第5部 「役員とケンカしてクビになってもいい」――暗闇の荒野を切り開いた開発陣の“覚悟”NTTドコモに聞く「L-06D JOJO」(3/3 ページ)

» 2012年09月12日 17時15分 公開
[田中聡ITmedia]
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荒木先生の要望は「スタイリッシュに」「分かりやすく」

photo 許潤玉氏

―― 一番苦労したのは、やはり……。

許氏 コンテンツですね。絞り込むのがまず大変でした。荒木先生に毎週(案を)持っていって監修いただくんですけど、個人的に大変だと思ったのは、荒木先生の監修のほかに、社内で鹿島・岡野の監修もあったことです(笑)。正直私の方で決めてしまいたいこともあったのですが、後から言われると直せないので、けっこう揉めるんですよ(苦笑)。案をもらってすごい楽だった反面、2人からのコメントバックが多すぎて、それも大変でしたね。

―― 社内と荒木先生のコメントをどこで折り合いを付けるかの苦労もあったんですか?

3人 それはないですね。

鹿島氏 荒木先生が常に最優先されるので。

岡野氏 荒木先生は、具体的にこの機能をこうしようというアイデアを出されるわけではないので、荒木先生に提出するまで、いかに面白いアイデアをたくさん出せるかが勝負なんです。コラボ商品で失敗しているものは、だいたいアイデアがないもの。何となくつまらないアイデアのままで終わってしまっているものが多い。荒木先生からは半分以上はNGが出たんですけど、たくさん出した方が、荒木先生のお考えはいただきやすいと思いました。数を出すのは相当こだわりました。

―― 荒木先生はどういうイメージでコンテンツを監修されたのでしょうか。

岡野氏 どちらかというと、作品の世界観や、荒木先生が思い描いているものと差分がないように判断されているものが多いと思います。

鹿島氏 あとは“スタイリッシュさ”でしょうか。ジョジョは戦闘シーンが多いですけど、ジョジョスマホではそういったコンテンツはほとんどありません。

岡野氏 荒木先生のコメントバックで「スタイリッシュ」という言葉はもう何百回聞いたか分からないですね。ファッション、デザイン、カルチャーにすごくこだわってらっしゃるなと。

鹿島氏 (裏面に描かれた)徐倫を見ても、原作を知らない人にはどう映るか。どこかのファッションブランドのキャラクター? という印象ですし。

―― 確かに、ジョジョの1、2部では戦闘シーンを前面に打ち出していた感がありますが、4部以降からファッショナブルな要素も増えていきましたよね。

鹿島氏 やっぱり「今」なんですよね。荒木先生が今考えている方向感に合わせているんじゃないかなと。

許氏 「分かりやすさ」という観点でのコメントバックも多かったですね。

―― 分かりやすさというと?

許氏 例えばバッテリーのウィジェットも、最初は%を表記するのみでしたが、バッテリーが減ってきたらイラストの黄色い部分も上から順に減らしてほしいと言われたので、グラデーションで表現しています。あとはイラストからパッと見で残量が分かるようにもしています。きせかえテーマの組み合わせで、アプリのアイコンを見やすくすることにもこだわりました。

―― 出来上がった製品に対する荒木先生の反応は?

岡野氏 (鹿島氏に向かって)喜んでもらえたよね。

―― 鹿島さんがいるいないでだいぶ変わりました?

岡野氏 違いますね。まず楽でしたね。

鹿島氏 正直ですね(笑)。

岡野氏 僕らがやらないといけない作業の8割くらいはやってくれたので。こちらは集英社さんとのやり取りや社内の調整に専念して動けました。細かいアイデアを作ってくれるのはものすごい助かりましたね。だから許は給料の半分くらいを鹿島にあげないといけない(笑)。

許氏 いやいや、(荒木先生の)監修でけっこうね〜(笑)

―― お互い言いたいことがあるようですね(笑)。

鹿島氏 ボランティアですからね、本当に

岡野氏 「ジョジョスマホを作れる」というモチベーションだけで動いてるんです。ハッキリ言って。

「役員とケンカしてクビになってもいい」という人が次も現れるか

photo 岡野令氏

―― 気が早いですが、第2弾はあるんでしょうか。

岡野氏 皆さんにご要望をいただければ……。

―― ヱヴァスマホも続いているので、これも……

岡野氏 まあ分からないですけどね。タイミングと人が重要。今回はこのメンバーで、このタイミングだからできました。第2弾をやるとして、それをやる力がある人と、通せる力がある人がいるかが大きいと思っています。

―― ドコモでジョジョスマホを担当したのは、岡野さんたちだけですか?

岡野氏 ほぼ3人です。もちろん手伝ってくれた人たちもいますけどね。僕らは「覚悟して来てる人」たちということです(※第5部でジョルノを始末しに来たブチャラディに対してジョルノが言った「あなた……『覚悟して来てる人』……ですよね? 人を『始末』しようとするって事は逆に『始末』されるかもしれないという危険を常に『覚悟して来ている人』ってわけですよね……」というセリフから)。ジョジョスマホを作れるなら、役員とケンカしてクビになってもいい――という奴が関わっているので。次もそういうことができるかどうかじゃないですかね。

―― 最後に、読者にメッセージをお願いします。

鹿島氏 ジョジョスマホを買うときには一般の方と変わらないので、今のドキドキ感は本当かそれ以上ですね。それだけのことを言えるほど、自分で欲しい物を作ってきたつもりです。自分の愛せる物を生むことがちゃんとできた。それがすごく重要かと思います。

―― 鹿島さんの愛が詰まったものに仕上がったと。

鹿島氏 僕1人だけではありません。最終的に荒木先生が監修していただいたので、皆さんが納得できるものが詰まっています。そこを意識して各コンテンツを見ていただければとい思います。

岡野氏 我が心と行動に一点の曇りなし……!(※第7部の敵キャラ、ヴァレンタインの言葉。ジョニィに追い詰められたときに、決して報復をしないので技を解いてくれとお願いしたときに)。

許氏 最後の最後まで、細かいところまで作り込みをしているので、皆さんの満足いただけるものになればいいと思います。


 「覚悟」とは!! 暗闇の荒野に!! 進むべき道を切り開くことだッ!――これは第5部の主人公、ジョルノ・ジョバァーナが作中で残した名言だ。このジョジョスマホも企画段階では何も決定していない「暗闇の荒野」だったが、岡野氏らが役員を説得して開発にこぎ着け、「進むべき道を切り開くこと」に成功した。そして「スタンド使い同士は引かれ合う」かのごとく鹿島氏が仲間に加わり、ジョジョスマホの肉付けがなされていった。

 そんな経緯はつゆ知らず、筆者がジョジョスマホを初めて見たときは「デザインは意外とシンプルだなぁ」というのが正直な印象だった。だが、実際に購入して使い続けていくうちに、そのこだわりと、考え抜かれたコンテンツにいつの間にかズキュゥゥゥゥンと心を奪われてしまった。それぞれのコンテンツが開発者の単なる自己満足ではなく、「ユーザーが愛せるか」「実用的か」「楽しいか」を念頭に置いて作られていることが分かる。ジョジョの作中に登場する「スタンド使い」の多くは、一見するとただの一般人だが、実はとてつもない能力を秘めている。ジョジョスマホも一見すると画面の大きなスマホだが、そこからは計り知れないほどの能力(コンテンツ)を持っているわけだ。そんな魂のこもったモデルを作り上げた開発者の覚悟に敬意を表するとともに、しばらくはジョジョスマホの“スタンド攻撃”にやられていたいと思う。

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