“トラフィック爆発”への対処を進める通信キャリアのネットワークの今本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/2 ページ)

» 2012年04月25日 12時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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重要なことは電波を隅から隅まで使うこと

 EV-DO Advancedは賢い。最高速は上がらなくとも、全員が幸せになれる。ということは、ひとまず置いておくとして、こうした既存の3Gネットワークを改良することは、スマートフォン時代、すなわちトラフィックの使われ方を携帯電話キャリア側で積極的にコントロールできない状況下ではとりわけ重要度を増してきている。順番に電波の利用効率を上げていくことで(つまりより進んだ技術に順次置き換えていくことで)、十分に対処できるようなのんきな状況ではないためである。

 利用者は「これは4G、これは3G、3.5G、3.9G」と紋切り調に、何が速そうで、何は遅そうと印象で語ることが多い。しかし、たとえ4Gであっても、またWi-Fiに接続された環境であっても、混雑していれば速度は遅くなる。自宅の無線LANとは異なり、同じパイプを流れる水を共有しているのだから、パイプがいくら太くなっても利用者が増え、あるいは一人当たりのデータ利用量が増えれば、状況は変わらない。

 しかも、データ利用量の増加ペースは、まったくコントロールできる状況にない。スマートフォンが高速化し、アプリケーションの種類も多様化している。スマートフォンユーザーの増加ペースも加速しているのだから、あとはデータ通信の完全定額利用をやめるくらいしか、このペースを緩めることはできない。

 そのため、当然ながら手持ちのカード(持っている周波数)は、すべて切って高速化を次々に進め、発売する端末の構成比を積極的にコントロールしている。使える帯域は隅から隅まで使い、その上で3Gから4Gまで、計画的に対応端末の導入を進めようというわけだ。

 KDDIの場合、新800MHz帯対応という、ネットワークの入れ替えを行うタイミングで、基地局の配置を見直すことで基地局密度を上げ、通話エリアを改善するとともにEV-DO Advancedを導入した。加えて都市部ではWiMAXを活用し、積極的にWiMAX搭載スマートフォンを展開することで3Gトラフィック増大を緩和させた。

 EV-DO Advancedと同時に発表された、街や商店街をまるごとWi-Fiスポット化する計画や、Wi-Fi自動検索設定時の省電力化、iPhone向けの自動Wi-Fi接続ユーティリティ、Wi-Fiエリアの周辺で、接続が不安定なことに対するユーティリティ側の対応(無通信が続くときに3Gへと自動的に切り替える機能)などを見ると、この分野ではKDDIが一番進んでいるように感じられる。

各キャリアの次世代への取り組み

 KDDIは、2012年12月にLTEサービスを開始予定だ。WiMAXやドコモの「Xi」とは異なり、地方を含む全国エリアでネットワークを整備し、1.5GHz帯でもLTEを主に都市部にオーバーレイすることで負荷分散を行う。現時点で電波はもちろん出していないが、基地局の設置は進めている。今後発売する端末で、採用する周波数の構成比を考えながら、トラフィックを分散させていくことになるが、WiMAXとLTEの同時サポートはなかなか難しいはず。となると、自動選択させるわけにはいかず、端末の売上げ構成比で振り分けていくしかない。

 このあたり、ドコモは比較的シンプルだ(“楽”という意味ではない)。高い完成度を持つ3G網をいち早く完成させた後、環境の変化に合わせて基地局の配置や調整を繰り返し、さらに対応する通信技術をアップグレードすることで、下り最大14Mbpsまで高速化させて来たのが現在のFOMA。そして都市部の混雑する地域を中心にLTEのXiを被せ、LTE対応端末を計画的に投入することでトラフィックの分散を図り、将来はLTE Advancedへとつなげていく計画だ。

 実際には、2GHz帯で割り当てられた帯域の中で、3GからLTEへの移行を計画的に進める必要があり、ここまでシンプルなわけではないが、より世代が進んだ通信規格で混雑しているエリアから周波数の利用効率を上げていくのが基本方針なので分かりやすいと思う。

 この舵取りが少々複雑なのはソフトバンクモバイルだろう。ご存じの通り、ソフトバンクは1.5GHz帯でHSPA+とDC-HSDPAを展開し、ウィルコムが取得していた2.5GHzを継承したWireless City Plannningが、AXGP(TD-LTE)を提供。後者は現時点で対応スマートフォンがないものの、前者は国内メーカーを中心に積極的に採用を進めることで、主力の2GHz帯(HSPA)の混雑緩和を目指している。

