアクセスへのフィルタリングしかないので、かなり限定的だ。要するにブラウザを使ったときのログしか採れない。

 例えば独自のクライアントを使ってTwitterにアクセスしているとか、2ちゃんねるビューワーを使ってまとめサイトを見てるみたいなことは、このツールでは解析できない。それらのことまで制御したければ、OSの設定でアプリの起動あるいはインストールの制御を行なうことになる。だが多くの保護者は、自分もAndroid端末を使っていない限り、そこまでの管理はできないだろう。

 ということは、このツールを入れただけでアプリの制限をしなかった場合、得られる情報のほとんどは、フィルタリングによって蹴られた検索キーワードの抽出ぐらいになってくる。つまりインターネットの大きな役割の一つである「知る」というところは制御できるが、「話す(コミュニケーション)」というところは制御できない。しかし多くの福祉犯被害という実害は、「話す」という部分から誘引されているのが実情であり、そちらのほうは保護者が自分で勉強してOSの機能を制御するしかないのだ。

 検索キーワードも一つの重要なプライバシー情報ではあるが、それを保護者が閲覧していいものか。これは子どもの年齢によると思う。例えば机やカバンの中を保護者が把握しておくべき年齢、小学生から思春期ぐらいまでは、検索キーワードを見ることも子どもの成長を見守るためのデータとして、閲覧してもいいのではないかと考える。

 ただそこで重要なのは、“だまし討ち”はよくないということだ。子どもにはあらかじめ監視ツールが入っており、あなたが何を調べようとしたか分かるようになっている、ということをきちんと説明しておかなければならない。これを怠ると、親子と言えども信頼関係が損なわれることになるだろう。

 一方、思春期を過ぎると、保護者のプライバシーへの介入を激しく拒むようになる。この場合は、ログの閲覧は最小限に抑えるべきである。だがこのときもやはり、「いつもは見ないけど、何かあったら見るよ」という事は言っておくべきである。なぜならば、何かあれば自分のやったことが調べられるということを、子ども側が理解する事で、子ども自身が行動を自重するようになるからである。このツールの大きな役割は、むしろその自重を促すことにあると言ってもいいだろう。

 おどしによって自重させるのか――という批判もあるかもしれないが、これは実際に大人がインターネットを使う場合とさしてかわらない。いざ何かあれば、プロバイダ責任制限法に基づいて情報公開請求を行なえば、プロバイダやサービス事業者のアクセスログは開示されるわけで、今回のツールはそれの小さい版である。

 逆に、身内で済んでるうちにいろいろやってみろ、本当にヤバイところには行かせないけどな、という使い方ができるようなカスタマイズも必要で、そのようなカスタムデータを保護者間で共有できる仕組み、例えばSNSのようなもので保護者同士が設定のアドバイスをしあうしかけというのも、考えてもいいのではないだろうか。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia +Dモバイルでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


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