インタビュー
» 2013年12月09日 20時55分 UPDATE

ZTEジャパンに聞く:“他社に負けないスピード感”でQualcommの最新LTEチップを搭載――「Pocket WiFi GL09P/203Z」開発秘話

イー・アクセスとソフトバンクモバイルから発売されたモバイルWi-Fiルーター「Pocket WiFi GL09P/203Z」は、AXGP/LTEのマルチネットワークや5000mAhの大容量バッテリーが注目点だが、Qualcommの最新LTEチップを世界で初めて採用した製品でもある。開発の舞台裏をZTEジャパンに聞いた。

[田中聡,ITmedia]

 モバイルデータ通信機能を持たないタブレットやゲーム機などで外出先でも通信するための手段として、モバイルWi-Fiルーターが重宝されている。しかし最近は「テザリング」機能を持つスマートフォンも増えており、モバイルWi-Fiルーターは不要という人も増えているだろう。モバイルWi-Fiルーター黎明期から「Pocket WiFi」シリーズを販売しているイー・アクセスは、料金、通信速度、付加機能などで一工夫施した製品を継続的に投入している。イー・アクセスはソフトバンクグループ入りしてから、2013年夏はZTE製の「Pocket WiFi(GL09P)「Pocket WiFi 203Z」を、そしてこの冬はHuawei製の「Pocket WiFi(GL10P)」「Pocket WiFi 301HW」を共同開発した。

 いずれの機種もAXGP(2.5GHz帯)、イー・アクセスのLTE(1.7GHz帯)、ソフトバンクの3G(1.5GHz帯)、イー・アクセスの3G(1.7GHz帯)という4つのバンドをサポートしており、AXGPでは下り最大110Mbpsの通信が可能だ。なかでも注目したいのが、GL09P/203Zだ。同端末はAXGPとLTEに対応した初の製品であることに加え、5000mAhの大容量バッテリーやスマートフォンへの給電機能など、モバイルバッテリーとしての役割も併せ持つ。8月の発売から時間が経ってしまったが、この話題性の高いモバイルWi-Fiルーターの開発背景について、あらためてZTEジャパン モバイルターミナル事業部 プロダクト開発部 マネージャーの関萌(はじめ)氏と、モバイルターミナル事業部 ターミナル企画部 マネージャーの荒井厚介氏に話を聞いた。

photo 「Pocket WiFi GL09P/203Z」

モバイルWi-Fiルーターの継続的な市場はある

photo ZTEジャパンの荒井氏

 ZTEは、グローバルでスマートフォンやデータ通信端末を開発しているが、荒井氏によると、今回のPocket WiFiは日本向け製品として開発がスタートしたという。「今までも日本向けに何機種かモバイルWi-Fiルーターを発売していました。今はテザリングが普及しています。そうした状況の中、モバイルルーターの存在価値はどこにあるのか? という検討を、社内とキャリアさんの中で進めていました」と同氏は振り返る。

 テザリングがあればモバイルWi-Fiルーターは不要では? とみる向きもあるが、「従来のモバイルWi-Fiルーターは、とてもたくさんの方にご利用いただいていますので、継続的な市場はあると認識していました」と荒井氏。テザリングでは代用できない点を考えた結果、大容量バッテリーとスマートフォンへの給電機能が生み出されたという。(2013年8月時点で)海外では給電機能を備えたモバイルWi-Fiルーターはなく、荒井氏によると「給電機能は世界で初めて」だそうだ。

 GL09P/203Zでは当月のデータ通信量が7Gバイトを超えると、下り最大128Kbpsに制限されることもあり、ディスプレイ(1.4インチカラー液晶)から当月の通信量を確認できるようにしたほか、各種設定も可能にした。ディスプレイには、当月のデータ通信量が上限に近づいたときに送信される、キャリアからのお知らせメールの表示も可能だ(通信量制限を解除する方法もメールに案内されている)。

