スペック表の数字を追わないのは、カメラもまた同じくだ。
iPhone 6/6 PlusのメインカメラであるiSightカメラの画素数は、800万画素。これはiPhone 5s/5cと同じであり、他社製スマートフォンのハイエンドモデルで1000万画素以上のものが出ている中で、カタログ数字の競争では劣っているように見える。しかしディスプレイ同様に、Appleがこだわっているのは「実利用環境での使いやすさ」。ユーザーにとって本当のメリットになる部分なのだ。
iPhone 6/6 Plusのカメラでは、それが「Focus Pixels」という新技術として搭載された。これはカメラ業界では像面位相差AFと呼ばれるもので、撮影に必要な撮像素子に加えてオートフォーカス測定用の素子を用意しておき、それを使って高速にピント合わせを行う技術だ。
実際に使ってみると、その効果はてきめんだ。写真・ビデオともにさくっとピントが合うため、シャッターチャンスを逃さない。子どもや動物など動く被写体が撮りやすいのはもちろんのこと、一般的なポートレートや風景写真、料理や花などをマクロで撮る時など、あらゆるシーンでオートフォーカスの速さが快適に感じられる。
このオートフォーカスの性能向上に加えて、ソフトウェア側もさらに進化し、露出補正や色調補正の精度も上がっている。以前からiPhoneは、カメラにまったく詳しくない人でも「簡単な操作で、きれいな写真が撮れる」ことで定評があったが、それにさらに磨きがかかっている。
ビデオ撮影は60fpsのフルHD動画が撮れるようになり、手ブレ補正機能も進化。ホームムービーとしては十分以上のクオリティになった。また240fpsのスローモーション動画、タイムラプスビデオモードも搭載し、FacebookなどSNSでの動画共有で“遊べる”ものになっている。
そしてもうひとつ。今回注目なのが、インカメラであるFaceTimeカメラが、FaceTime HDとして進化したことだ。
前述のとおり、今やセルフィーは世界的に流行しており、日本でも若年層や女性を中心にセルフィーを撮ることが一般化している。セルフポートレートをSNSに投稿したり、夫婦や恋人同士、家族や友達と一緒にセルフィーを撮ることは、今では日常的な行為になっていることだろう。
FaceTime HDカメラはF値が2.2になり、顔検出機能や露出制御、HDR機能などソフトウェア処理が高度化して、セルフィーがこれまでより飛躍的に撮りやすくなった。景色や料理と撮ったり、ふたりで一緒に撮るなど、さまざまなシチュエーションを試したが、FaceTime HDカメラの効果は絶大で、これまでのiPhoneよりもとてもきれいなセルフィーが簡単に撮れるようになっていた。またカメラ機能そのものの進化に加えて、デュアルドメインピクセル技術の採用でディスプレイの視野角が広くなっているため、女の子がセルフィーを撮る時に好む“斜め上からのアングル”でプレビュー画面が確認しやすくなっている。このあたりはセルフィー好きの女性にとって、見逃せないポイントだろう。
iPhone 6とiPhone 6 Plusは、これまでiPhoneがかたくなに守り続けてきた“電話機として最適なサイズ”の枠から離れて、ポストPC時代のパーソナル情報端末として可能性の拡大に踏み出したモデルといえる。それはスティーブ・ジョブズが最初に言った「電話を再発明する」というiPhoneのひとつの役割に区切りを付けたともいえるだろう。
このことを前向きに捉えるか否か。そこには個々人の考えがあり、好みも現れるだろう。しかし、今回のフルモデルチェンジで画面サイズを拡大し、それ以外の機能も大幅に強化しつつも、やみくもにカタログ数値を追い求めることはせず、あくまで「ユーザーにとっての使いやすさ」を最優先にする姿勢は、Appleの流儀から少しも変わっていない。その哲学が変わらなければ、大きな進化は、新たな可能性の広がりにつながっていくだろう。
iPhone 6はささやかに、iPhone 6 Plusは大胆に、新たな一歩を踏み出した。そして、その一歩の大きさを実感するには、このふたつのiPhoneに触れてみるのがいちばんだ。
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