スマホとLTE戦略でシナジー創出――孫社長がSprint買収の狙いを説明世界3位の通信事業者へ(2/2 ページ)

» 2012年10月16日 03時12分 公開
[田中聡,ITmedia]
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投資の成功と借金返済には「自信があります」

 ソフトバンクのSprint買収には2つの疑問がある――と孫氏は自ら問いかける。1つが「この投資は成功するのか?」という根本的なもの。孫氏は「自信があります」と答える。まず、Sprintの業績がすでに回復中であることに加え、ソフトバンクの「資金」と「戦略」が大きく貢献するという。

 資金とは6240億円の増資分のこと。「1.5兆円の約4割は、Sprintの増資に使われる。これは真水の現金を増資するということ。使い道はネットワークの強化、戦略的投資の提供、財務体質の強化。戦をするには軍資金がいる。鉄砲や弾薬を買うのと同じように、軍資金を投入する」と孫氏は話す。

 戦略とはソフトバンクのグループシナジーのこと。具体的にはスマートフォン戦略、LTE戦略、V字回復のノウハウだ。スマートフォン戦略はiPhone戦略と言い換えてもよさそうだが「ソフトバンクはドコモやKDDIに対して、いち早くより多くのスマートフォンの顧客獲得をしてきた。純増数は5年連続でナンバー1だ」と孫氏は胸を張る。LTE戦略については、TD-LTEと100%互換のAXGPネットワークを用いた「SoftBank 4G」を「世界で最も通信の速いネットワーク」と孫氏はアピールする。V字回復は、日本テレコムとボーダフォンを買収、ウィルコムをソフトバンク傘下にした後に営業利益がいずれも回復した事例を紹介。「(日本テレコム、ボーダフォン、ウィルコムの)3社は赤字3兄弟だが、ソフトバンクの傘下に入った瞬間にV字回復した。3度あることは4度ある。3回やるとこれはノウハウだ」と孫氏は話す。

photophoto ソフトバンクは3社を傘下にしてから、いずれも業績の回復に成功した(写真=左)。今回はすでにSprintが自力で業績を回復していることも好材料となる(写真=右)

 「ソフトバンクとSprintを合わせたスマホの販売台数は世界で有数。世界でもハイエンドなAndroidスマホも手に入ることになる。ネットワークについては同じEricsson製の機器を使っているので、購入ボリュームは世界でトップレベル。すでにSprintがV字回復し始めているので、この成長をお互いに助け合って、両社のシナジー効果を発揮したい」(孫氏)

photo 端末、ネットワーク、V字回復においてシナジー効果を創出していく

 2つ目の疑問は「借入金の返済は可能なのか」という点。これにも「自信があります」と孫氏。ボーダフォン買収時に約1.3兆円あった借金は、当初2018年度返却の予定だったが、2011年に完済した実績を紹介。また、連結EBITDA(減価償却前の営業利益)に対する純有利子負債は、ボーダフォン買収時には5.6倍だったが、ソフトバンクとSprintでは2.7倍に減っている。これは国内の大手企業と比べても少なく、「健全な水準」であることを孫氏は強調する。

 ソフトバンク、イー・アクセス、ウィルコムを含む連結売上高(2011年度)は3.6兆円でKDDIと拮抗しているが、これにSprintの売上高を含めると、一気に6.3兆円に跳ね上がる。孫氏は「KDDIとソフトバンクのどちらが2位か3位かは誤差の範囲だった」とし、2012年1〜6月のソフトバンクとSprintの売上高が2.5兆円で世界3位となることを受けて、「2位か3位は日本じゃなくて世界のことだった」と話した。累計契約数は、国内ではソフトバンク、イー・アクセス、ウィルコム合わせて3950万だが、これにSprintを含めると9600万に上る。孫氏は日米最大級の顧客基盤だとアピールする。「男子たるもの一番を目指したい。ギリギリ2位になったかどうかは小さい」(孫氏)

photophoto ボーダフォン買収時の借金は、当初の予定よりも早く返済できた(写真=左)。連結EBITDAに対する純有利子負債はボーダフォン買収時よりも低い(写真=右)
photophoto 「2.7倍」は他の携帯事業者や日本の大手企業と比べても「健全な水準」とする

 なお、ソフトバンクは米国携帯事業者第5位のMetroPCS Wirelessの買収も検討しているほか、Sprintを通じて米Clear Wireへの出資比率引き上げも検討している――との報道も見られたが、これらの点について孫氏は「先のことはまったく分からないし、コメントすることではない」とコメントした。

買収には何兆円もの価値がある

 ソフトバンクとSprintのシナジー効果を発揮する……ということだが、日本のユーザーにとって具体的にどんなメリットがあるのだろうか。「世界でも最先端のスマホ、ネットワーク、競争力を持つことで、より優れたサービスを日米のお客様に提供できる。人々の新しいライフスタイルを提供したい」と孫氏は話す。身近なところでは、Sprintが現在扱っているがソフトバンクは扱っていない、Samsung電子やHTCのLTEスマートフォンが、今後ソフトバンクに提供される可能性もある(3GはソフトバンクがW-CDMA、SprintがCDMA2000で通信方式が異なるので、端末調達のメリットはLTEスマホで生まれることになりそう)。「世界でも最大規模に近いネットワーク機器の購入量を得られる。ネットワーク機器メーカーに対する調達力がさらに増え、しかも安い価格や条件で手に入りやすくなる」と孫氏が話すとおり、インフラ面でのメリットも大きい。一方で、日本のiPhone販売で培ったノウハウや、LTEネットワークの技術も米国に注入していくとのこと。

 イー・アクセスの買収は「iPhone 5で1.7GHz帯の周波数を使う」というシンプルな目的があったが、Sprint買収の効果は一言ではなかなか言い表せない。「日米をまたがる形のシナジーは、すぐにネットワーク機器代が浮く、スマホの金額が浮くというレベルのものではないが、日米を足して世界規模の売上になる。Sprint社の買収は、最先端のスマホ、ネットワーク機器、コンテンツの統合、サービスの他流試合をするということ。かわいい子には旅をさせよと言うが、ソフトバンクがアメリカで他流試合をすることで、サッカーや野球のように、技のキレや体力といった本質的なものが強くなることは間違いない。金額で表せば何兆円もの価値があると私は思っている」と孫氏は力説した。

photophoto 発表内容のまとめ(写真=左)。孫氏とヘッセ氏(写真=右)
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