 ディスプレイの表示や単体での設定に加え、日本向け製品ならではの工夫として、スマートフォン専用のWeb UIを用意した。「PC用にもWeb UIは提供していますが、スマートフォンから見たときに、PC用のWeb UIだと文字が小さくて、レイアウトもPC向けなので使いにくい――という指摘が、以前の製品でお客さんから挙がりました」と関氏は説明する。スマートフォンとPCのWeb UIの設定項目は基本的に同じだが、「ステップごとに進める「かんたん設定」は、スマートフォンで提供している」(関氏)とのこと。

photo カラー液晶でさまざまな表示が可能。本体からデータ通信量の確認や、ソフトバンクWi-Fiスポットの設定などもできる
photophoto スマートフォン用に新たに用意したWeb UI

AXGP/FDD-LTE対応の苦労

photo ZTEジャパンの関氏

 GL09P/203Zは、TD-LTE互換のAXGPと、FDD-LTEの両方をサポートしており、2つの高速通信に対応させたことの苦労も想像に難くない。関氏は「GL09P/203Zは国内用に4つ、海外用に2つの計6バンドに対応しているので、ネットワークサーチフローがものすごく複雑になっています」と語る。「ネットワークサーチフロー」とは、「簡単に言うと、どのバンドが今見えていて、どのバンドを使うかのシーケンス(並び)」(荒井氏)であり、「同時に見えているネットワークの中で、最も通信品質が良いものをつかむのが目的」(関氏)だという。「ほかにどのネットワークがあるかをバックグラウンドで検索しながら、使用中のネットワークに影響しない範囲で、次に接続するネットワークを決めています」と関氏は説明する。

 GL09P/203Zは、外出先で使える「ソフトバンクWi-Fiスポット」の回線も利用できるが、通信品質の悪いWi-Fiスポットに勝手につながる事態にはならないようにした。「例えば駅で、ソフトバンクWi-Fiスポットとモバイルデータ通信のどちらにもつながる場合、公衆無線LANは同時に接続しているユーザー数が多いので、必ずしも最適な通信を提供できるとは限りません。そうしたWi-Fiスポットにあえて接続しないような工夫も施しています」(関氏)

 Wi-Fiスポットとモバイルネットワークは個別にオン/オフができるので、そもそもソフトバンクWi-Fiスポットが不要なら、設定からオフにしておけばよい。この設定はルーター本体の画面から行える。一方で、AXGP、LTE、ソフトバンクとイー・モバイルの3Gの優先順位をユーザーが決めることはできない。

Qualcommと密な関係を築いて最新チップをいち早く採用

 GL09P/203Zは、QualcommのLTEチップ「MDM9225」を初めて採用した端末であるのもトピックの1つ。MDM9225は、3G/LTEモデムを搭載したQualcommの第3世代チップ。LTE Category4やLTE-Advancedのキャリアアグリゲーションに対応するのが特徴で、GL09P/203Zの下り最大110Mbpsの通信は、MDM9225によって実現している。ちなみに、このLTEチップは、今冬の多くのスマートフォンに採用されているプロセッサー「Snapdragon 800」にも使われている(Qualcommのブログ記事を参照)。

 AXGPとFDD-LTEへのマルチ対応も、MDM9225によるところが大きいという。前モデルの「ULTRA WiFi 4G 102Z」には1世代前の「MDM9215」をチップに採用していたが、「少なくともチップの設計には(AXGPとFDD-LTEの)マルチ対応は考慮されていない」(関氏)そうだ。MDM9225は電力の使用効率も上がっているので、長時間の使用にも貢献する。

 MDM9225をいち早く搭載できたのは、MDM9225が商用化される前に、ZTEとQualcommで密なやり取りを始めていたためだという。「Qualcommがチップ(MDM9225)を商用化することを宣言したのは2013年6月末。それからソフトウェア承認と発売まで1カ月とちょっとです。Qualcommに確認したところ、ここまで早く発売できたのは史上最速と言われています」と関氏は胸を張る。

