今回の連載では2月20日から3月9日までの記事を対象に、振り返っておきたい3つのニュースをピックアップした。本来の企画趣旨とは異なり“3週間のまとめ”になっているが、これは2月27日から3月1日にかけて、スペイン・バルセロナにて携帯電話関連では世界最大の「Mobile World Congress 2012」が開催されていたため。筆者もスペインに渡っていたが、国内の話題を厳選する時間がなかったこともあり、本稿では勝手ながら対象期間を3週にさせいただいた。この3週間にもさまざまなニュースが飛び込んできたが、中でも注目しておきたいものを3本に絞ってお届けする。
Appleが3月8日に新型iPadを発表した。同社のCEO、ティム・クック氏が「単なる新製品ではなく、カテゴリーを作った」と述べているように、iPadはもはやタブレットの代名詞といえる存在に成長している。プレゼンテーションでも触れられていたが、すでにiPadの販売台数はPCを上回っており、iOS用のアプリも58万5000になった。会見ではクック氏がこのiPadシリーズを「改めて再定義する」と宣言した。冒頭ではあえて新型iPadと表記したが、英語では「The new iPad」と呼ばれていることもからも、次のスタンダードを築いていこうという意気込みが伝わる(記事を書く上では紛らわしい名称なのだが……。今回発表されたiPadのことは、以降新型iPadと表記していく)。日本での発売日は3月16日。モバイル通信搭載モデルについては、ソフトバンクモバイルが取り扱うことが決定している。
新型iPadの特徴は5つある。1つ目が、2048×1536ピクセルの「Retinaディスプレイ」。2つ目がこのディスプレイに最適化し、「NVIDIAの『Tegra 3』より4倍速い」というクアッドコアGPUの「A5X」チップ。3つ目が裏面照射型CMOSセンサーを採用した500万画素のカメラ。4つ目が音声入力、そして5つ目がLTE、HSPA+、DC-HSDPAなどの高速通信への対応だ。
まずディスプレイについての印象から述べていくと、美しいの一言に尽きる。会見でも触れられていたように、よほど画面に顔を近づけない限りは、ドットを認識することすらできない。まさに“網膜”というだけあると感じた。カメラで接写した画像を拡大すると小さなドットは見えるものの、これだけ精細なら印刷物と同じような感覚でコンテンツに接することができるだろう。普段使用している「iPad 2」と比べ、色再現性も高いように感じた。2つ目のクアッドコアについては短時間で恩恵を感じられるシーンが少なかったため、ディスプレイほどの驚きはなかったが、この解像度の映像をスムーズに動かせるのもA5Xの実力といえるのかもしれない。
また、iPad 2ではお世辞にもキレイに撮れるとはいえなかったカメラも、性能が大幅に上がっている。端末を試した会場は比較的光の少ない場所だったが、ノイズが非常に少なく、明るい写真が撮れた。タブレットで写真を撮影する人がどこまでいるのかは分からないが、少なくとも以前よりは実用に耐えるカメラに仕上がっている。カメラモジュールが変更になったため、若干レンズがiPad 2より大きくなっている点が外観上の差分といえるだろう。音声認識機能については、残念ながら会場でしっかりチェックできなかった。関係者が詰めかけており雑音が多かったため、正確な認識が難しかったようだ。
最後の4G対応については、うたい文句を額面どおり受け取らないよう注意が必要となる。LTEに対応しているのはあくまで米国とカナダだけで、そのほかの国ではHSPA+やDC-HSDPA、HSPAなどに接続する形となる。ソフトバンクモバイルの広報部によると「現状、(新型iPadが対応している)FDD方式のサービスは始めていないため、LTEは使えない」といい、DC-HSDPAに関しても「周波数帯が異なり、仕様を見る限りでは対応できない」という。そのため、“Wi-Fi+4G版”とうたわれたモデルを購入しても、現状では初代iPadやiPad 2と通信速度に差はないものと思われる。ただし、同社は先日900MHz帯の免許を獲得しており、7月にはHSPA+のサービスを開始する予定だ。新型iPadも900MHz帯のHSPA+に対応しているため、7月に一部エリアで速度が向上する可能性は高い。こうした通信関連の仕様、料金、サービスについて現時点ではソフトバンクから詳細はアナウンスされていないが、「準備ができ次第お知らせする」という。購入を考えている人は、発売日まで最新の情報をチェックしておくようにしたい。
イー・アクセスが3月15日に、LTEサービスを開始する。開始日や料金の発表に先がけて行われた記者会見で同社の代表取締役社長、エリック・ガン氏が「目標は3880円にしていきたい」と述べていたとおりの価格が実現した格好だ。
開始当初の速度は下り最大75Mbps/上り最大25Mbps。帯域幅を増やすことで、将来的な速度向上も計画している。エリアは「既存のDC-HSDPAの上にオーバーレイする形で構築していく」(ガン氏)といい、サービスイン当初の人口カバー率は40%となる。来年度末の人口カバー率は70%を予定しているが、これはNTTドコモとほぼ同じレベルだ。イー・アクセスの千本倖生会長が「LTEサービスの提供はイー・アクセスにとって第2の創業」と述べているが、このエリア計画からも同社の気合いがうかがえる。「2015年には1500万契約、国内シェア10%を目指したい」(同氏)とし、LTEサービスはその起爆剤と位置付けているようだ。
欧州でLTEの標準的な周波数として使用されている1.7GHz帯を転用したため、「海外からの端末調達もしやすくなる」(ガン氏)という。当初はUSBモデムやWi-Fiルーターのみのラインアップだが、年度末までにはLTE対応のスマートフォンも投入する予定だ。ガン氏によると「Release 9対応チップの開発に合わせていく」といい、搭載端末の登場が待たれるところだ。現状では「スマートフォン型の端末は全体の5〜7%しかいない。モバイルブロードバンド契約のユーザーが圧倒的に多い」(同氏)というが、LTE対応スマートフォンを投入する段階でユーザーの受け入れ体制も変えていく。その上でガン氏は、従来同社が得意としていた企画色の強いコンパクトモデルではなく、王道を狙ったハイエンドモデルを取りそろえていく方針を明かした。「海外端末だけでなく、国内仕様のものも出したい」(同氏)というだけに、将来的には大手3社とそん色ないラインアップが実現するのかもしれない。
ちなみに、Mobile World Congressで開催されたファーウェイの記者会見では、Huawei DeviceのChiarman、Richard Yu氏が「日本のマーケットにもLTEバージョンの『Ascend D1』をお届けしたい」と述べている。端末の投入時期は「第3四半期から第4四半期」(Yu氏)とのこと。イー・アクセスがLTE対応スマートフォンを導入するタイミングと非常に近く、これまでの両者の関係を考えると、この機種が最初の1台に含まれている可能性もありそうだ。
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