小売大手もMVNOに参入している。日本のラオックスを買収したことでも知られる蘇寧雲商や国美電器、そして、携帯電話販売チェーンの迪比特実業などは、携帯電話の販売が大きく伸びており、店舗やオンライン販売で自社のMVNO回線を組み合わせることで付加価値を提供しようとしている。
これら小売り各社は、すでに各MNOと代理店契約を結んでおり、自社店舗内に事業者のロゴを掲げたミニ店舗を設営している。だが、端末販売とのセットキャンペーンを行おうにも事業者側の料金は固定となってしまう。しかし、自らがMVNO事業者になれば割引販売も自由に行える。国美電器は家族割も提供し、端末複数台をセットで買わせる戦略も打ち出している。
このように小売り業者やサービス業者が次々とMVNOに参入する一方で、端末メーカーがMVNO参入を狙う動きも起きている。11月にはレノボや青島海爾(Haier)、富士康(Foxconn)などがMVNO免許交付を受けるのでは、という憶測が流れていた。実際に、2014年11月20日のMVNO試験免許第4弾の交付は8社に行われ、その中には小米科技(Xiaomi)の名前があった。
Xiaomiは、アプリストアやメッセンジャーなど自社サービスも多く、それらと回線を自社のスマートフォンとセット販売して拡販を目指す。スマートフォンの価格破壊を起こした同社だけに、MVNOへの参入はこれまでにない価格体系を提供するのではないかと期待する関係者も多い。
小米に限らず、端末メーカー各社は自社のB2Cサイトを持っており、端末の直接販売も行っている。メーカーがMVNOを行えば、端末を買うだけで回線契約まで行えるので、ユーザーは携帯電話事業者の店舗へ行く必要がなくなる。中国ではもはやスマートフォンを買うのに外出する必要はなく、通信業者の回線契約ですらネットを使い自宅で行える。
ワンストップで端末と回線を提供することで消費者を呼び込むためにも、小売業者やメーカーのMVNO参入は今後も相次ぐだろう。形態は異なるものの、アップルの「Apple SIM」も、もしかしたら中国では早い時期に登場するかもしれない。
2014年に発行したMVNO免許は合計33社となった。ネット上では、各社が早くも料金などで競争が激化している。だが、中国のユーザーはMVNOの存在はまだまだ知られておらず、ユーザーの数もサービス開始から半年程度とはいえわずかにとどまっている。
中国工息部関係者によると、2014年9月におけるMVNO加入者数は約40万件だ。9月末の中国移動、中国電信、中国聯通3社の合計加入者数12億7700万件から計算すると、ユーザーの割合はわずか0.03%に過ぎない。新しいMVNOが次々に営業を始めているものの、長らく3大MNOの名前を見慣れていた中国のユーザーにはMVNOの名称を見てもそれがどんな会社なのか分からないのだろう。
料金が安いだけでは集客も難しい。MVNO事業者は170で始まる“新しい”電話番号をユーザーに提供している。そのため、長年使っていた自分の電話番号を引き継ぐことはできない。中国では、番号をそのままほかの事業者に移転できる番号ポータビリティーサービスは一部地域でテストを行っている段階にすぎず、利用する事業者が変われば電話番号も変わってしまう。
このような“不利な条件”を克服すべく、MVNO事業者の中には独自サービスを大きくアピールしているところもある。端末販売の楽語通訊が手がけるMVNO「妙more」は、ウェアラブルや健康機器とスマートフォンを組み合わせた健康管理サービスを提供している。健康管理サービスは無料で利用でき、同社と契約してウェアラブルデバイスを買えばその日から健康管理を手軽に行える。まだ立ち上がっていないモバイルヘルスサービスへMVNO事業者が果敢に参入する動きは、中国国内でも注目されている。
中国のMVNO試験サービスは、2015年いっぱいまで続ける予定だ。現在の状況を見ると、あと1年で加入者を大きく増やすことは難しいかもしれない。中国電子商務研究センターによると、2014年11月時点で最も加入者を集めているMVNOは、蘇寧雲商傘下の「蘇寧互聯」で、ショッピング会員を効率的に加入させているという。
ここから分かるように、しばらくはユーザーと直接接点のあるECや小売り関連業者のMVNOに加入者が集中するかもしれない。だが、スマートフォンの利用者がさらに増え、Webサービスの拡充やウェアラブルデバイスの普及が進めば、付加サービスを売りにするMVNOにもユーザーが集まっていくだろう。中国のMVNO市場は今まさに幕が上がったばかりだ。
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