孫社長が「UQへの2.5GHz割り当て」に猛抗議――「泣き寝入りはしない。行政訴訟で断固戦う」石川温のスマホ業界新聞(4/4 ページ)

» 2013年08月02日 18時16分 公開
[石川温]
「石川温のスマホ業界新聞」
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―― 次もこんな調子でやられたら、たまらんですか。

宮川CTO 次はこんなのないですよ。次は公開じゃないと。総務官僚は絶対にオークションやりたがってないので、オークションにはならないです。

 僕もここまで揉めればオークション派ですよ。だけど、残念ながら、総務省の官僚はやりたがらない。だって、電波を割り当てるときが、彼らが一番、力を発揮できるとき。事業者がいうことを聞いてくれるのはここしかない。

 我々が取りに来るときは、奴隷と王様みたいな関係。そういうもんですから。

 そこには『あうん』の呼吸があるわけですよ。

 それは社長には全部言っていないので、わかってはいないが、我々は現場をやっているので、(総務省からの)『お前、わかっているよな』ということはいっぱいある。

 今回も、僕がこんなに牙をむいてしまったので、電波行政の担当者には会えないですよ。そういうもんですから。担当者は僕じゃない人間に変えます。

 いまはこれを言い続けるしかない。これは自分は無傷ではないとわかっている。

―― 今日はこれを申し入れにきたという感じですか。

宮川CTO そうです。それも、前田会長に間髪入れず渡せましたよ。

―― 17時過ぎに受け取れないという話ではなかったか。

宮川CTO 情報資料開示請求の件です。役所の窓口に出すものが17時までなので。今日はできなかった。

―― 孫さんも直接来ないと気が済まなかったのか。

宮川CTO 僕一人で来るはずだったが、急遽来ると言うことになったので、僕はおサイフも何も持たずにきちゃった。おサイフがないので、今から帰れないです。

―― 主張としては孫さんのものなのがメインなのか、宮川さんの主張で行くのか。

宮川CTO 両方です。どちらも、請求します。行政のあり方に対する行政訴訟と、不服審判申立書で、点数の付け方がおかしくありませんかというのをやります。

―― つまるところ、点数の付け方をちゃんとやってくれよということなのか。

宮川CTO そうそう、僕はね。孫さんはそんなこと言ったって、主観でやるのは許さんと言っている。そこはずれているが、僕は第3者で、外国人の専門家を呼んでくるとか、お互いにヒヤリング会で、プレゼンをすれば、負ける気はしないので、これで負けたらあきらめます。今回ばかりは自信があったので、引き下がるわけにはいかん。

―― 開設計画書の原文が見たいです。

宮川CTO 僕はお見せしてもいいですけど、裁判やると思うので、いまはお見せしない方がいいと思います。

―― 先ほど、このような交渉を宮川さんが止めるとおっしゃっていましたが、役職などは変わったりするのですか。

宮川CTO わからない。もともと、僕は渉外担当じゃないから。たまたま、社長が言いやすい立場にいたから。一応、総務省の最後の電波を取るところの窓口責任者であったので。

 さすがにポカしたので、世代交代になると思う。それはそれで、この2.5GHzが終わるところまでやろうと思います。

―― やっぱり、ソフトバンクは総務省に嫌われているんですかね。

宮川CTO むちゃくちゃ嫌われていますよ。どうでしょうね、半分以上は敵でしょうね。最近、ちょこっと話聞いてくれる人はいるようになってきた。上に行けば行くほど敵ばっかり。

―― イーアクセス買収の件も影響しているんですかね。

宮川CTO いや、イーアクセス買収の件はあまり響いていない。むしろ、電波をめぐっての訴訟、過去の積み重ねが、(わだかまりを)取れないところまで来ている。

―― ウィルコムを助けてもダメですか。

宮川CTO ウィルコムについて、彼らは全然、ありがとうとも思っていない。それをやるのは当たり前だという話。僕らはウィルコムを助けたと言ってるが、ラッキーショットだった。すごい利益も出ているし。WCPはウィルコムとセットで、分離したのは我々がやったわけではない。

 その分離した側のWCPがなんで、MVNOをやらないのですかと記者さんに聞かれましたが、自分で人に貸せるネットワークではないと思っているから、真面目に。

 いまは、WCPでMVNOできるかといえば、できるわけないじゃないですか。それは、アンテナ打ったところは高速通信できているが、面が打ててない。12月までに4万6000局できる予定。できあがってたら、ある程度のネットワークができあがる。そうすれば、WCP単体のドングルで販売開始ができるはず。

