生産工程を変えて実現したディスプレイ面の加色――「AQUOS SERIE SHL25」の秘密を聞く開発陣に聞くシャープ夏モデル(au編)(1/2 ページ)

» 2014年06月20日 15時09分 公開
[房野麻子ITmedia]

 KDDIから「AQUOS SERIE SHL25」が発売された。ドコモの「AQUOS ZETA SH04F」、ソフトバンクの「AQUOS Xx 304SH」と同じく、シャープAQUOS端末のアイデンティティである3辺狭額縁“EDGEST”スタイルを採用し、新開発のバックライト「PureLED(ピュアレッド)」によって鮮やかさを増したIGZO液晶を搭載した。

photophoto 「AQUOS SERIE SHL25」。カラーはピンク、ホワイト、ネイビーの3色

 ドコモやソフトバンクのAQUOSと共通する機能もおおいが、AQUOS SERIEだけの魅力もある。特に、EDGESTのデザインを際立たせる本体前面の塗装は、従来とは逆の製造行程をたどるため、ラインを作り直して実現したこだわりの部分だ。今回はシャープ 通信システム事業本部 グローバル商品企画センター 第二商品企画部 部長の後藤正典氏、通信システム事業本部 グローバル商品企画センター 第三商品企画部 主事の福山享弘氏、通信システム事業本部 デザインセンター 関口恭子氏に開発の舞台裏を聞いた。

photo 左からシャープの福山氏、後藤氏、関口氏

au版AQUOSの最大の特徴は“額縁の加色”

―― 今夏のAQUOS SERIEのコンセプトを教えてください。

photo 通信システム事業本部 グローバル商品企画センター 第二商品企画部 部長 後藤正典氏

後藤氏 3辺狭額縁の“EDGEST”スタイルは、2013年にソフトバンクの「AQUOS PHONE Xx 302SH」で初めて提案しました。au向け端末では、今春に発売した4.5型のコンパクトモデル「AQUOS PHONE SERIE mini SHL24」と「AQUOS PAD SHT22」で採用しています。今回はフラグシップの“SERIE”シリーズでEDGESTを採用しました。

 EDGESTも最初はデザインのインパクトでアピールできましたが、2弾、3弾となると、商品をブラッシュアップしていく必要があります。SHL25については、サイズ感を大事にして5.2型液晶を採用し、狭額縁のメリットを生かして横幅をかなり抑えました。また、EDGESTでは初めてディスプレイの縁に加色しました。そうすることで優しい印象になり、幅広いターゲット、特に女性に持っていただけるサイズやデザインに仕上がったと思います。

photophoto ディスプレイは5.2型ながら幅は71ミリで、片手でも握れる(写真=左)。ディスプレイの周りの縁にも加色している。これはシャープの夏モデルではauのみだ(写真=右)

福山氏 今回の最大の特徴は前面の加色です。通常、ディスプレイに保護フィルム(飛散防止フィルム)を付ける際に、本体(スマホの筐体)にのりを付けてレーザーで溶着します。接着部分が黒いとレーザー光を吸収して熱を発し、のりが溶けて貼り付けられるのですが、加色するとレーザーが反射してしまい接着できません。そこで、まず液晶にのりを付けてレーザーを当てて本体に接着し、その後、保護フィルムをクリーンルームで貼り付けるという行程にしました。後にフィルムを取り付けることが、精度が必要で難しかったところです。

後藤氏 EDGESTスタイルのAQUOSでは、熱で接着剤を溶かして付ける熱圧着をしています。EDGESTのデザインは額縁が狭いので、液晶を下の本体と留める幅も狭くなりますし、防水性能を持たせるために、しっかり留めないといけない。通常は工業用の両面テープで接着しますが、この幅に対応できる両面テープがなく、粘着力が弱くて防水性能も確保できない。そこで、最初のEDGESTをやったときに、レーザーで熱圧着するという技術を開発しました。

 一方で、本体(縁の部分)が黒ければ光を吸収するので熱が生まれるのですが、白いものなどを上に載せると、レーザー光が反射して熱が発生しないんです。だから接着できない。ずっと方法を検討していたのですが、今回は優しい印象を出したいので、どうしても表面加色をしたいという話になり、逆転の発想で今までの行程を変えることにしました。

 通常は液晶の上に保護フィルムを貼り付けて、それから本体に組み込むという工程ですが、今回は先に液晶だけを本体に貼り付けて、その上からフィルムを両面テープで貼り付けました。順番を変えたわけです。生産工程上はまったく逆のことをしているので、今までの設備を変えなくてはいけません。特に、液晶の上にフィルムを貼るときにホコリが入るかもしれないので、クリーンルームが必要になります。今まではクリーンルームの中に小さな液晶を持ち込んで、そこで作業していたのですが、今回は本体が流れているラインの途中で貼るので、ラインの中にクリーンルームを作らなくてはなりませんでした。

 今回は工場側の設備を変更して加色が実現できました。狭額縁を保ちながらカラーを付けるのは、実はすごく難しい技術なんです。

photo ホワイトの保護フィルム(左)と液晶+本体(右)。表面加色を実現するために、先に液晶をレーザーで本体に接着し、後から保護フィルムをクリーンルーム内で両面テープで貼り付ける。保護フィルムと液晶の接着が先だった従来とは工程が逆になる

―― 行程が変わったことで、時間が余計にかかるようになったのでしょうか?

