キャンペーンからインフラ整備まで――NTTドコモ関西支社に聞く、春商戦期戦略携帯電話事業者の熾烈なシェア争いと局地戦(後編)(1/3 ページ)

» 2013年03月15日 18時20分 公開
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 TCA発表の2012年携帯電話契約数から、NTTドコモが関西エリアで苦戦していることを確認できたが、携帯電話における最大の商戦期となる春の陣に、NTTドコモはどのような施策を持って挑むのか。NTTドコモ関西支社を取材した。

 シェア低下という現実がある一方で、NTTドコモ関西支社は積極的に新しい取り組みを行うという印象が強い。最近の例としては、1月17日まで半年以上も継続された全国施策の「家族セット割」は、当初、関西エリア限定の「家族でいっしょキャッシュバック」にその源流があり、テストマーケティング的な側面もあったと思われるが先進的だ。そのほかのエリア施策を見ても、Web上でリアル店舗への来店予約が可能な「ドコモショップ順番予約サービス」も、現時点では関西限定の施策だ。

 何も策がないということは、販売網(代理店)の前線が厳しい戦いを強いられることになるので、何らかのエリア施策を講ずるだろうと推察して、大きく5つのテーマについて質問し、それぞれに回答を得ることができた。

 取材は2月14日に実施し、常務執行役員関西支社長・徳広常務への取材を申し入れたが残念ながらスケジュールの都合が合わず、関西エリアの販売施策を担当する関西支社営業部の営業戦略担当課長、および広報室の広報担当課長・広報担当主査に話を聞けた。

photo ドコモ関西支社

1.具体的なエリア施策は考えているのか?

 冒頭、ストレートな質問からスタートした。

 春商戦期に向けて、KDDIに苦戦している要因の1つと想定される「スマートバリュー」加入者増も、いずれは勢いがなくなると踏んでいる。あるいは、法人系・モジュール系などを含め収益が良好ということで、シェアはこれ以上は落ちないだろというレベルまで、ある程度落ちても構わないと考えているのではないか? 全国施策以外は考えていないのでは? と、やや意地悪な疑問を投げかけてみた。

 まず、「シェアがもっと落ちても良いとは考えてはいないし、そのような議論はない」ときっぱり。

 「春商戦期に向けてどのように考えているかといえば、まず市場性として、関西エリアは全国と比べても流動性が激しく、競争環境が厳しいという特性がある。転出される件数も多い」「コストにシビアで新しいもの好きということでiPhoneによる影響が大きく、スマートバリューによる影響もかなり大きいため苦戦している」「以前よりKDDIが強いエリアで、特に京都は京セラの影響があり、ソフトバンクよりもKDDIと戦っている」という。

 ソフトバンク間の無料通話による影響はあまりないのか? と確認すると、「あまり影響はない。iPhoneの普及から友達間の無料通話に惹かれてだんだん浸透したという経緯はあったが、直近で影響が大きいのはむしろスマートバリューだ」「ソフトバンクが強かったのは3年前」と、関西エリアはKDDIとの一騎打ち状態であることを明らかにした。

 さらに「関西は2府4県の人口密集度が関東甲信越よりも高く、学生が多いために流動が激しくなる」という。それゆえに「まずは全国施策の応援学割と学生家族いっしょ割を主軸に考えてプロモーションに徹底的に力を注いでいく」「関西で独自の割引施策ではなく全国施策をしっかりと伝えていく」とのことであった。確かに、学生比率が高いということは、全国施策が一番有効なエリアが関西ということになる。

 全国における関西の学生比率の高さについては、統計値を確認させてもらったが、可住地(山林などを除いた)面積あたりの学生数は、中央管轄(関東・甲信越)の1.5倍という極端に多い数字であった。

 取材後にあらためて、文部科学統計要覧政府統計(社会生活統計指標−都道府県の指標−2013基礎データ)で確認した。年度や学生の範囲をどこまで含めるかによって数値は大きく変化するため、取材時に確認した数値とは異なるが、関東甲信越の1都9県対比で、行政面積(可住地以外を含む)あたりで135%、可住地面積あたりで136%と全国で最も高いことを確認できた。