 いまはデュアル端末でないと、カバレッジが足りない。ソフトバンクモバイルとイーアクセスでやっている。

―― 昨日のツイートでPHSとAXGPとの組み合わせで将来設計を描くと書いていたが。

宮川CTO 本来、それで勝負してやっているんですから。いま、田舎の900MHzにもPHSのアンテナを載せて、PHSのエリアも広げて、AXGPに対応したハードウェアもできるようになってきた。これが出せるようになったら、本当のウィルコムがやりたかったものが完成する。

―― それでソフトバンク4Gと差別化できますか。

宮川CTO ウィルコムのユーザーとTwitter上で遊んでいると、濃い人ばっかり。彼らが求めているものと、普通の一般人が求めているものは違う。超ハイスピードでPHSの音質がついているというものをきっちりと作ってあげたいなと思っている。いま、それらが合体したスマホというのはバカみたいに高い。7〜8万円の端末をウィルコムの価格帯で提供できるわけがない。それを下げる工夫も並行してやらないといけないので、チップセットにも自分らで投資してみたりしている。

 組み合わせができるようになると、PHSのチップと、安いLTEチップを合体できるバージョンができると、ウィルコムでも展開できるようになる。時間がかかると思っている。

 あとはUQとどう戦っていくかと社内で議論していたところにUQに負けましたと説明しなくてはいけないところが今回の火種。今回の件で針のむしろですよ」

―― ソフトバンクの他のネットワークでTD-LTEというのはないのか。

宮川CTO ないですね。WCPってウィルコムのメンバーがやってくれているが、彼らがつくるWCPだから、必死でやっている。彼らのなかで、腹の底からソフトバンクに買われてうれしいと思っている人は何人いるかわからない。自分たちの箱で、名前は違えど、社員が自分たちでやっている。それはもともと近さんがCTOでいるし、僕がグループのなかで、CTOではないのはWCPぐらい。近さんがいるので、僕が入り込むのはおかしいと思っている。

 それぐらいウィルコム=WCPなので、我々が入ってきちゃダメだと思う。

 今はデュアルでやるしかないので、ソフトバンクがMVNOしているが、本来はWCPもMNOすべきですよ。

 いずれにせよ、こんなに騒いだのになんていう結果だということになりますよ。わかっています。わかっていますが、言わなくちゃいけないと思っているし、どうしても言いたい。ここだけは言いたい。

 総務省の現場の人に恨み辛みもないです。夜中まで必死にやっている姿も見ているし、細かく文章を読んで、意味を聞いてくる様子も知っている。前の2.5GHzの時も現場は必死でやっているんだけど、誰かが数字を変えているから。今回もそれがなかったかと釘を刺さないといけない。消しゴムで書き換える人がいるくらいだし。

 だから、(ウィルコムが)ああいう財務になってしまう。下はそんな点数はつけていない。

 今回の採点もUQが3でWCPが1になっているが、たぶん、昨日は違っていたはず。だいたいわかる。そこはまた矛盾だとつくと、いくつかボロが出てくる。1年、2年かかるでしょうけど、とことんやります。

―― UQと比べて、持っている周波数帯の幅に差が出てくるなかで、今後はどうのように攻めていくのか。

宮川CTO よく調べてもらうとわかりますが、3GPPのなかで、いまみんなで標準化をやっているチームがあるが、LTEという切り口で3社でどういう周波数でやっているか。僕らは言うと不利になってしまうのであまり言わないが、ソフトバンクの状況はあまり良くない。ここ数年間の周波数状況を言うと、900MHzを意地でも巻き取らない限りは相当、不利です。

 その短期的な不利な環境、見た目上は700MHzはみんな持っているように感じるが、みんな使えていない。900MHzみたいに3分の1しか使えていなかったりとか、1.5MHzはLTEという観点で行くと、我々みたいDC-HSPAが入っていると身動きが取れないようになっている。いろんな周波数があるなかで、イーアクセスの1.7GHz分があるが、総務省の指導で3分の1にしなさいと言われていたり、イーアクセスの使い方も、総務省からの目線でルールがある。

