一方、Appleが当初から注力していたカーナビゲーション機能「ターン・バイ・ターン・ナビ」では、めざましい改善と進歩が見られた。
このターン・バイ・ターン・ナビについては、筆者は以前から「素地のよさ」を感じていた。シンプルな目的地設定のUIから始まり、iPhoneの画面サイズでも無理なく必要な情報を表示し、交差点など案内地点を自動アニメーションで見やすくするデザインなどはとても秀逸なところだった。GPS信号の捕捉の速さやマップマッチング精度の高さなど基本性能も優れており、“カーナビ”としての潜在力はかなり高いと感じていた。
しかし、その一方で、日本向けに投入するには、当初のターン・バイ・ターン・ナビの地域最適化がお粗末だったのも事実である。ナビゲーションの方法が道路名を案内していく“米国方式”であったことに始まり、交差点情報や一方通行以外の道路規制情報が入っていないなど問題が多々あった。さらに致命的だったのが「環七通り」を「わななどおり」と読み上げるなど、音声ガイダンスがでたらめな日本語だったことだ。ターン・バイ・ターン・ナビの“器”の部分は秀逸なのに、ナビゲーションの“中身”の品質と地域最適化が伴わず、残念なものになっていたのである。
しかし今回、iOS 6.1.3のマップになって、これらの問題が一気に払拭された。
ルート演算アルゴリズムが改善されてルートはより的確になり、ナビゲーションの案内は交差点をもとにした“日本式”に改められた。あのでたらめだった音声ガイダンスの日本語も改善。誤った名称で読み上げをするといった問題も解消された。
となると、ターン・バイ・ターン・ナビの素地のよさが生きてくる。GPSのみでも高精度な位置測位を行い、iPhoneの画面サイズに最適化された地図とナビゲーション画面はとても見やすい。特に右左折する交差点が近づくと、自動的に地図が拡大しながら角度が変わり見やすくなるといったUIデザインは見た目がいいだけでなく、とても実用的なものだ。こういった美点が引き立ってくるのである。
むろん、いまだ不満なところもある。
Appleのターン・バイ・ターン・ナビでは、今のところリアルタイム渋滞情報にまったく対応していない。米国では既存の渋滞情報サービスに加えて、独自のプローブ渋滞情報サービスまで立ち上げているのだが、日本ではオンデマンドVICSにも対応していないのである。このあたりはナビタイムジャパンの「カーナビタイム for Smartphone」やNTTドコモの「ドコモ ドライブネット」など有料のスマートフォン向けカーナビサービスと比較して、大きく見劣りするところだ。また、日本語の音声ガイダンスについても、漢字の読み方を間違えるといった致命的な問題は解消されたものの、日本語の発音がまだ不自然なところが見受けられた。運転中のルート案内では音声案内が聞き取りやすいかが重要になるため、ここもさらなる改善に期待したいところである。
今回はやや厳しい評価になったが、Appleのマップが短期間で改善されたのは確かだ。無料の「地図+カーナビサービス」として見れば、十分に合格点に達したといえるだろう。とりわけターン・バイ・ターン・ナビの機能は、UIデザインのよさもあって実用性・満足感の高いものだった。リアルタイム渋滞情報がないことを除けば、“無料のカーナビ”として十分に実用に足るだろう。
Appleにとってアキレス腱だった「マップ」だが、ようやく汚名返上はできそうだ。しかし、これはまだスタートライン。Google Mapsなど先行サービスを超えるために、さらなる改善が進むことに期待したい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.