iPhoneの音楽機能もさらに使いやすく――Apple「iTunes Store」の進化を考える(1/2 ページ)

» 2012年03月01日 09時30分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 2月22日、Appleが日本向けiTunes Storeの機能を強化した。すでにニュース記事でも報じられているが、これは「iTunes in the Cloud」をはじめとするさまざまな機能を搭載するというもの。その多くは北米市場ですでに提供されていたもののキャッチアップではあるが、日本のユーザーにとって待望のバージョンアップであることは間違いない。

 今回のiTunes Storeの機能強化が、日本のユーザーにとってどのような意味を持つのか。そして、iPhone/iPadの販売にどれだけ影響するのか。今回は米AppleのiTunesアジア太平洋地域 & カナダ 担当シニア・ディレクターのピーター・ロウ氏の話を交えながら、それらについて考えてみたい。

3G対応とiTunes in the Cloud

 「今日では、iTunes Storeは世界でナンバー1の音楽小売店になりました」(ピーター・ロウ氏)

 それは厳然たる事実だ。

 iTunes Storeは現在、51カ国で展開されており、グローバルで160億楽曲を販売している。登録されている楽曲数は2000万曲。iTunes Storeに対応するオーディオプレーヤーは、iPhoneなど最新のiOSデバイスに限ってみても3億1500万台に達している。

 かつてソニーの「ウォークマン」が音楽から場所の制約を取り払い、多くの人々に音楽を身近なものにした。それと同様に、AppleはiTunes Storeで音楽の利便性を大きく向上させ、本格的なオンライン販売・流通のビジネスを創造。音楽を、手に取りやすいものにしてきたのだ。

 そして今回、Appleは日本市場向けのiTunes Storeに大きく6つの新機能を導入した。

 その中でも、日本のユーザーにとって、特に注目なものが2つある。1つは「3Gネットワークでの楽曲購入への対応」、もう1つが「iTunes in the Cloud」である。

 まず、前者の3Gネットワークでの楽曲購入への対応だが、これは日本のユーザーからすると、「ようやくか」と思う反面、待ちに待った機能でもあるだろう。これまで3G内蔵のiPhoneやiPadであっても、音楽の購入には無線LAN(Wi-Fi)環境が必須だった。“いつでもどこでも、好きな時に音楽が買える”という、ケータイ向け音楽配信サービス「着うたフル」などでは当たり前の機能がなかったわけだ。それが今回の機能向上で、Wi-Fi環境がなくても、3Gネットワークを通じてiPhone/iPadでの楽曲購入ができるようになった。しかも3Gネットワークでも、PCやWi-Fi環境と同じクオリティの楽曲が提供される。

 日本では若年層を中心に、3G回線を通じて「ケータイで好きな時に音楽を買う」というスタイルが定着している。自分専用のPCを所有しておらず、パーソナルなコンテンツ利用はもっぱらケータイなどモバイル端末だけで行い、自宅にWi-Fi環境を構築していないという世帯も少なくない。今回、iTunes StoreでもWi-Fi環境という制約なしに音楽が買えるようになった。iPhoneでも“ケータイっぽく”気軽に音楽が買えるようになったことにより、ケータイからの乗り換えがしやすくなったのだ。これはiPhoneとiTunes Storeの市場の裾野が拡大する上で、とても大きな効果があるだろう。

Photo iTunes in the Cloudにより、一度購入した曲はどの端末からでもダウンロード可能になった

 そして、もう1つ注目の機能強化が、「iTunes in the Cloud」である。これは最近のAppleが推進する“マルチデバイス戦略”の要となるもの。過去から最新のものまで、iTunes Storeで購入した楽曲の情報がAppleのクラウドサービスですべて共有・管理され、同じiTunes Storeのアカウントで認証された機器では、iTunes in the Cloudから直接音楽コンテンツが配信されるようになる。

 これが具体的に分かりやすいのが、Mac/PC版のiTunesと、iPhoneやiPadを同じiTunes Storeのアカウントで使い、プッシュ配信機能をONにしている場合だろう。この状態で、例えば外出先でiPhoneで音楽を買ったとする。すると、すぐにiPhone上に音楽がダウンロードされるのはもちろん、自宅のMac/PC上のiTunesや、iPadにも同じ楽曲がプッシュ配信されるのだ。iTunes in the Cloudでは「いちいち楽曲の転送やバックアップを考える必要がなくなる」(ロウ氏)のである。