 LTEという角度で見ると、消費者から叩かれてしまう。お前ら、ぼろぼろじゃないかと。ある周波数しかないのでやりくりしますが、今回のUQ、WiMAXはシャットダウンしない限りは50MHzにはならない。WiMAX+TD-LTEという展開になる。WiMAXはスマートフォンには入ってこない。すぐシュリンクさせていく。空っぽになるまでやる。当面は20MHz対20MHz。1年半後には30MHz対20MHzになるかもしれない。そういう戦い方をするしかない。

(UQの計画に対して)

 この開設計画はくずれるのではないか。相当、無理をしている。こんなキャリアアグリゲーションをやるっていっても、今、うちはスプリントとGTIメンバーを抱えているから知っているが、キャリアアグリゲーションをいつやるかという議論を進めているものの、我々の書いた開設計画でさえ現場ではギリギリのラインと言われた。コミットで出すのはいやがられた。

 TD-LTEをわかっていてもそんな感じ。(UQは)これからお勉強してやるのに、相当、大変だと思う。

 我々はKDDIにおける2.1GHzの使い方には不満があった。

 KDDIは3年間、2.1GHzをほったらかしだった。いつになったら使うようになるんだと。使わないなら、我々にくれと言いに行ったこともある。

 その後、ちょこちょこ使うようになって、iPhoneのLTEが見え始めてから使うようになった。7〜8年間を見ると、2.1GHzの利用をしておらず、国民の資産をなんだと思っているんだと。

 電波の有効利用については、KDDIが一番横着で、2番目がイーアクセス、3番目がドコモで、最後がソフトバンク。イーアクセスがいたからあんまり言えなかったが、KDDIは本当に横着している。だから、いまLTEに変えられるバンドをむちゃくちゃ持っている。

 電波行政をコントロールしているとこういう環境を作れるんですよ。お金をかけなくて作れる。だから、こちらは買収をしかけて環境を作っていく。その分、お金がかかっていく。

 いろんな流れがあって、愚痴ばっかりになってしまうが、法廷で言わないといけない。

―― KDDIも旧800MHzと新800MHzの引っ越しに結構、お金かけていましたよ。

宮川CTO でも、ドコモも一緒でしょ。いままでそこを独占していて金儲けをしていて、引っ越しにお金がかかるなんて誤差みたいなものでしょ。

―― KDDIは3GPP2だったわけですし、LTEに集中して投資したというのは理解できますが。

宮川CTO 基地局の建設の期間を見てくださいよ。電波をもらえる自信がある人じゃないと、あんなことはできない。なんでうちが1.5GHzを早まってDCーHSPAをやらざるを得なかったかと言えば、このままのトラフィックの伸びで言うと2GHzでは入りきらないというのが見えていた。だから1.5GHzを早く作って、そのなかで、当時はフィーチャーフォンだったが、1.5GHzを入れないと持たないとやりくりした。僕らも待ちたかった。あと1年待てばLTE化できる自信があった。でも、どうしても、やらないとネットワークが倒れる可能性があった。

 一方、KDDIは横着でやれるパイプがあるってことでしょうね。我々が政治力がないといえばないということです。

取材を終えて

 孫社長も宮川CTOも総務省の廊下で吠えまくっていた。

 孫社長は「UQには総務省からの天下りがいて、電波行政に有利に働いているのではないか。グローバル企業であるソフトバンクとしては許せない。こんなのを見過ごしていたら、株主代表訴訟で訴えられてしまうではないか」というのが怒りの原点。宮川CTOは「とにかくTD-LTEの技術力には自信があるが、技術をわかる人間が審査官には皆無。第三者や海外で技術のわかる人間を集めて審議して欲しかった」ようだ。

 ネット上では孫社長や宮川CTOに対して、批判めいた言葉が浴びせられているが、彼らの話を聞いていると、いかにソフトバンクが総務省に不利な電波行政を押しつけられているかがよくわかる。一見、所有する周波数帯が他社よりも広く見えるが、実態は900MHzでも制限バンド付きであったりと、必ずしもいい条件とは言いがたい。その環境を押しつけられている普段の不満が、今回の件で一気に爆発した感がある。

 宮川CTOが認めているように、周波数的に見ると、実は不利な状況にあるソフトバンク。宮川CTOから「横着だ」と指摘されたKDDIがどのようにネットワークを整備してくるのか。不利な環境でどのようにソフトバンクが巻き返してくるのか。2.5GHzをきっかけに、ネットワーク環境の戦いが面白くなってきた。

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