Appleは「Thoughts on Flash」を発表した際、インタラクティブコンテンツの開発には、Flashの代わりによりオープンであるHTML5を用いることを、開発者に勧めていた。Googleもまた、HTML5の利用を推奨している。だが月日の流れとともに、HTML5に対する両者の考え方に変化が出てきている印象だ。その理由は“アプリ”の台頭だ。
アプリはWebブラウザと異なり、スマートフォン内部の機能を直接制御できることから、自由度が高く幅広いアプリケーションの開発が可能だ。その上ホーム画面上にアイコンを設置したり、プッシュ通知ができたりするなど、ユーザーに直接訴えかけやすいメリットも備えている。そうしたことからスマートフォンアプリの利用は現在も急速に伸びており、「App Store」「Google Play」で配信されているアプリの数は、いずれも100万を超える状況となっている。
一方プラットフォーム側からしてみれば、アプリは提供できるマーケットを自身である程度限定できるので、開発者やユーザーの“囲い込み”がしやすい。またユーザーを囲い込むことによって、多くの人がマーケットが提供する自社の課金システムを利用するようになり、そこから手数料収入が得られるという大きなメリットも備えている。
そうしたことから、AppleやGoogleは現在、モバイルにおいてはHTML5よりも、自社に都合がよいクローズドなアプリによるコンテンツ開発を推進しているようにも見える。現在のアプリ人気が一層高まっていくようであれば、オープン性の高いWebブラウザ、ひいてはHTML5などのWeb技術が“邪魔者”と見なされる可能性も、全くないとは言い切れない。
多数のユーザーを獲得したプラットフォーム事業者がアプリによる囲い込みを進める一方、そうした動きに異を唱える動きも出てきた。今年注目を集めた、「Firefox OS」や「Tizen」などの新しいモバイルプラットフォームがそれだ。
Firefox OSは非営利団体のMozilla Foundationが開発しているOS、TizenはIntelやSamsung電子を中心に多くの企業が参加して開発されているOSだ。双方共にHTML5でアプリケーションを開発できる仕組みを設けるなど、オープンなWeb技術をふんだんに活用しているのが、大きな特徴といえるだろう。
Firefox OSはWeb関連の団体、Tizenは端末メーカーやキャリアなどの企業と、それぞれ主導する組織は異なる。だが共通しているのは、やはりiOSやAndroid、ひいてはAppleやGoogleがモバイルプラットフォームを独占したことで、モバイルの技術やビジネス全体が両者に掌握される危機感があるということだ。
現在、iOSやAndroidが提供する、アプリを主体としたユーザー体験に、ユーザーは大きな不満を感じてはいない。だが2社による市場独占が長く続くことは、多くの問題を引き起こす可能性も秘めている。そうした状況を打破するべく、オープンなWeb技術を主体とした新しいOSを生み出そうという動きが進んでいる。
無論、既にiOSとAndroidが非常に高いシェアを占めるモバイルプラットフォームの市場において、両プラットフォームの考え方が受け入れられ、成功をもたらす保証はない。Firefox OSは対応製品を海外で発売する段階にまでこぎつけているが、Tizenはいまだ対応製品が登場しておらず、開発の危機が何度か伝えられるなど、必ずしも順調に立ち上がっている訳ではない。
こうした新OSがHTML5の存在価値を高めていくのか、それともiOSやAndroidが、アプリの人気を確固なものにして独占体制を強めていくのか? どの陣営が暁の水平線に勝利を刻み込めるのか、結果を予測するのは難しい。
だがスマートフォンで“艦これ”が遊べないその裏には、アプリケーション開発技術を巡る事業者間のし烈な争いがあり、今後も競争の余波を食らう形で、“PCで使えるコンテンツがスマートフォンでは使えない”といった事例が起き得る可能性があることは、提督各位が覚えておくべきだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.