Photo iTunes in the Cloudでは、同じアカウントで管理しているMac/PC、iPhone、iPad間で、クラウド経由で同期や再ダウンロードが可能になる

 さらにこのiTunes in the Cloudは、iTunesを自分の音楽ライブラリとして“末永く使う”際にもメリットがある。Appleはこの音楽クラウドサービスを提供するにあたり、iTunes Storeで購入した楽曲はすべて、iTunes in the Cloudでいつでも再ダウンロード可能にしたからだ。これは(iTunes Storeが始まった2005年からの)過去7年に遡っており、今後、購入していくものもすべて履歴化・再ダウンロードが可能になる。こうした仕組みは、「お客様にとって購入した音楽はとても大切なもの。ハードウェアの買い換えとともに、音楽ライブラリを失ってしまうことはあってはならない」(ロウ氏)という考えに基づいている。

 一方、着うたフルなど日本の音楽配信サービスを振り返ると、過去には「携帯電話を買い換えたら、購入済みの音楽を新機種に引き継げない」という時代が長く続いた。今でも“購入済みの音楽コンテンツ”を簡単に引き継げない状況は続いており、ケータイからスマートフォンへの買い換えや、MNPによるキャリア変更とともに音楽コンテンツが失われてしまうことがある。少なくとも今回のiTunes in the Cloudのように、“7年前に遡って購入済みの音楽が再ダウンロードできる”モバイル向け音楽配信ストアは他にはないだろう。

 筆者は、音楽がデジタルコンテンツ化し、クラウド化していく上で最も重要なのは、マルチデバイス対応による「汎用性・利便性」と、音楽ライブラリの「継続性」だと考えている。音楽配信ストア(プラットフォーム)として、個々のユーザーの音楽ライブラリをどれだけ尊重しているか。その信頼性が問われる部分だ。そうした観点で見ると、iTunes in the Cloudの仕組みはとても使いやすく、ユーザーの立場を尊重して作られたものと高く評価できる。今回、過去にまで遡ってクラウド化による再ダウンロードを実現したことで、多くのユーザーが「iTunes Storeでならば、将来の不安なく自分の音楽ライブラリを預けられる」と感じるだろう。これはとても大切なことだ。

iTunes Plus標準化により、高音質化と利便性向上を実現

 今回の機能向上では、iTunesの基本でもある「音楽を楽しむ」という部分にも踏み込んでいる。その筆頭に来るのが、iTunes Plusの標準化だ。

 iTunes Storeは当初、標準的な音楽配信のフォーマットとして著作権保護技術(DRM)付きのAAC形式を採用し、ビットレートを128Kbpsにしてきた。その後、Appleはより高音質(AAC形式・ビットレート 256Kbps)でDRMなしの「iTunes Plus」を始めたが、これまでは従来型のフォーマット(DRM付きAAC 128Kbps)で配信するか、iTunes Plusにするかは楽曲によりさまざまだった。しかし今回、それが改められて「(今後)日本のiTunes Storeで配信されるすべての楽曲が、iTunes Plusになる」(ロウ氏)のだ。

 このiTunes Plusの標準化により、ユーザーはまず高音質化のメリットを享受できる。ビットレートの違いが音質のすべてを左右するとまでは言わないが、収録されるデータ容量が増えることは大きなメリットだ。特に音楽配信で購入した楽曲も、自らの「音楽ライブラリ」として長く大切にしたいユーザーにとって朗報と言えるだろう。かくいう筆者も、これまでiTunes Storeで購入してとても気に入った曲は、あらためて音楽CDを購入して高音質なビットレートで保存し直すといったことをしていた。すべての配信曲がiTunes Plusのクオリティになれば、そうした手間も減りそうだ。

 そして、iTunes Plusで「DRMなし」になることも、注目のポイントだろう。これまでAppleのiTunes Storeで購入した楽曲にはDRMが付いていたため、そのままではApple以外のオーディオプレーヤーで再生することができなかった。しかし、DRMなしのiTunes Plusが主流になれば、そこで購入した楽曲をApple以外のプレーヤーでも聴くことが可能になる。“ユーザーが購入した音楽コンテンツは、ユーザーのもの”という観点に立てば、今回AppleがiTunes PlusでDRMなしの方向性を推進することは、とても歓迎すべきことと言えるだろう。

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