乱立する格安SIM市場をドコモはどう見ているのか?――接続料から禁止行為規制の緩和までを聞く(2/2 ページ)

» 2014年12月22日 12時00分 公開
[石野純也,ITmedia]
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ドコモと直接契約している会社は少ない

―― 今は何社ほどがドコモのネットワークに相互接続しているのでしょうか。

脇本氏 弊社と直接契約している会社は、本当に少ないですね。何十社もあるわけではありません。ただ、その(MVNEの)下にたくさんの方がいます。最近はさまざまな方からご相談をいただきますが、弊社に来ても、結局はどこか面倒を見てくれるMVNEとご契約されることが増えています。ISPのように、本業ではないとハードルが少し高いのではないでしょうか。

 先ほどの禁止行為規定の話に戻りますが、そういうところをバックアップできればいいなと思っています。今はMVNEの下にどこがつながっているのかは聞いていけないことになっていますし、「ここはドコモのネットワークなのでしょうか」とお問合せいただくこともありますが、「さあ?」としか返せません(笑)。隠しているのではなく、本当に知らないのです。

 ただ、これも変なルールで、見直してほしいと思っています。例えば、M2Mをやられる方がいて、午前4時に大量の通信が一斉にあるとなれば、事前に知っておかないと設備が危なくなってしまいます。今はそんなことも聞いてはいけないのです。ガイドラインに「聴取禁止事項」というものがあり、それも合わせて見直してくださいと言っています。30条1項にも「接続情報の目的外利用の禁止」というのがありますが、そもそもその「目的」とは何なのか。協業するMVNOだとしたら、販売などに情報を利用することもありますが、今のままだとそれも目的外になってしまいます。

photo 接続の業務で知り得た情報を目的以外の目的で利用することが禁止されているが、そもそも「目的」が何を差すのかは不明瞭だ
photophoto MVNOガイドラインの「聴取禁止事項」では、MVNOがドコモに対して、顧客名、顧客の需要携帯、付加価値サービス、販売チャネルなどを知らせてはいけないことになっている。こうした情報をドコモが知らないことで、ドコモのネットワークを今後利用するであろうパートナーとのビジネスの妨げになる恐れがある

―― MVNOの中には、NTTコミュニケーションズやNTTぷららのようなグループ会社もいます。こういったグループの参入は、当初から想定されていたのでしょうか。

脇本氏 NTTグループとしては、移動体通信はドコモでというふうに想定をしています。一方で、ISPはNTTグループに限らず、ビッグローブさんやソネットさんもモバイルに出てきています。遅かれ早かれ、MVNOに参入するのがISPの生き残り術ではないでしょうか。そういう意味で、グループの参入について違和感はありません。

通信速度に対して口出しはできない

―― 今現在、MVNOで十分な速度が出ないということがあります。ネットワーク自体の性能が悪いと思われると、ドコモのブランドにも傷がつきかねないような気がしますが、ここには何か対策はありますか。

脇本氏 我々は、速度などに対して口出しすることができません。そこは、完全にMVNO各社のご判断です。ただ、皆さんレッドオーシャンの中でやられているので、つながらない、遅いというサービスは、ユーザーの評判も徐々に落ちていきます。そこをきちんとされるところが、生き残っていくのではないでしょうか。MVNOとご相談している中では、「販売チャネルを増やすなら十分な帯域を確保しないといけないし、今日明日で増やしてくれと言っても無理ですよ」ということは申し上げています。

―― 帯域を増やそうとすると、どのくらい時間がかかるのでしょうか。

脇本氏 早いですよ。年末年始や選挙期間中(インタビュー中は、ちょうど選挙期間中だった)は工事ができませんが、そうでなければ1カ月ぐらいあれば完了します。ただ、装置自体を増設となると数カ月かかりますし、そういうタイミングでユーザーが一気に増えると、おっしゃられたような問題も起きやすくなります。ですから、そこはよく考えてくださいと申し上げていますし、最近よくお話をする中では、そこが命なことはMVNOも分かっていると思います。

