連載
» 2012年04月09日 14時40分 UPDATE

小寺信良「ケータイの力学」:ケータイゲームに横たわる問題(2)

ケータイ向けソーシャルゲームでよく見られる「コンプガチャ」。簡単に、しかも当たりやすく見えるが、目的のカードをそろえるにはかなりの回数を行わなければならない。それには、相当な金額が必要になる。

[小寺信良,ITmedia]

 前回に引き続き、ケータイゲームの問題について考える2回目である。今回はゲームシステム、特にアバター用のアイテムをゲットするためのシステム、「コンプガチャ」について考えてみる。

 コンプガチャの「ガチャ」というのは、スーパーのゲームコーナーや100円ショップなどの入り口においてある、「ガチャガチャ」をイメージしてもらえるとわかりやすい。カプセルに入ったオモチャやカードがあって、100円入れてハンドルをガチャッと回すと出てくる、アレである。

 あれをケータイ上で実現したのが、通称「ガチャ」と言われるシステムだ。無料のガチャもあるが、携帯課金で支払うものもある。

 「コンプ」はコンプリートのことで、例えば6種類の決まったカードを全部集めると、強いアイテムがもらえる、あるいは目的が達成されるといった仕組みである。ガチャだけではどういうこともないが、特定のものを集めるとなると大変だ。引いた結果にハズレはないが、目的ではないものが出れば、それはハズレと同じ事である。

 1回ガチャを回して、6枚の当たりカードが出る確率は、経験者によればだいたい12%程度ではないかといわれている。出現率は今のところ非公開情報であるが、確率12%であれば、ギャンブルとしてそう悪い確率ではないように見える。ちなみにパチンコの大当たりの確率は、最低でも0.25%と規定されている。

 ただこれは、当たりが6枚もあることから、確率が6倍になっているのである。特定の1枚のカードに注目すれば、12÷6=2%しかない。

 これでは相当な回数やらないととても当たりそうにないが、コンプガチャの場合、最初は6枚のうちのどのカードが出ても当たりなので、最初の1枚目のあたりが出るまでは、確率は12%である。そこから1枚当たるごとに残りの当たり枚数が減り、確率は10%、8%……と減っていく。

 最初の1枚目のあたりが出るまで、何回ガチャをすればいいのか、その平均試行回数を計算してみると、1÷0.12≒8回である。以下確率はどんどん減っていって、1÷0.10=10回、1÷0.08=12.5回となる。これをグラフ化すると、以下のようになる。青いグラフが平均試行回数、赤いグラフは回数の累計だ。

phoro 確率12%で6枚コンプリートするまでの回数

 確率は変動していないが、当たりのカードが減っていく(すでに持っているカードが当たっても意味がない)ので、当たりの確率は結果として下がっていき、出現までの回数は増えていく。

 このグラフから読み取れるのは、3枚目ぐらいまではそれほど確率が下がったように見えないところである。これなら実際にゲームを行なっていても、当たり確率が下がったようには感じない。

 ところが半分そろったところから、急激に確率が変わっていく。特に最後の1枚は2%しかないので、50回引かないと当たらない。この最後の1枚がなかなか出ないというところから、ゲーム運営会社が確率を変動させているのではないかという疑いが持たれている。しかしこれは確率の錯誤である。

簡単に、しかも当たりやすく見える仕掛け

 今年2月頃のことだが、あるオタク系ポータルサイトの管理人さんが、モバゲーの「アイドルマスターシンデレラガールズ」、通称モバマスのコンプガチャで15万円突っ込んだという話があった。1回300円として、500回である。

 彼は500回もガチャを回すまで、これがなかなか当たらないものだと気づかなかったのだろうか。そうではない。ここには回数を感じさせない別の錯誤の仕組みがある。それが「セットガチャ」と呼ばれる仕掛けだ。

 セットガチャは、ガチャをいっぺんに10回まとめて引ける仕組みである。当然課金は10倍になるが、1回のボタンクリックで10回分が引けてしまう。手作業が10分の1に減るわけである。従って上記の500回ガチャは、実際にはボタン50クリック分にしかならない。

 ここで上のグラフに戻ってみよう。10回セットということは、赤いグラフ上の数字がトータルで回した回数なので、この手作業が10分の1に減る。すなわち最初の当たりが出るのは8回なので、セットガチャとしては1回である。

 2回目のセットガチャで2枚目が、3回目のセットガチャまででは、かなりの確率で3枚目が手に入っている。3クリックで当たりが3枚ということになれば、かなり当たりが出るように見えるだろう。さらにこの調子で、残りもあと3回ぐらいセットガチャを回せば出るものと錯覚してしまう。

 ところが結果はグラフの通りだ。最後の6枚目は、それだけのために5回もセットガチャを回してようやく手に入る計算だ。ただこれも、確率平均どおりにいったらという話なので、運が悪ければもっと回数をこなさなければならない。

 これが本物のガチャガチャだったら、1つ引くごとにカードなりフィギアなりの物理物が手に入る。全部そろえなくても、手に入ったものを並べたりして飾り、そこで我慢することもできる。だがゲームのコンプリートという仕組みは、全部そろえない限り、これまでやってきたことが無駄になる。単に「カードを持っているという事になっているデータ」がそこにあるだけで、途中の成果が何もない。だから途中で引き返す気持ちになれないのだ。

 さらにこれはギャンブルのように換金できるわけでもなく、単なるゲームでしかない。つまりユーザーはどうやっても金を払うだけなのである。もちろんアイテムを換金すれば別だ。

 だからRMTに走る者が出てくるのは、ある種当然の成り行きとも言える。自分が注ぎ込んでしまった不幸をあといくらかの金で解決したいという者と、不幸な人を見つけてさらに金を巻き上げる者が出会う。こんなサイクルになってしまったら、あとは地獄絵図である。表面的にRMTだけを禁止したところで、この不幸の連鎖が止まるわけではない。

 これは確率が理解できる子どもには、しっかり実例を使って教育すべき事象だし、確率が理解できない年齢の子どもには、触らせてはいけない世界だ。筆者は子どものネット利用には積極的な推進の立場だが、事業者がこのような錯誤を利用した仕組みで、月5000円ぐらいなら子どもから金を巻き上げてよいと考えているならば、子を持つ親としてNO!を突きつけるほかない。

小寺信良

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia +Dモバイルでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。


Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.