確かに黒住氏が言うように、製品としての改善は感じられる。また、まだ積み残していることに関しても、黒住氏は改善を約束した。
例えば表示に使われる文字。欧文フォントには、一部、ソニー独自にデザインされたフォントが使われているが、日本語フォントに関してはまだだ。Xperia Zのように400ppiを超える解像度を持つディスプレイを持つ製品であれば、ならなおさらこだわらなくてはならない。シャープのように高品位のフォントを切り替えて使いたい。
こういった話をすると、「もともとXperiaには、ソニーが開発したオリジナルフォントが組み込まれており、グローバルモデルにはインストールされています。時刻表示などに使っているフォントがそれですね。しかし、日本モデルにはまだ入っていません。ソニー内部の資産として、優れたデザインのフォントは保有しているので、それを可能な限り活用していきます」と黒住氏。このように、すでに改善の準備を進めているものもある。
ただ、筆者個人としては、ここまで努力してブランド価値を積み上げていっても、3年後にはハードウェアでの差異化は不可能になっているのではないか、という疑問もある。もちろん、通信機器としての性能やソフトウェアの品質を保つには、それ相応の投資と努力、時間が必要だ。簡単に積み木を組み合わせるだけで製品ができるわけではないが、構造的に簡素なスマートフォンが、果たしてソニーのようにハードウェアの質で勝負する企業にとって、いつまで高収益な事業であり続けるかは不透明だと思うからだ。
黒住氏は同様の議論が社内にあることを認める。
「例えば中国のOPPO(同一ブランドで米兄弟会社からBlu-rayプレーヤーなども発売されている)などは、たった3人で始めた小さなベンチャー企業ですが、彼らがデザインするハードウェアは素晴らしいものです。確かに現状では品質面で不安もあるかもしれませんが、純粋に消費者として素晴らしい商品だと思います。
ああいった製品が小さな会社から出てきていることを考えると、たった1人の優れたデザイナーが、大企業が作るスマートフォンを越えられるという時代になるかもしれない。そう感じさせるところまでは来ています。しかし、だからこそ今から継続して、ほかにはできない商品を作る方法について模索し、差異化できる要素を積み重ねていくべきだと考えています」(黒住氏)
むしろ黒住氏は「総合メーカーであるソニーの方が、この先の細かな差異化の積み重ねをやりやすい環境にある」と主張する。
例えばAppleは、スマートフォン、タブレットで色々な製品分野を駆逐してきたが、さらに一歩踏み出して、別領域にも自分たちのエコシステムを接続しようと思うと、未踏の地に踏み込まなければならなくなる。
「Appleがテレビ市場に入りたくても、なかなか入れないのは、その領域のビジネスを知らないから。彼らだって知らない分野の商品を立ち上げるのは楽じゃない」(黒住氏)
スマートフォンやタブレットが、ほかの商品分野を呑み込んでいく中、その呑み込む商品分野で強い存在感を放ってきたソニーという総合メーカーだからこそ、スマートフォンの質をより高める技術やノウハウが内在するというわけだ。
インタビューの時間が終わりに近付いてきたところで、黒住氏には最後の質問として「それだけソニー内部の技術とノウハウを注ぎ込んだ、総合力を生かしたスマートフォンにXperiaがなっていくのなら、1モデルでより幅広い層をカバーできるのではないか。モデル構成はもっとシンプルに、例えばハイスペックモデルとコンパクトモデルの2モデル。投入地域の経済状況に応じて、仕上げと質感重視の高級版と低コスト版の2ラインとした2モデル構成でもいいのでは?」と尋ねてみた。
それに対する黒住氏の回答はこうだった。
「同様の議論はあります。個人的にはXperiaはプレミアムブランドとして、価格の上下で差異化するのではなく、製品コンセプトの違いで複数ラインを作りたいと思うところはあります。実は似たような取り組みはすでに行っており、2012年は上位モデルから順に『Xperia S』『Xperia P』『Xperia U』というグローバルモデル三兄弟を作りました。それぞれは同じデザインテイスト、同じ商品訴求点ながら、画面サイズを4.3インチ、4インチ、3.7インチと3種類作り分けたのです。結果は良好で、Xperiaシリーズとして訴えるべきポイントが明確になり、またデザインの共通化による相乗効果も見られました。
今年はさらに一歩進んで、Xperia Zのイメージを崩さずに、Zに近い雰囲気を演出、堪能できる製品を計画しています。良い製品を作れたという自負はありあますので、今後はXperiaのテイストをより幅広いユーザーに楽しんでもらえるようにしたいですね」(黒住氏)
そして最後にこう話してくれた。「すべてはユーザーが何をどう体験するかによって、その価値が決まってきます。そうした意味では、それまで経験したことがない新しいサービス、機能に対して、いかに簡単に到達できるかが鍵だと考えています。つながる瞬間の感動を、ユーザー体験としていかに演出し、商品の中に織り込んでいくのか。Appleの端末には、使っていく中にそうした歓びが隠されています。ところが、そこを突き詰めるとどうしても閉じた世界(自社製品だけの世界)に入って行かざるを得ない。ソニーの場合、多数の製品分野にまたがって商品を展開していますから、よりバラエティに富んだ体験を演出できると思います。今後に期待してください」(黒住氏)
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