―― 帯域増強の話以外で、MVNOがドコモのネットワークを利用しやすくなるようなことは何かやられていますか。

脇本氏 ネットワークがつながりやすいことはもちろんですが、工事をスムーズにやっています。また、SIMカードをご用意するときに弊社の番号を書き込むSIMライターのようなものも作っていて、回線開通の手助けになっていると思います。あとは、Webサイトの整備ですね。いちいち問い合わせをしなくても分かるように、情報提供をしています。

 また、それぞれのMVNOにご要望は承っています。解決方法はさまざまですが、その都度、弊社のネットワークをいじって何億もお金をかけるのか、別の方法でやるのかは確認しています。総務省でもアンバンドルの話が出ていますが、一律で何かをすればいいというのではなく、MVNOが何を望んでいて、結果として何ができればいいのか、そしてそれをやる手段としてこういう機能を使えるようにすればいい、というふうに議論が進めばいいと思っています。

音声ネットワークの相互接続は?

―― その一環として、音声網の相互接続という話も出ていますが……。

脇本氏 確かに、音声通話については、現状すべて卸で対応しています。ただ、音声の相互接続という話は、その実態がどのようなものであるのかがよく分かりません。音声通話は弊社とだけ接続しても、他社に到達しませんから。弊社からMVNOにつながって、そこから先はどうするのか。単語は出ているのですが、どのようなことをしたいのかがよく分からないのです。

 同じように、(通信時に端末の位置を登録する)「HLR(Home Location Register)/HSS(Home Subscriber Server)」を開放してほしいという話がありますが、日本において本当に必要なのかは疑問もあります。欧州だと、異なるキャリアを結んでいくという考えがありますが、それはカバーエリアや速度が大きく違うからで、キャリアをチェンジするためにMVNO側がHLR/HSSを持つという話があります。

 一方で、日本の場合は大手3社のエリアカバー率はほぼ同じなので、そこを交代するためのHLR/HSSはあまり必要ではありません。中には、独自のSIMカードを発行するためとおっしゃる方もいますが、それは本当にHLR/HSSを持たないとダメなのか。やりたいことがもっと明確にならないと、HLR/HSSを出す、出さないが決められません。

―― 今おっしゃっていたような独自のSIMカードを発行する際には、何か別の手段があるということですか。

脇本氏 印刷の部分だけをオリジナルにしたいのか、SIMカードの中にどんな情報を入れるのかにもよりますが、課題をクリアできることはあります。例えば、今だとSIMカードはお貸ししている形になりますが、印刷部分のご相談は受けています。ただ、皆さんコストを切り詰めている中で、印刷を変えるとお金がかかるというと、「じゃあいい」となってしまいます。そういったご判断は、事業者ごとにされていますね。

photo MVNOのSIMカードはドコモと同じデザインだが、デザインを変更することはできる

―― 今後、MVNOはどうなっていくと見ていますか。

脇本氏 専業の方だけではなく、あらゆる分野の事業者がMVNOになられていいですし、今やられている専業の方々がイネーブラー的になるという方向もあるでしょう。弊社も、MVNOなのか、それよりもっと手前をやるのかはまだ分かりませんが、そういうことをご提供してMVNOになられる方を増やしたいと思っています。例えば、車の中に通信が載り、自動車メーカーがMVNOになるのでもいいですし、医療分野や教育分野にも同じことがいえます。また、エントリーユーザーを獲得するようなところも、残っていくと思います。

取材を終えて

 相互接続を始めたときと比べ、今のドコモには、MVNOを積極的に活用しようとする意思があるように見える。低価格なMVNOの登場を、競合としてではなく、これまでと違った層を獲得するための手段ととらえているようだ。禁止行為規制が見直されれば、さまざまな選択肢が生まれる。すでに多くのMVNOがあるため、KDDIのように自社でサブブランドを作る必要性は薄いかもしれないが、どこかの会社と提携してサブブランドとして打ち出していく可能性はありそうだ。

 ただ、禁止行為規制の見直しや、ドコモが主張する接続義務の撤廃については、反対するMVNOもいる。MVNOも一枚岩ではなく、ライバルであるKDDIやソフトバンクも異を唱えている。賛否両論の中、ドコモの主張が100%通すのは、難しいだろう。この問題がどのような形で着地できるのかも、今後注目しておきたいポイントといえる。

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