 チップの商用化決定から発売まで1カ月半程度というのは、「通常のやり取りでは間に合わないはず」と関氏も話す。ではなぜここまで短期間で発売できたのか。それは、チップセットの開発とほぼ同時に、製品(ルーター)の開発もしていたからだという。「2012年の12月からQualcommと打ち合わせをして、最終的な目標や協力体制、問題があったときの対応フローを3社(Qualcomm、ZTE、ソフトバンクモバイル)間で決めました」と関氏。こうしたZTE、Qualcomm、ソフトバンクモバイルとの密なコミュニケーションがあったからこそ、チップの商用化から最短での発売にこぎ着けた。

 GL09P/203Zでは、LTEチップだけでなくWi-FiチップもQualcommの製品を採用している。102ZのWi-Fiチップは他社製品だったが、今回は「同じメーカーのチップを使うことで、安定性と相性の良さが向上することを期待して、Qualcommに強く要求を出した」(関氏)という。モデムとWi-Fiで同じチップを採用するメリットとして、関氏は「不具合が発生したときに問題を特定しやすいこと」を挙げる。「1つの不具合は、各部分の組み合わせで発生するので、その改修案が明確ではないときが多いのです。モデムとWi-Fiチップが違うメーカーだと、責任の所在もあいまいになり、ZTEが難しい判断をしなければなりません。また、同じメーカーなので設計段階から相性の良さが考慮されているので、問題の発生を抑えやすいメリットもあります」(関氏)

photo 前モデル「102Z」と比較

ゲーム機との互換性も厳しくテスト

 日本のキャリアの品質に関する要求は特に厳しい――という話はよく聞くが、GL09P/203Zも例外ではない。「発熱や落下試験などの信頼性や安全性のテストはスマートフォンと変わらなかった」(関氏)そうで、テストはソフトバンクモバイルとイー・アクセスの要求を合わせる形で実施された。

 GL09P/203Zはイー・アクセスからも発売されるということで、イー・アクセスが定めているPSPなどのゲーム機との互換性テストが特に厳しかったそうだ。例えば、特定のゲームタイトルを10分以上プレイしても接続が切れないか、といったテストだ。「イー・アクセスさんは、ゲーム機とバンドルでモバイルWi-Fiルーターを販売しているので、イー・アクセスの販売現場から、ゲーム機の互換性テストの要求がありました」と荒井氏は話す。もちろん膨大なゲームタイトル全てを確認するわけにもいかないので、「頻繁にゲームサーバと通信するようなゲームを、テスト項目に選んでいる」(荒井氏)そうだ。

 ルーターを長時間使うことによる「発熱」の対策も怠っていない。「発熱のシミュレーションはコンピューターで行っています。例えば、布団の中など熱が放出しにくい密閉空間の中で、充電したまま最大スループットのデータ通信をするという“最悪条件”を想定し、内部温度と表面温度をシミュレーションします。安全性と信頼性の条件をクリアしてから実機で再度検証し、最終的にクリアできる品質まで持っていきます。特に今回は通常の倍くらいのバッテリーを積んでいるので、発熱は特に気を付けました。102Zと同じくらいの基準はクリアできています」(関氏)

開発から納入までのスピード感は他社に負けない

 日本でのモバイルWi-Fiルーターは、ZTEとHuaweiの2社が多くの製品を投入している。Huaweiはインフラのノウハウを端末のネットワーク性能に生かしているという話をよく聞くが、ルーター開発におけるZTEの強みはどこになるのか。荒井氏は次のように話す。

 「インフラと端末の両方でネットワークのノウハウを持っていることは、Huaweiさんと同様に強みがあるとは思っています。(HuaweiのHiSiliconのように)自社チップベンダーは持っていませんが、Qualcommさんをはじめとするチップメーカーと非常に良好な関係を築いています。早いタイミングでオペレーターさんに納入する“スピード感は”他社さんには負けない自信があります」

 スマートフォンのテザリングが普及しつつある中、モバイルWi-Fiルーターの存在価値は薄れつつあるのかもしれない。そんな中、GL09P/203Zのような大容量バッテリー、モバイル給電機能、見やすいディスプレイ表示……といった付加機能でいかに差別化できるかが、重要なポイントの1つになるだろう。

photo GL09P/203Zを含む、これまでのZTE製モバイルWi-Fiルーター

Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.