 しかし、ソフトバンクはiPhoneの販売比率が高い。iPhoneは日本独特の割り当て周波数である1.5GHz帯には未対応であり、Androidスマートフォンもグローバルモデルは1.5GHzへの対応は望めない。このため、ソフトバンクWi-Fiスポットのバックボーンに1.5GHz帯を用い、Wi-Fi経由で帯域分散をさせるという苦しいトラフィックマネジメントを行っている。

 先日、割り当てが決まった900MHzならば、iPhoneを含むグローバル機が対応できるものの、当面はHSPA+での運用が決まっている(ソフトバンクが利用できる900MHz帯の免許は2つに分かれており、LTEで利用する予定の帯域は2015年まで利用できない)。ソフトバンクとしては、ここを活用しながら、主力の2GHz帯の一部をLTEへと移行させることで電波の利用効率を高めていかねばならない。

 900MHz帯が今年7月から利用できることで一服するものの、BSデジタル放送再編の煽りで、周波数変換後の1.5GHz帯でアンテナ電波干渉が発生するトラブルに見舞われており(念のため書いておくと、これは総務省側の見誤りが原因でソフトバンクに非はない)、あるいはトラフィック分散の計画を阻害する可能性はある。


 さて、状況の大まかな振り返りをするだけで、ずいぶん多くの行数を使ってしまったが、このように各社とも割り当てられている帯域を最大限に利用して、3Gから4Gへの移行作業を進めつつ、データトラフィックのやりくりをしているのが現状だ。しかし、単純に割り当てられたすべての周波数帯域を重畳して使い分け、効率の良い技術の導入を早めていくだけで、昨今のトラフィックの増加ペースに追いつくとは思えない。

 さらに、もっと、賢く電波を使う方法を考えていかなければ難しいだろう。

もっともっと賢くなれる?

 EV-DO Advancedの話から、ずいぶん話が飛躍してしまったが、ここで言いたいのは、単に上手に周波数帯域を使い分けるだけでは、なかなかうまく行きそうにない、ということだ。EV-DO Advancedが、基地局選択のアルゴリズムを変更しただけで1.5倍の収容量、2倍のデータ通信速度を得たということは、データ通信だけで言えば割り当て帯域が2倍になったのと同じ、ということ。実際に2倍の周波数帯を割り当ててもらえることないのだから、この差は大きい。

 周波数が有限の資源であること自明であり、さらに新しい技術への移行も計画的に行わねばならない(3Gのアップグレードと4Gの打ち直しは意味が違うし、同じ帯域での移行は端末の普及ペースと合わせねばならない)。ネットワークの導入計画を、オンデマンドで急に変更することなど無理なのだから。

 となれば、いかにより賢くネットワークを使うかの創意工夫が、トラフィック緩和の鍵となる。

 例えば、EV-DO Advancedの考え方を進めれば、端末の移動や接続端末数の変化に応じて、積極的にハンドオーバー(基地局の切り替え)をさせる手法も考えられる。EV-DO Advancedは、接続する基地局の選定を賢くやるだけで、一度接続したら、切れるまで接続しを維持する点は従来どおりだからだ。移動体ならば移動先、移動していなくとも混雑状況の変化に応じて別の近い基地局へと振り分ければ、さらに効率は上がるだろう。

 KDDIによると、強制ハンドオーバーさせねばならぬケースは(シミュレーション上は)さほど多くなく、移動体に関しては道路や鉄道の状況に応じて基地局の配置などを工夫することでカバーできるという。ただし、韓国では端末の位置を検出することで、接続基地局の最適化を図る運用も実験的に開始しているとのこと。

 データ通信容量の増加で基地局密度が上がっているということは、混雑する地区で、複数の基地局を選べる状況があるわけだ。それをどう使い分けるか、どこまで賢くなれるかもまた、”電波の利用効率”を高める手法だろう。もちろん、それはWi-Fi活用にも言えることだ。

 ゆっくりとしか進めることができない対策と、短期間で行える施策。今求められているのは、最高通信速度のスペックではなく、トラフィックをいかに上手にやりくりするかの“賢さ”だろう。エリア境界での不安定な振る舞いが嫌われている、Wi-Fiスポットへの自動オフロードだが、これもWi-Fiの応答が遅い場合は3G/4Gへと自動切り替えするなどの最適化をすれば、体感的には問題を解決できるだろう。

 通信キャリア各社が、どんなアイデアで“賢く”トラフィックをやりくりするのか。順次取材を進めながら、トラフィックの裁き方について聞いていきたい。

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