 販売の現場で、この学生比率の高さを掌握していないと、応援学割と学生家族いっしょ割のコンシューマーに向けた宣伝だけではターゲット顧客の獲得が進まないであろうことが懸念だが、これらの背景も含めキャリアと販売網が一体となって取り組めば、苦戦している状況が緩和されることも十分に考えられる。

 さらに、エリア施策が「まったくないわけではない」という。

 「初期型の古いスマートフォンを使用している方に対して、One to Oneに近い形で、最新のスマートフォンをお値打ちにお買お求めいただくような施策はやろうとしています」とのことで、関西エリアの一部ユーザにとっては朗報だ。

 すでに同様の施策として5000円・1万円のクーポンが送られているとの噂は聞いていたが、具体的にどのようなターゲットで実施されているのかは、明らかではなかった。現状を確認すると、この旧機種ユーザの引き止め施策は、全国展開ではなく、支社単位でトライアル的にスタートしており、取材時点では関東と関西で少しやり方を変えて実施することになっているとのことだ。すでに関東はスタートしているが、関西は2月末までにスタートするとのことで、対象のユーザを独自に絞込み、クーポンを郵送された人のみが恩恵を受けることになる。条件の詳細は検討中だが、基本的には古いスマートフォン、主に「Xperia SO-01B」世代の機種を所有している人が対象で、初期の「GALAXY S SC-02B」なども同世代に含まれるようだ。更新時期を迎えるユーザも絞り込みの要素になる可能性はあるが、そこは全国施策でカバーしていくことになりそうだ。

 また、今年の応援学割2013では、応援学割2010・応援学割2011の加入者にはXiでの契約が前提の更新施策も用意されており、関西エリアの対象者には「One to Oneでプッシュしていく」と、学生の流出抑制と総販売数増加への積極的な展開を行う姿勢がうかがえる。

 「全国のドコモ管轄における関西の比率は15.4%だが、応援学割2013加入者(今年1月18日のスタート以降のみ)だけを対象とすると約17%程度」と、ドコモユーザにおいても非常に高い学生比率で、具体的な加入状況も背景に展開するようだ。

 応援学割の対象者として、3歳以上という未就学児も含まれていることをアピールしていないが、どのように考えているのかについて質問をしたところ、「もともとは学生をターゲットとした割引でやってきたが、小学生未満のキッズ割と小学生に上がったお子さんを同じ春の施策として分ける意味がない」ので、小学生未満まで拡大しただけとのことであった。

 もう少し未就学児についてPRしたほうが良いのでは? との質問に対しては、「就学もされていないお子さんに、あまりガツガツとはいけない」「フィルタリングなどのコントロールも含めて考える」とドコモらしい考え方であることを確認した。

 「応援学割」という施策のネーミングからは、未就学の3歳以上でも、あるいは小学生も対象になるというイメージを持てないユーザも多いはずだが、実際のところ、3歳未満の子どもでもAndroidタブレットやスマートフォンで、動画閲覧やキッズ向けアプリなどで大人よりも軽快に操作・使用していることを見聞きすることが多い。応援学割が3歳以上の子どもがいる家族と対象者が広いこと、活用できることがシッカリ伝われば、既存ユーザからの回線追加や総販売数の増加が期待できる。それだけに、キャリアがPRできないところをいかに販売の現場で伝えていくかが、施策活用の分かれ目になるかもしれない。

 モジュール系・法人系については、「東京と大阪に集中しているが、それはあくまでも企業が多いという市場性」「主にテレメト系(テレメトリング=通信モジュールでのメーター値の読み出し・遠隔監視・制御)および運行管理系でモジュールが使われている」とのことだ。

 余談だが、現在はFOMAだけではなくXiのモジュールも提供している。movaからFOMAへのマイグレーションを終えたが、今後はFOMAモジュールからXiモジュールへのマイグレーションも進めなければいけない。ライフサイクルの長い組み込みモジュールでの利用は、安定した回線契約である一方で、長期にわたって提供し続ける必要があり、Xiエリアが拡大してもFOMAを簡単に止めたり帯域を減らしたりはできない。それゆえに、現FOMA以外のバンドで、Xiをシッカリと速やかに展開していくことが「高速・低遅延」を維持向上してユーザ満足度の高いドコモ品質を提供できる条件になるだろう。

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