後藤氏 最初はそういう心配もしましたが、時間的にはそれほど変わらずできました。ただ、貼り付け位置の精度は高いものが求められるので、そのあたりはかなり工夫しました。

―― 失敗することもあるんですか

後藤氏 中にはありますね。以前だったら失敗しても液晶だけで済みますが、これは本体に付けた状態で失敗になるのでロスが多い。いわゆる歩留まりが落ちるので、貼り付け精度を上げるために、位置決めについてはいろいろと工夫しました。

―― 表面加色はどんな色でもできるんですか。

関口氏 色だけでいえば、どの色でもできますし、一部だけに色を付けることもできます。ただ、アンテナやタッチパネルの関係上、金属系のミラー調のものは難しいですね。

―― 表面加色は今後も続けて出されるのでしょうか

福山氏 EDGESTが記号性になっていますので、それを使い続ける限り表面加色は続けていくと思います。

優しい印象で女性にも持ってもらえるデザインに

photo 通信システム事業本部 デザインセンター 関口恭子氏

―― 前面の加色は、デザイナーとしても強い要望があったのでしょうか。

関口氏 そうですね。今夏のドコモさんやソフトバンクさん向けのモデルは、どちらかというと男性的なデザインに仕上がっていると思うんですが、auさん向けは、女性でも手に取りやすいデザインを目指しています。全体のデザインもそうですが、特にカラーバリエにピンクを入れたりして、男女とも安心して手に取れる、親しみやすいデザインに仕上げています。

 画面をメインにして、形状はシンプルにまとめました。春モデルのSHL24(AQUOS PHONE SERIE mini)から、背面のラウンドフォルムの美しさと持ちやすさを継承しています。大画面でも、女性がしっかり持てるように形状は何度も検討しました。

 カラーは、前面に色が付いたときに映えるカラーを選びました。スタンダードなホワイト、女性を意識したピンク、男性でも持ちやすいネイビーの3色です。端末はワントーンカラーで、背面から前面にかけて同じ色で統一しています。ただ、場所によって素材が違いますので、それぞれ着色の方法も違っていて、色を合わせるのが大変でした。

 例えば先程の保護フィルム。黒い画面に明るい色が付いたフィルムを載せるので、白の場合はインク重ねの回数を増やさないと、この明るさは出せません。回数が少ないと、バックライトが漏れてくるんです。けれど、重ねる回数が多ければ多いほどズレが出やすくなります。技術担当の方に協力していただき、時間をかけて精度を上げ、色を重ねる回数を増やして真っ白を表現しました。

 電源キーやカメラリングにはアルミを採用することで、フラッグシップらしい高品位な質感を演出しました。カメラリングはダイヤカット処理でキラッと輝きます。このパーツも、薬品に付ける時間や工程数がカラーによって違います。ホワイトはアルミの生地そのものの色を生かしていますが、ピンクとネイビーは各キャビネットの色に合うように着色して、ネイビーでは2色使っています。

photo カメラリングにはアルミを採用した

―― 非常に微妙な違いですね。ここまでの違いがユーザーに伝わるでしょうか。

関口氏 完成度は何となく伝わるものだと思います。スマートフォンになって、パーツ数がフィーチャーフォンに比べると少なくなっていますし、小さい部品なんですが、しっかり作っていくことで製品全体の完成度も上がります。

福山氏 イヤフォンジャックの周囲もカラーごとに分けています。違うのは赤外線ポートとアンテナの先くらいです。

関口氏 SHL24でもやっていたんですが、カメラ窓は塗装した後に削る方法にしたので、塗装面が平滑になっています。SHL23などの場合は、成形の段階でカメラ窓が空いているので、その状態で塗装すると少しの段差でも障害になって、塗装面の平滑さは出ませんでした。

photo SHL23(左)のカメラは出っ張っているが、SHL25(右)のカメラ周りはフラットに仕上げられている

―― スピーカー孔が非常に小さい穴ですね。

関口氏 それも塗装の後から加工したので、微細孔にできました。この小ささだと、後から塗装したらふさがれてしまいます。

―― 削ると樹脂の生地の色が出てしまうと思うのですが。

関口氏 部品をはめ込むのでほとんど見えませんが、端面が出ても違和感がないように、樹脂の色はピンクは薄いピンク、ネイビーは濃い色に調整しています。

―― ドコモやソフトバンク向けのモデルはメタルフレームや金属を使って高級感をアピールされていますが、au版は親しみやすさを重視したのでしょうか。過去のモデルもフレンドリーなデザインが多いように感じます。

後藤氏 そういう流れは一貫しています。金属を使わないというわけではありませんが、今回も表面加色に代表されるような優しいイメージから入っています。我々は機能はもちろんですが、どなたにも手に取ってもらえる端末を目指して作っています。ただ、ディテールは最終的にデザインに効いてきますので、ポイントでは金属なども使って品位を出しています。

―― ボリュームキーが前モデルを継承してセンサー型になっていますが、これについての議論はありましたか。

福山氏 前モデルでセンサーキーを初めて採用して、賛否両論ありました。特にバックキーと押し間違うという声があり、そこは場所を逆にして改善しています。物理キーも、選択肢としてはあると思っています

後藤氏 実際に使っていただいた人から、使いにくいという声はそれほどないですね。

関口氏 今回、ラウンドフォルムを重視しているので、デザイン的には、キーを横に付けるよりは正面のセンサー型の方がすっきりしていいかなと思っています。

photophoto センサー型のボリュームキーがディスプレイの右下にある(写真=左)。物理キーは電源キーしかなく、側面から見るとツルンとした印象が強い(写真=右)
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